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災い天使5



財布がない。
ここにあると思ったのに。
俺の背筋に冷や汗が流れた。
ついでに顔から血の気も引く。
あの財布にはお金が入っている。
大事なものだ。
でも、それよりも・・・。
俺の脳裏に四角い黒っぽい形の財布につけてある、小さな鈴が思い浮かんだ。
小さな鈴は黄金色で、ちりん、と可愛らしい音を響かせる。
鈴はお土産で貰ったものだった。
カカシ先生に。



いつだったか、カカシ先生が任務先で買ってきてくれて俺にくれたのだ。
「縁結びの神社の鈴なんだそうですよ。」
あの時、カカシ先生は、ちょっと照れ笑いを浮かべながら俺に鈴をくれた。
「しゃれ・・・で買ってきてしまいました。」
そして、ほら、とカカシ先生が見せてくれたカカシ先生の財布にも俺にくれたものを同じ鈴がついていた。
嬉しそうに「お揃いですね」と言っていた。
俺も貰った鈴をカカシ先生に倣い、財布に付けた。
カカシ先生から鈴を貰って、とても嬉しかったのに覚えている。
鈴のついた財布も鈴の音も気に入っていたのに。
それなのに。



失くしてしまった。
ずーんと落ち込んでしまう。
お金のことも気になるけど、人様がいただいたものを失くしてしまうなんて。
そっちの方がショックだった。
二度と手に入らないものを失くしてしまった感じだ。
喪失感が俺の胸に襲ってくる。
瞼の裏には鈴のついた財布が、はっきりと焼きついているのに。
それを失ってしまったのだ。



念のため、近くにいた同僚に財布が落ちてなかったか、尋ねてみたが答えは否だった。
そっか・・・。
無い物はしょうがない。
俺は財布が落ちていたら保管しておくように同僚に頼み、受付所にと向かった。
足取りは非常に重く、それは俺の気持ちを表しているかのようだった。




朝の受付所は忙しい。
落ち込んでいた気持ちも忙しさでまぎれてきた。
まぎれてきたものの、気を抜くと溜め息が出そうになる。
あー、どうしよう・・・。
依頼書を渡したり、報告書を受け取ったりしながら俺は暗い気持ちを拭いきれない。
財布、どこにいったんだろう。
昨日の記憶を辿ってみるが思い出せない。
思い出せないのが余計に気持ちを暗くさせた。
なんで思い出せないんだ、俺!と叱咤してみたものの思い出せない・・・。
朝、少し人が途切れたので考え込んでしまっていた。



「任務の依頼書、もらえます?」
その声に、はっとなって声のした方を見ると声の主は、にこりと笑っていた。
爽やかに。
清々しく。
カカシ先生だった。
その顔に、一瞬、見蕩れて俺だったが、再び、はっとなって急いでカカシ先生の担当の班の任務の依頼書を手渡した。
「・・・どうぞ。」
「どうも〜。」
依頼書を受け取ったカカシ先生は俺を、じっと見ている。
俺もカカシ先生を凝視してしまった。



昨夜の任務から帰ってきたんだ。
良かった、怪我もしてないようだし・・・。
無事な姿に安堵する。
だけど、すぐに気まずさが俺の心の中を埋め尽くした。
財布の一件である。
財布がないと借りたお金も、今すぐには返せないし、何より財布にはカカシ先生がくれたお土産の鈴もついていた。
二重の意味でカカシ先生の申し訳ない。
申し訳なくなって俯こうとした時、カカシ先生に静かに手を取られた。
手と取られて、手の平を上にさせられる。
「はい、これ。どうぞ。」



ぽんと手の平に置かれたのは俺に失くしてしまった財布だった。
見覚えのある黒っぽい財布には小さな鈴がついており、黄金色に光っている。
「え、これ・・・。」
つい、信じられないといった風な表情が顔に出てしまった。
だって、これ。
どこにあったのか、なんでカカシ先生が持っていたのか。
不思議だらけじゃないか。
ぽかーんとカカシ先生を見ていたのが、おかしかったのかカカシ先生が、くすっと笑った。
「なんでって顔してますね。」
こくこくと頷くとカカシ先生は、にこやかに説明してくれた。



「ほら、昨日、イルカ先生、財布がないって探していた時に、落としたって言っていたでしょう?」
「はあ。」
そんなこと言ったっけ?
言ったとしても呟き程度だと思うんだけど、よく、そんな細かいことまで覚えているなあ、カカシ先生。
さすが上忍だなあ。
「で、俺、思いだしましてね。」
がりがり、とカカシ先生は頭を掻いた。
「昨日、イルカ先生が階段から落ちそうになった時に、もしかして財布を落っことしたんじゃないかと思って。」
それで階段付近を探してみたらあったんです、なんて言う。
そうか、階段から落ちそうになった、あのときか!
それは思いつかなかった・・・。



「あ、りがとうございます。」
俺は深々と頭を下げた。
よかった、という思いが胸に沁みる。
よかった、財布が戻ってきて。
よかった、カカシ先生がくれたお土産の鈴も無事で。
ほっと胸を撫で下ろした。
「いいんですよ。」
カカシ先生は俺の財布の鈴を指差した。
「それより、その鈴、大事にしてくれているんですね。」
「えっ、ええ。はい、とても気に入ってます。」
「そうですか〜。」
ものすっごく嬉しい、といった感じの顔になったカカシ先生の目じりは垂れ下がった。
「俺も大事にしていますよ〜。」
わざわざ、自分の財布も取り出して見せてくれた。



きらりと光る鈴は俺と同じものだ。
ちりん、と可愛い音がした。
「じゃ、俺、任務に行って来ますね〜。」
「はい、行ってらっしゃい。」
思わず、そんな言葉が出てしまったのだが、カカシ先生は気を悪くはしなかったようだ。
どちらかというと、その正反対みたいで、とても気を良くしたようで。
「じゃ、また、後でね〜」と言うと行ってしまった。
後で、というと話があるって言っていた件かな?




カカシ先生が行ってしまった後、一連の流れを隣で見ていた同僚に言われた。
「はたけ上忍とイルカって、ほんと仲いいな。」
仲がいい?
「でも、俺、中忍試験で・・・。」
カカシ先生と派手に喧嘩、というか逆らったというか上忍に立て付いたのに。
「そりゃあ、喧嘩みたいのしていたけど。」
同僚が肩を竦めた。
「喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか。」
喧嘩するほど仲がいい・・・。
その言葉は俺の胸に深く刻まれたのだった。





災い天使 4
災い天使 6







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