誘惑3
「あ、イルカ先生」
今日もカカシが親しげにイルカに話しかけていた。
カカシの隣にはアスマがいる。
単に二人で廊下を歩いていただけのだが。
「あ、カカシさん、アスマさん」
イルカが微笑みながら返事をするとカカシは頬を緩ませたのだが。
そっと隣にいるアスマをイルカに分からぬように器用に睨む。
あっちに行け、と。
それを敏感に察知したアスマは早々に逃げ出そうとしたのだがタイミングを逃してしまった。
「この前はお誘いいただいのにすみませんでした」
イルカが先日、カカシに誘われたが結局、断ることになった件を詫びる。
「いえいえいえ、いいんですよ」
カカシは、にこにこと応じている。
「イルカ先生、仕事だったじゃありませんか。仕事じゃしょうがないですよ」
物分りのいい青年になっていた。
「そう言っていただけると助かります」
イルカは、ぺこりと頭を下げた。
「カカシさんは本当に優しいですね」と言っている。
本当にイルカは、そう思っていた。
「いやいやいや」
カカシは頭をかきながら照れていた。
「そーんなことありません」
大げさに手を横に振って、いい人をアピールしている。
本当はとっても残念に思っていたのに。
それを隠すカカシは結構、我慢強いと変なところでアスマは感心した。
思い立ったら何が何でも自分のものにするような感じだったのだが。
好きな人には優しいんだな、と思ったりしたのだ。
しばらく和やかに世間話をしていたカカシとイルカであったであったがカカシが、ふと思いついたようにイルカに言った。
「あ、そうだ!イルカ先生」
「はい」
「実はですねえ」
カカシが内緒の話でもするようにイルカに話しかける。
「ほら、前にですけどイルカ先生、とある巻物が見たいと言っていたでしょう?実は手に入ったんです」
「え?ああ!はい、そういえば」
イルカが見たいと言っていた巻物とは貴重な術が書かれている巻物で所持している者も僅かであった。
それをイルカは見てみたいとカカシに漏らしたことがあったのだ。
「言ったような気がします。でもカカシさん、よく覚えてらっしゃましたね」
不思議そうにするイルカにカカシは大きく頷く。
「イルカ先生の言ったことなら忘れませんよ」
「ほんとですか?カカシさん、俺に気を遣わなくてもいいんですよ」
「いや、そんなことないですよ」
二人は仲良しなムードが、そこかしこに漂っている。
アスマは当然のことながら居心地が悪くなった。
無性に、この場を去りたい衝動に駆られる。
「で、その巻物ですが俺の家にあるんですが・・・」
カカシが、その巻物の名称を言った時、居心地の悪かったアスマは思わず言ってしまった。
二人の会話を聞いて発生する、むずむず感から逃げたくて。
「その巻物なら、ここにもあるぜ」
「え」
「なに!」
同時にカカシとイルカがアスマを見た。
一人は目を輝かせて、一人は凶悪な目つきで。
失敗した、とアスマは瞬時に悟った。
「あ、えーっと」
逃げ口上を素早くアスマは探す。
「巻物は火影さまから借りてきていて俺はもう用が済んで、そのつまり、イルカに見せるなら火影さまもいいって言うと思うんだが・・・」
カカシの目つきに鋭さが増した。
「イルカさえよければ貸すんだが・・・」
「本当ですか?」
「あ、ああ。いいと思、う、ぜ・・・」
動揺すればするほど、言ってはいけないと思う言葉がアスマの口から次々に出てくる。
その度にカカシの目つきが恐ろしくなってきていた。
やばい、とアスマの心に警鐘が鳴り響いている。
語尾が途切れ途切れになったのもカカシの迫力に押されてだ。
とにかく、この場から早く逃げなくては。
アスマは懐から巻物を取り出すと逃げたい一心でイルカに巻物を押し付けた。
「ほら、イルカ」
「ありがとうございます!」
喜色満面のイルカの後ろでカカシの目が鬼のように釣り上がっているのを確認したところでアスマは「用事を思い出した」と言い捨てて、どろんと一瞬で消えた。
「アスマさんて親切な人ですね!」
イルカが振り向いた時にはカカシの顔は笑顔であった。
先ほどの恐ろしい顔の面影など微塵もない。
「カカシさんのお友達は良い方ばかりですねえ」
そう言われカカシは米神をぴくぴくとさせながら「まあ、そうですねえ」と言ったものの・・・。
余計なことをして、とカカシが腹の中で憤っていたりしたのは無論、イルカは知る余地もなかった。
「ところでイルカ先生」
まだカカシは諦めていない。
「その巻物、二人で見ませんか?」
さり気なくイルカを誘う。
「巻物に関連する書物が俺の家にあったりしますし」
「そうなんですか?」
カカシは勉強熱心だとイルカは素直に感嘆している。
「それに誰かと一緒に見た方が面白いですし興味も深まりますよ」
色々と理由を述べていた。
「そうですねえ」
思案した後にイルカはカカシに告げてきた。
「それもいいですけど」
ちょっと首を傾げて目だけでカカシを見てくる。
いわゆる流し目というやつだ。
多分、イルカはそんなこと意識せずにカカシを見ただけであったのだが。
ちょっと色っぽい、とカカシの胸はどきっとする。
まるで誘惑されているようだとカカシは思ってしまった。
「この前、カカシさんのお誘いを俺が反故にしてしまったので」
もしよかったら、とイルカは言う。
「今日か明日にでも俺の家で飲みませんか?」
「・・・・・・え」
まさかイルカの方から誘われるとも露ほどにも思っていなかったカカシは心の準備が出来ておらず固まってしまった。
返事もままならない。
もちろん、返事はイエスしかないのだが声が中々出てこない。
そんなカカシを、どう思ったのかイルカは慌てたように続けた。
「あ、その〜。カカシさんが嫌じゃなかったらってことですけど」
「い、嫌・・・」
やっとカカシは言葉が出た。
出たのだが、その言葉を聞いてイルカは悲しそうな顔をする。
「嫌、ですか」
「違います!」
言葉が出たカカシは勢いよく言った。
勢いついでにイルカの手も握る。
「嫌じゃないです!嫌じゃなくて、その反対です。行きます、イルカ先生の家に!」
このチャンスを逃すカカシではない。
絶対にイルカの家に行くと心に誓った。
そんなカカシの胸に内も知らずイルカは、ただ「よかった」と嬉しそうにしていたのだった。
誘惑2
誘惑4
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