災い天使4
カカシ先生に手を掴まれてっていうか、握られて歩くこと数分、人けのない場所へと連れて来られた。
いったい、何が?
じゃなくて、何か言われるのだろうか。
財布を忘れてラーメン食べているなんて注意散漫だとか・・・。
ふっと、気持ちが暗くなった。
代金を払ってくれたカカシ先生にお礼を言わなきゃならないのに。
胸がどきどきして喉が、からからに乾いて言葉が出てこない。
肝心な時に俺って、いっつもこうだ。
カカシ先生の顔が見られなくて俯いていると「イルカ先生」と呼びかけられた。
それでも俺は顔を上げられなかった。
カカシ先生は構わずに話しかけてくる。
握っている手は、そのままに。
カカシ先生は優しい手つきで俺の手を握っており、やけに温かかった。
「イルカ先生、会えて良かった。」
柔らかい口調でカカシ先生は言う。
人の気持ちを落ち着かせ、穏やかにさせるような声だ。
「俺、これから任務なんで。」
任務?
俯いたまま、はっと目を見開く。
これからカカシ先生は任務なのに。
任務前の人に気を遣わせてしまうなんて。
俺は俯かせていた顔を上げてカカシ先生を見た。
にこ、とカカシ先生が笑うのが暗い夜道でも分かった。
「任務・・・、危険なんですか?」
真っ先に、そんな言葉が出た。
カカシ先生ほどの上忍なら危険な任務が課せられる。
「イルカ先生、心配してくれるの。」
何やら嬉しそうな声がした。
心配っていうか・・・。
任務に行く人、全員が無事に帰ってくるように願うのは当たり前だ。
どんな任務でも心配するし、その人の身の安全を願うものである。
でも、やっぱり。
「・・・心配です、とても。」
カカシ先生に無事に帰ってきてほしい。
怪我なんかしないで、元気な姿を俺に見せてほしい。
たとえ、俺のことを嫌っていてもいいから・・・。
これはカカシ先生だから起こる感情なのだろうか。
任務に行く子供たちや友人に思うのとは少し別な感情のような気がする。
「そっかあ。」
カカシ先生は顔の覆面を下ろして相好を崩した。
任務前なのに気が緩んでいないんだろうか。
任務に油断は禁物なのに。
俺が案じているのが顔に出たのだろう。
カカシ先生は握っていた俺の手を、もう片方の手で、そっと撫で擦った。
「そんなに心配しないでください。ちょっとしたお使いみたいな簡単な任務なので、明日の朝には里に帰ってきます。」
そうなのか・・・。
ちょっと、ほっとする。
「だから」とカカシ先生は内緒話でもするように自分の口に立てた人差し指を当てた。
「昼間に言っていた話は帰ってきてから、明日にでも。」
ね、と微笑まれて俺は頷くことしかできない。
そういえば、昼間、受付所へ行く前にカカシ先生、俺に話があると言っていたような・・・。
すっかり忘れていた。
「じゃ、俺、行きますね。」
カカシ先生が繋いでいた俺の手を、ゆっくりと離す。
「帰ってきてから、また会いましょう。」
その言葉を残し闇夜に消えていった。
消えていくカカシ先生に俺は叫んだ。
「あのっ、代わりに支払ってくれたラーメン代、必ずお返ししますから!」
俺の言葉にカカシ先生が、どこかで、くすりと笑ったような気がした。
家に着き、どっと疲れた俺はベストを脱ぎ捨てベッドに倒れこんだ。
色々あった一日だった。
こんなにもカカシ先生と接触が多くなる一日だったなんて。
中忍試験以来、碌に話していなかったのに。
なんでだろ?
急に、こんなに距離が近くなるなんて変だよなあ。
そりゃあ、カカシ先生と仲直りというか、元の関係に戻りたいとは思うけど。
うつらうつらとしていると、だんだん瞼が落ちてきた。
カカシ先生と親しい関係に戻りたい、何故って、それは・・・。
心の端っこの方で声がする。
カカシ先生のことが、・・・・・・だから。
そっか、・・・・・・なんだ。
夢の中で、その答えに納得した俺だったけれども朝になったら、すっかり忘れていたのだった。
窓から注ぎ込んできた明るい日差しで目が覚めた。
いつになく気持ちが、すっきりとしている。
こんな気持ちよく起きたのは中忍試験でカカシ先生と喧嘩してから始めてだ。
昨日、カカシ先生に優しくされたからかな・・・。
俺って単純、と思わざると得ない。
苦笑が顔に浮かんだが気づかない振りをした。
大きく伸びをして俺はベッドから起き上がる。
今日は午前中は受付所で午後からアカデミー勤務だ。
受付所に行く前にアカデミーに寄って財布を取りに行かないと。
そしてカカシ先生にお金を返さないとな。
心に強く思う。
だって金の切れ目が縁の切れ目って言うし。
カカシ先生との縁、もしかして疾うに切れているかもしれないが・・・。
せっかく明るい気持ちだったのに、自分で自分に水をさしてしまった。
いけない、いけない。
俺は頭を振ると気持ちを切り替えた。
今日も一日頑張ろう!
そうして出勤し、受付所へ行く前にアカデミーへ寄った。
自分の机に引き出しにあるはずの財布を取りにきたのだ。
だが、しかし。
アカデミーの机の引き出しのどこにも俺の財布はなかった。
一気に目の前が暗くなった俺だった。
災い天使 3
災い天使 5
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