W 9
大門が見えて何人かの忍びが集まっているのが見えた。
その中に、あの人の姿も見えた。
あの人、イルカ先生だ。
「イルカ先生!」
大声で彼の名を呼ぶと、こちらを見た。
が、すぐに顔を逸らされる。
避けられたことにショックを受けたが、ここで、めげてはいけない。
「イルカ先生。」
集まった忍の中に割り込み、イルカ先生の正面に立つ。
しっかりと、イルカ先生の肩を両手で置いて。
「イルカ先生、ごめんなさい。俺、嘘をついていました。本当は俺達恋人同士じゃなかったんです。」
イルカ先生の顔は俯いていて見えない。
でも肩に置いた手から体の震えが伝わってきた。
「でも恋人の関係になりたかったから恋人だって言ってしまったんです。」
周りが俺達に注目し始めたが、もはや形振り構っていられない。
「それから、俺の記憶は全部戻りました。」
ここからが正念場だ。
頑張れ、俺!
深呼吸して。
はっきりと。
「記憶がなくてもあっても、俺は!」
もう一度、深呼吸。
「俺はイルカ先生が好きなんです!」
自分の心臓の鼓動が痛いほど早い。
緊張で倒れそうだ。
でも、頑ななイルカ先生に言わないと伝えないと。
「だから、俺から遠く離れたりしないで、お願い。記憶が戻った俺がイルカ先生に会いに行かなかったのは怖かったからなんです。別れなきゃいけないと思って。」
イルカ先生に俺の想いは伝わるだろうか。
今にも手を振り解かれそうで。
そのまま、腕の中に取り込んだ。
「ごめんね、辛い思いをさせて。ごめんね、嘘をついて。」
抱く手に腕に力をこめた。
「あなたがいない里になんて帰ってきたくない、ずっと里にいて俺と一緒にいてください。」
自分が都合のいいことを言っているのは分かっているが。
でも、引けないんだ。
退くことはできない。
「イルカ先生、好きなんです。記憶が戻る前に、あなたに五回も告白してふられてしまいましたが、それでも好きなんです。好きなんです、イルカ先生。」
もはや、俺は叫び声のようになっていた。
「俺のことを怒っても何してもいいです、でも好きだと言う気持ちは変えられません。」
愛しています、イルカ先生!と言おうとしたら口を塞がれた。
イルカ先生の手の平で。
腕の中のイルカ先生を見ると、俺を見ていた。
顔が少しやつれていた。
一週間、思い悩んでいたんだろう。
申し訳なくなってきて塞がれた口で「ごめんなさい。」と、もごもごと謝った。
続けて、もごもごと「好きです。」とも言うと、やっとイルカ先生の声が聞けた。
「も、もう、言わないで。」
「え?」
軽くショックだ。
俺の愛は伝わらなかったのか。
「こ、ここで、もう言わないで。」
「え?」
イルカ先生は、真っ赤になっている。
「わ、解りましたから。その、ここではもう言わないでください。」
「解ってくれたんですね!」
良かった!
「俺の愛が解ってくれましたか!」
「は、はい。」
イルカ先生は大急ぎで頷く。
「じゃあ、里にいてくれるんですね?」
「そ、それは・・・。」
「駄目なんですか?」
「あ、あの、任務が・・・。」
ぽんとイルカ先生の肩が誰かに叩かれた。
イルカ先生と一緒の任務を受けているだろうと思える忍の一人。
「いいよ、イルカ。里に残れよ。」
「でも。」
「元々、イルカは追加のメンバーだったし。いなくても不備はない。」
「ごめん。」
俺の腕の中から、イルカ先生は謝った。
「いいってことよ。」
その忍は、にやりと笑ってみせて。
「こんなに見せつけられたら、引き離すのが野暮ってもんさ。」
なかなか話が分かるやつだ。
いい奴だな。
最後にそいつが「お幸せにな。」と云うと周りから拍手があがった。
「お幸せに。」「お幸せに。」って声がする。
ああ、なんか結婚式みたいだ。
ふふふ〜と笑っていると。
どん、と突き飛ばされた。
俺の気が抜けたところを付いてイルカ先生押したのだ。
「ま、まだ、許したわけじゃないですからね。」
俺を睨みつけてくるが。
おそらく、ここで俺に好き好き言われたのに照れているんだろう。
そう思うと頬が緩んでくる。
だって彼が里に残るってことは、結局は許してくれたも同然じゃないか。
イルカ先生は大門から出発する仲間に手を振った。
「行ってらっしゃい。気をつけて。」
仲間も振り返って手を振った。
「待ってますから。・・・それからありがとう!」
俺もイルカ先生の横で手を振った。
「気をつけてね〜、行ってらっしゃ〜い。」
彼らを見送って。
イルカ先生と顔を見合わせた。
自然と笑顔になった。
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