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ぬかるんだ崖を滑り落ちて頭を打ったことが、イルカ先生が記憶を喪失する原因になったのだと思う。
顔に付着した泥や血を拭い、頭の怪我に応急措置を施してから俺は考えた。
どうしよう、絶好のチャンスかもしれないと。
イルカ先生は自分の名前はおろか、俺のこともアカデミーのことも里のことも忘れていた。
記憶喪失は一過性のものかもしれないが、もしかすると一生このままかもしれない。
甘い誘惑が俺を誘う。
このまま、自分のものにしてしまえと。
自分のものにしてしまったら、と。
「イルカ先生、歩けますか?」
とりあえず、海野イルカだと名前を教えた俺は、イルカ先生の手を取りながら立つのに手を貸した。
手持ちの兵糧丸を飲ませた。
だが、イルカ先生は立ち上がったものの、ふらふらと膝から崩れ落ちてしまう。
倒れてきたところを俺は受け止めた。
「すみません。」
イルカ先生が申し訳なさそうに俺を見上げる。
頼りなげな様子に俺の胸が高鳴った。
心臓がどきどきとして治まらない。
腕の中のイルカ先生がいることで、ついに俺は言ってしまった。
「イルカ先生。実は・・・。」
「はい?」
「こんな時に驚くかと思って黙っていましたが。」
素直な瞳が俺の次の言葉を待つ。
「実は、俺とあなたは恋人同士なんです。だから、あなたのことがとても心配で。」
声が震えなかったのが奇跡だ。
でも、男同士で、おかしく思われていないだろうか。
疑われていないだろうか。
不審がられてないか。
言った後に一挙に襲ってきた罪悪感。
やっぱり、こんなのフェアじゃない。
何回でも正々堂々と告白して、頷いてもらうべきだよな。
こんなのいけない。
本当のことを言わないと。
ごめんなさい、嘘をつきました、あなたと俺は恋人ではありません。






なのにイルカ先生は安心したように微笑んだ。
「そうだったんですか?」
「え、ええ。」
「嬉しいです。」
「ええっ。」
意外な言葉に思わず、大きな声が出てしまった。
「いや、その。あの。ええと。」
しどろもどろの俺にイルカ先生は少し笑う。
「嬉しいと言うと変ですか?」
「いいええ。」
「何も思い出せなくて、すごく不安になっていたので。」
微塵も疑いもせずに信頼した顔を俺に見せる。
「そんな時に恋人だという、あなたがいてくれて心強いです。」
ぐさりと、その言葉が俺の胸に突き刺さった。
「お、男同士でも?」
「ええ、気になりません。」
不思議そうに俺を見るイルカ先生に本当のことが言えなくなった。
どうしよう。
嘘なんて付かなきゃよかった。
今更、取り消せないよ。
・・・・・・ごめん、イルカ先生。
後で謝るから、許してください、と。



罪悪感を胸の奥深くに押し込んで、今は忘れることにした。
今だけ、恋人でいいよね。
ごめんねごめんね、イルカ先生。
歩くのが覚束ないイルカ先生を背負って、俺は里を目差した。
夢にまで思い描いていた恋人関係だったのに。
恋人関係になったのに。
全く嬉しくない。
俺の背中で、安心しているイルカ先生。
俺の嘘をすっかり信じている。
記憶が戻るまでは、ううん、記憶が戻らなくても大切にするから。
だからだから。
心の中で言い訳する。
だが、神様はちゃんと見ていた。






イルカ先生を背負ってイルカ先生に嘘を付いたことで、走ることに集中できなくなっていた俺は。
馬鹿なことに。
足を滑らせて、高い場所から低い場所へと転がり落ちてしまった。
なんてことだよ、これは嘘を付いた罰か。
転がり落ちながら、せめてイルカ先生だけはと思って庇ったのが運の尽き。
イルカ先生だけは、どうにか怪我をしなかったようだが。
俺は頭に鈍い痛みを覚えて。
「カカシさん!」
駆け寄ってくるイルカ先生を見たのを最後に視界が暗くなった。
でもさ、カカシさんだって、カカシさん。
そんな風に呼ばれたのは初めてで。
頭の痛みは酷かったが、ちょっと幸せだった。






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