誘惑4
「それで」
嬉しそうなイルカは続けた。
「うちに来るのは今日にしますか、それとも明日にしますか?」
「あー、そうですねえ」
カカシは頭の中で素早く計算する。
今日は平日、明日は休み前・・・。
でもチャンスを逃すと、これっきりになるかもしれない。
明日とか言っていると任務が入るかもしれない。
善は急げだ。
「今日にします!」
カカシは素早く言った。
とりあえず休み前じゃなくても休日じゃなくてもいい。
チャンスを物にする、と。
「そうですか」
イルカは分かったと頷いた。
「じゃあ、今日ということで。簡単ものでいいなら俺、何か作りますね」
なんとイルカの手料理付きだった。
「イルカ先生の作ってくれるものなら!なんでもいいです!」
カカシは生きていて良かったと、この瞬間に勝った!と思った。
そうやって頭の中の計画が着々と進行をし始めた、とカカシが思った時だった。
「カカシ〜」
背後から呼びかける者がいた。
今、いいことなのに!
邪魔すんな、とばかりに振り向いたカカシの目の前にいたのはアンコであった。
「何か用?」
カカシは素っ気無い。
イルカと二人でいるところに水を差されたのだ。
いい雰囲気だったのに・・・。
しかしアンコはそんなカカシを臆することなく用件を述べた。
「火影さまがお呼びだよ」
「・・・は?」
「任務だって、カカシに」
「・・・・・・え?」
「至急って言っていたから、すぐに行かされるんじゃないの」
「・・・・・・・・・ばっ」
馬鹿なことを俺はこれから忙しい!イルカ先生と色々諸々あれこれとしなきゃいけない、と言おうとしたカカシは視界の隅に残念そうにしているイルカを捕らえて言葉を押しとどめた。
傍で聞いていたイルカは残念そうな顔をしながらも微笑んだ。
「任務じゃしょうがないですね」
「えー、イルカ先生」
「火影さま直々にカカシさんをお呼びだなんて、きっと重要な任務ですよ」
「そうかもしれませんが」
「早く行かないといけません」
「でも、あの、今日は・・・」
「俺のことは気にせずに。お気をつけて」
こうまで言われてはカカシも任務に行かざるを得ない。
駄々をこねてもイルカが悪印象を持つだけだ。
不承不承に渋々と。
カカシは涙を呑んで火影のいる部屋へと向かうことにした。
しかし大いに未練が残る。
今日のイルカの誘いが潰れたことに。
せっかくイルカ先生の家に行けたかもしれないのに。
二人きりでいいムードになったかもしれないに。
重ね重ね、未練が残って仕方がない。
「イルカ先生」
去り際、カカシはどうしても言いたくてイルカに言った。
正面から目を見てイルカの肩に両手を置いて。
なんだか恋人たちに別れみたいな演出で。
「今日のことは延期にしてください」
「え?ええ、いいですけど」
「俺が任務から無事に帰ってきたらイルカ先生の手料理を食べさせてください」
「あ、でも料理っていう程のものでもなくて・・・」
「それだけを心の支えに任務に行ってきますから」
「はい」
「俺のことを待っていてください、イルカ先生」
必ず帰ってきますから、と言ったところでアンコが、のんびりと口を出してきた。
雰囲気ぶち壊しだ。
「火影さまが言っていたけど命に関わる任務じゃないってさ」
腰に手を当てて、ついでに言う。
「大げさ過ぎるって。そんなことは晴れて恋人になってから言ったら?」
アンコの発言に不思議そうにするイルカ。
何のことだか分かっていないらしい。
カカシは不機嫌そうに「うるさい」とアンコを睨みつける。
だが別れ際イルカには、にっこり笑顔で「行ってきます」と言って消えてしまった。
残ったアンコは、やれやれといった感じだ。
「忙しい男だねえ、カカシも」
腕を組んだアンコは、ふうと息を吐く。
「正面から正々堂々、当たればいいのに変な小細工しようとするから」
「まあ、そんなカカシさんもいいじゃありませんか」
アンコの愚痴めいたことを横で聞いていたイルカは微笑んだ。
「いいって、カカシが?」
「はい」
「あんなカカシが?」
「はい」
驚いたアンコが何回か聞き返すとイルカは楽しそうな顔をして頷いている。
「一生懸命なカカシさん、可愛いじゃないですか」なんて言っていた。
「ふーん」
腰に手を当ててアンコはイルカを観察した。
イルカはカカシのことを嫌ってはいないようだ。
どっちかっていうと、むしろ好き?
ずばっとした性格なアンコは、ずばっと訊いた。
「イルカってカカシのこと好きなの?」
「俺がカカシさんを?」
「そうだよ」
アンコを見て、再び微笑んだイルカは、こくりと首を縦に振る。
「好きですよ、カカシさんのことは」
「その好きってさ・・・」
「好きは一つだけです」
謎めいた微笑を浮かべたイルカはアンコに一礼すると去って行ってしまった。
その後ろ姿を見送りながらアンコは呟いた。
「もしかして、もしかすると、もしかするかもってやつ?」
もちろん、その言葉の意味はアンコにしか分からない事であった。
誘惑3
誘惑5
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