天使の気持ち2
まあ、でも、と俺は逃げるように去ってしまったイルカ先生を想い、密かに溜め息を吐いた。
きっと、伝わってないよなあ、俺の好意は・・・。
だってな〜。
ポケットに手を突っ込んで歩きながら俺は、あることを思い出した。
以前、イルカ先生が俺の家に来た時、二人で酒を飲んだのだが、その時、俺は酔った振りして半分冗談半分本気で、ふざけた振りしてイルカ先生をベッドに押し倒してみた。
ベッドにだ。
重ねて言うが、ベッドにだ。
ベッドに押し倒されたら、普通、危機感持ったりしないか?と俺は思う。
イルカ先生に俺の気持ちをさり気なく解ってもらいたいという下心もあったことは認める。
だが、しかし!
結果、惨敗だった。
俺に押し倒されたイルカ先生は、子供同士のふざけっこか何かと思っていて、楽しそうに笑っていただけで。
ち〜っとも俺に危機感を抱いてなんていなかった。
同性同士ってのもあるけど、なんていうか、ほんと、仲に友達か兄弟みたいな感じで。
気を許されて信頼されているのは嬉しいけど、でもさ〜。
もう少し、こう、俺のこと意識してくれたっていいんじゃないの?
俺は再び、深々と溜め息を吐いたのだった。
気がつくと足は受付所に向いていた。
無意識のうちにイルカ先生のいる方へと来てしまったらしい。
俺って、こんなにもイルカ先生のことが好きなんだなあ。
受付所の扉は閉まっているので室内は見えない。
この中にイルカ先生がいるんだよなあ。
今日の俺の任務は終わって報告書は提出済み。
受け所の中にいるイルカ先生に会うには、どうしたらいいか・・・。
受付所の扉の前で佇んでいると中から何やら声が聞こえてきた。
穏やかではない、どちらかというと言い争っているような雰囲気の。
耳を済まして聞いてみると、何やらイルカ先生が責められている様子だ。
受付の交代に遅れたことが原因で。
イルカ先生は真摯に謝っているのだが、相手は怒りが収まらないらしい。
受付所の仕事の交代時間に遅れたことをイルカ先生が責められているのなら、原因と責任の一端は俺にあるような気がする。
ちょっと引き止めて話しちゃったしね。
でしゃばるのもどうかな、と迷う間もなく俺は受付所に足を踏み入れていた。
結果的にイルカ先生と助けることになり感謝されたのだが・・・。
これでよかったのか、と俺は考えてしまった。
去り際に見たイルカ先生の顔が頭をよぎる。
その顔は、ちっとも嬉しそうではなくて、逆に苦しそうに見えた。
なんていうか、自戒に満ちた表情とでもいうのだろうか。
イルカ先生は自分自身を責めているような気がする。
自分の至らなさを反省しているがごとく・・・。
余計なことをしてしまったのだろうか、と俺は、とても不安に陥ったのだった。
イルカ先生の受付所の仕事が終わるのを待って、偶然を装って会おうと計画してみた。
話したいこともあったのだが、生憎とこんな時に限って任務が入ってしまっている。
簡単な任務で明日の朝には里に帰ってくるけれど、任務に発つ前にイルカ先生に会いたかった。
一目、顔を見てから行きたかった。
落ち込んでいるなら俺が慰めてあげたかった。
できることなら抱きしめたい。
・・・それは今は、まだ叶わないけれど。
夜、イルカ先生が受付所の仕事を終えて建物から出てくるのが見えた。
木の陰から、そっと伺う。
とぼとぼと歩くイルカ先生の後ろ姿は寂しげだった。
肩を、しょんぼりと落として力がない。
そんなイルカ先生を見るのは忍びなかった。
ぎゅっと胸が痛くなってくる。
きっと中忍試験でもことが尾を引いているんだな、イルカ先生の中では。
早く解決というか、仲直りしないと亀裂がもっと深くなってしまうのではないか。
もしかして修復不可能のなってしまうかも。
俺は焦りながらも気配を消して、話すチャンスがないものか、とイルカ先生の後を追いかけたのだった。
うまい具合にイルカ先生は、とあるラーメン屋に入っていた。
夕飯を、そこで食べるつもりらしい。
イルカ先生はラーメンが大好きだからなあ。
俺も何度か一緒に来たことがあるラーメン屋だ。
よし、ここなら!と思い俺は勇んでラーメン屋に入った。
幸い、俺も夕飯まだだったし、イルカ先生と偶然、出会ったとしても全く不自然な場所じゃない。
ラーメンを間に話ができるかもしれないし。
俺は少しだけ胸を、わくわくさせていた。
俺がラーメン屋に入った途端、イルカ先生の顔色が変わった。
緊張したようだった。
・・・失敗したかな、俺。
楽しそうにラーメンを食べていたイルカ先生が、一気に心配そうな顔になる。
せっかく、楽しそうだった顔を久しぶりに見れたのに。
心の中で今日、何回目かの溜め息を吐いてしまったが、表には出さなかった。
俺の横で急いでラーメンを食べ終わったイルカ先生は礼儀正しく俺に一礼し、代金を払って店を出ようとしていたが・・・。
急に服のポケットを探り始めた。
どうやら財布が見つからないらしい。
小さな声で「落とした・・・」と言う声が聞こえた。
ラーメンを食べ終えていた俺は素早く財布を取り出すと、躊躇なく自分とイルカ先生のラーメンの代金を支払う。
そしてイルカ先生の手を掴むと店の外へ出たのだった。
天使の気持ち 1
天使の気持ち 3
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