誘惑2
その日の夕方のことであった。
「イルカ」」
深刻な顔をした同僚からイルカは言われた。
「明日、休みだったよな?」
「うん、そうだけど」
「実はさ、人手が足りなくて」
「あー」
「休みなのに悪いんだけど出てこれるか?」
「いいよ、しょうがないさ」
休みは別の機会に取るからさ、とイルカが笑って言うと同僚は安心したようだった。
「ごめんな」
「気にするなって」
こうしてイルカの今晩、明日の予定は変更になってしまった。
「あ、そうだ」
イルカは思い出す。
「カカシさんに誘われていたんだっけ、今日の夜と明日と・・・」
断りと謝りに行かなきゃなあ、とイルカは、どう言おうかと早くも考え始めていた。
その頃。
上忍控え室でカカシは本を読んでいた。
いつも持ち歩いている本である。
控え室には紅、アスマ、アンコもいた。
「カカシ」
紅がカカシに話しかける。
「なーに?」
本から目を離さずにカカシは答えた。
そんなカカシを横目で見ながら紅は言う。
「本が逆さまよ」
カカシは黙って本の上下をひっくり返した。
「ぜんぜん、読んでないようだけど」
アンコが茶々を入れる。
「うるさいなあ」
じろっと睨みつけられてアンコは肩を竦めた。
「集中できないのかな〜?」とからかわれるとカカシは、ぱたんと本を閉じた。
「いいでしょ、別に」と斜に構える。
腕を組んで、ちょっとむっとしていた。
「恋する男は色々考えなきゃならないことがあるんだから」
きっぱり言い切った。
「恋!」
「恋?」
俄然、色めき立ったのは女性陣であった。
「やっぱり恋をしているのね!」
「そっかそっか、恋なんだ〜」
何故か嬉しそうにしている。
ちなみにアスマは、その場にいたものの危険を察知して我関せずと口を挟むことはなかった。
「やっぱり相手はあの子なの?」
「意中の相手は、最近、接近しているあの人なの?」
らんらんと目を輝かせて訊いてくる。
「あのねえ」
そんな女性陣に辟易しながらカカシは、なんとか攻撃を回避しようとしていた。
「誰だっていいでしょーが、っていうかあの子とかあの人って誰のこと?」
「誰でもよくないわよ」
「誰でもよくないよ」
同時に言われカカシは渋い顔をした。
「なんで、その子のこと好きになったの?」
「そうそう、聞きたい聞きたい」
「あのねえ、君たち・・・」
説教モードもカカシが入ろうとした時に控え室の扉が叩かれた。
「あ!はい、どーぞ」
一瞬で誰か分かったカカシが返事をすると扉が、すっと開かれた。
立っていたのはイルカだ。
「こんにちは」
控え室の皆に挨拶をするとイルカは視線をカカシに移した。
「すみません、カカシさん、お話があるんですけど」
「なんでしょう?あ、場所を移しますか?」
そんなカカシは既にイルカの隣にいる。
にこにこしてカカシが言うとイルカは、今日と明日のことなんですけどと前置きしてから言った。
「大変、申し訳ないんですが急に仕事が入ってしまいまして」
カカシに深々と頭を下げる。
「せっかく誘ってくださったのにすみません」
丁寧に謝られた。
「・・・・・・え」
固まるカカシ。
「本当にすみません、人手が足りないようなので俺も明日は休まずに仕事に出ます」
「それは・・・」
「俺のことは気にせずにカカシさんはゆっくり休んでくださいね」
それだけ言うとイルカは、もう一度、頭を下げた。
上忍控え室の扉は閉められてイルカは去って行ってしまった。
ががーんという感じでショックを受けたカカシは扉の前で立ち尽くしていた。
「カカシ、残念だったわね」
「そう気を落とさずに」
さすがに気の毒に思ったのか、紅とアンコが慰めてくれる。
「次のチャンスがあるわよ、きっと」
「果報は寝て待てって言うじゃん」
「くーっ」
カカシは悔しそうに歯噛みしていた。
紅とアンコが言ったことは耳に入っていないようだった。
「この日のために綿密に計画を立てていたのに〜」
そうとう悔しがっている。
「あれもこれもイルカ先生のために用意して手順も段取りも何回もシミュレーションしたのに!」
しかしカカシも、めげてはいなかった。
「よーしよし!次の機会に賭けよう!準備しなくちゃ〜ね」
妙に奮起して控え室を出て行ってしまった。
「カカシって意外に情熱家だったんだね」
アンコがぽつりと言うと紅が首を振った。
「違うわ、ただ単に執念深くて、しつこいのよ」
「でも諦めないのがすごいよね」
「というか相手はカカシの想いにこれっぽっちも気がついてなさそうよ」
「いつ、気がつくのかねえ」
女性二人は顔を見合すと、はあっと溜め息を吐いた。
「むくわれないねえ、カカシは」
声を揃えて言う。
ずっと成り行きを見守っていたアスマは心の中で呟いた。
まあ大人同士だから、なんとかなるんじゃねえのか・・・。
カカシは自分の好意を伝えるのが苦手でイルカは人の好意に気づくのが苦手なだけで。
・・・伝えるのが苦手で気づくのが苦手って、もしかして致命的か?
ふっとタバコの煙をアスマは吐き出した。
いや訂正、一発逆転がない限り二人がくっ付くのは無理かもしれん、と。
誘惑1
誘惑3
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