災い天使3
急いで受付所へ行くと機嫌の悪い同僚が待っていた。
理由は俺が交代に遅れたからだ。
「すまん。」と手を合わせる。
「遅い!」
同僚はご立腹だった。
「今日だけは交代に遅れないように頼んだじゃないか。」
不機嫌な顔をしている。
「遅れてごめん。本当に悪かった。」
頭を下げて許しを請う。
「今度から気をつけるから。」
しかし日頃、温厚な同僚は珍しく怒っていた。
今日は、これで仕事が終わりなはずだから大事な用でもあったのだろう。
恋人とデートとか。
幸い、今、受付所に人はいないので俺は、ひたすら謝った。
同僚は怒った声を出した。
「どうしても見たいテレビがあったのに!」
・・・・・・テレビ?
って子供か、お前は、と言いそうになって、俺は危うく言葉を飲み込んだ。
駄目元で訊いてみた。
「あのさ、録画とかしてないわけ?」
「してるけど。」
してるのに何故?と疑問が俺の顔に浮かんだのだろう同僚が言い訳するように喚いた。
「録画していてもリアルタイムで見たいじゃないか!」
えっと・・・。
俺は言葉に詰まる。
ここは何と言ったらいいんだろう?
交代への遅れは詫びるとしても、テレビに関してはどうしようもない。
「そうなんだ〜、それは悪かった〜ね。」
俺たち二人が口を閉ざして見詰め合っていると、どこからか、のんびりとした声が聞こえてきた。
はっとして声の方へと顔を向けると、そこにはカカシ先生がいた。
両手をポケットに突っ込んで立っている。
いつの間に受付所に入ってきたんだ。
全然、気がつかなかった。
カカシ先生は同僚に、のんびりと告げた。
「イルカ先生は俺が話をしていて引き止めちゃってね〜、それで遅れたの。」
「あ、そう・・・。そうだったんですか。」
突然のカカシ先生の出現に同僚は怯んでいる。
「そうなの。だから俺の所為なんだよね〜、イルカ先生の遅刻は。」
ごめんね、と上忍のカカシ先生に謝られて同僚は大慌てて手を横に振っていた。
「いえ!いいえ、ちっとも全く大丈夫です!お気になさらずに!」
「なら、よかった。」
にっこり笑ったカカシ先生は手の平を、ひらひらと振って「じゃあね〜」と受付所を出て行ってしまった。
出て行く際に同僚に気づかれないように俺にウインクしてきたのは、どういう意味なんだろ?
カカシ先生がいなくなった受付所は静まり返っている。
まあ、俺と同僚しかいない訳だけど。
同僚は毒気を抜かれたように俺に言ってきた。
「さっきは言い過ぎた、俺の方こそごめんな。」
「あ、いや。俺が遅れたのは事実だし。」
もう一回、ごめん、と謝ると同僚は「いいってことさ」と陽気に笑ってくれたのだった。
受付所を交代し、順調に仕事をしながら俺は頭の片隅で考えた。
カカシ先生に、また助けられてしまった・・・。
助けられたというか庇われてしまった・・・。
受付所への遅刻のことを知られてしまった・・・。
総て自分が悪いと解っているので、心底、自分が嫌になってしまう。
深い自己嫌悪に陥った。
俺はカカシ先生に何回、情けない姿を見られてしまったんだろう。
恥ずかしい。
・・・・・・自分なんて、いなくなったてしまえばいいのになあ。
そんなことまで考えてしまった。
しかし、いなくなることなんて出来やしない。
せめて仕事だけは、きちんとやろう。
そう思って、受付所の仕事を黙々とやった俺だった。
受付所の仕事が終わり家に帰る頃には空は真っ暗になっていた。
夜道を、てくてくと歩く俺。
心の中は何十回もした後悔とか懺悔とか反省とかの渦。
最近、ずっと、こんな調子だ。
俺って駄目なやつだ、と何回も思ったりして。
夜空を見上げて、はあ、と俺は息を吐いた。
うまくいかないなあ、人生って。
こんな気分の日は家に帰っても飯の支度も億劫だ。
好きなものでも食べて元気を出そう。
俺の足は自然と通い慣れたラーメン屋へと向いていた。
ラーメン屋で大好きなラーメンを、ほくほくしながら食べていると人が入ってくる気配がした。
美味しくて人気のある店なので常に客足は途絶えることはない。
入ってきた人は俺の隣に腰を下ろしたようだった。
俺はラーメンが美味くて、食べることに夢中で隣を見る余裕もなかったが注文する声を聞いて、ぎょっとする。
ぎょっとして隣を見るとカカシ先生だったんだ。
カカシ先生は俺を見ると微笑んで「こんばんは」と声を掛けてきた。
「こ、んばんは。」
俺も挨拶を返す。
なんで、ここにカカシ先生が?
多分、俺と同じく夕飯にラーメンでも食べに来たんだろうけど。
カカシ先生が隣にいるを認識した途端、俺はラーメンの味が分からなくなってしまった。
隣に座られただけで、えらい緊張する。
また、自分が失敗したり変なことをしないか不安になってきた。
大丈夫かな・・・。
隣のカカシ先生を、そっと伺い見ると注文して来たラーメンを美味そうに食べている。
ここに来た目的は、単にラーメンを食べにきただけらしい。
ちょっとだけ、ほっとしてラーメンを食べ終わった俺は立ち上がった。
カカシ先生に黙礼だけする。
そしてラーメンの代金を払おうとポケットに手を入れた。
財布を取り出すために。
だけど、そこには財布はなかった・・・。
えっ、と焦った俺は着ている服のポケットを全部、探してみたが財布は見つからない。
なんでないんだ?もしかして。
「落とした・・・。」
いや、昼に財布を見た覚えがあるから、おそらくアカデミーの机の引き出しか、どこか忘れてきたに違いない。
なんてこった。
給料日までに食い繋ぐ金、全財産が入っているのに。
ががーんと落ち込んでいると隣でカカシ先生の声がした。
「これ、俺とイルカ先生のお金です。」
俺の分までラーメンの代金を支払ってくれている。
カカシ先生、食べるの早っ!じゃなくて・・・。
「あの、俺・・・。」
そんなことしていただく謂れがありません、と断ろうとした俺の手をカカシ先生は、さっと掴んだ。
そして店の外へと連れ出されたのだった。
災い天使 2
災い天使 4
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