うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子8
あれから数ヵ月後。
久しぶりの長期の休暇で里に帰ってきたカカシは里中を歩いていた。
当て所もなく、ぶらぶらと。
服装は暗部の服ではなく、普通の忍服を着用している。
何の気なしに歩きながらもカカシの視線は無意識のうちに自分より少し位置にあり何かを、いや誰かを探しているようであった。
それ即ち、イルカである。
カカシは里に偶に帰ってくると家で寝ているのが常であったのだが、もしかして里の中でイルカにばったり会えるかも、と淡い期待を持ち外出を試みたのであった。
「へえ〜、里も変わったねえ。」
歩く両脇には店が、たくさん軒を連ねている。
帰ってくる度に店の数は増え、里は賑やかになっているように思う。
人も、たくさんいて歩くのにも人にぶつからぬようにしなければならず難儀だ。
「こんなんじゃ、イルカは見つからないかもねえ。」
会いたかったのになあ、とカカシは呟く。
家の場所でも聞いておけばよかったと後悔もしていた。
会って何をしようという訳ではないのだがイルカが、ちゃんとご飯を食べているのが気に掛かる。
どこかの里のお節介な忍にも指摘されたことでもあるし。
「あれから体は少しは大きくなったのかな。」
成長期だから背も伸びているかもしれない。
会っても分からないかも・・・と思ったが、すぐさま自分で、それはないと否定した。
「あの子なら成長して見た目が多少、変わっていても、会えば絶対分かるよね。」
カカシが店が並ぶ通りの間を練り歩き、ちょうど店が途切れたところで前を向いた時だった。
ふと、ある人物が目に入った。
黒髪を頭の天辺で結った、元気が良さそうな少年が歩いてくる。
その少年は以前よりも背は左程伸びてはおらず、体重も左程増えてないようで、殆どカカシの記憶と相違ない小さな姿だった。
見間違えようもない。
カカシの眠そうな目が、ぱっと見開いた。
ついでに眠そうな顔も、ぱっと輝く。
「イルカ!」
嬉しそうに、その人物の名を呟いていた。
歩きながら自分に近づいてくるイルカを見つめカカシは、わくわくしていた。
イルカは自分に会ったら初めに何て言うだろう。
会いたかったとか、寂しかったとか?
そんなことを考えてカカシは期待に胸躍らせたのだが、あと少しでイルカと擦れ違うというところで肝心なことに気がついた。
・・・・・・俺、暗部だったよな、イルカと会った時って。
暗部の面をつけたカカシのことをイルカは知っているけれど、今の自分のことをイルカを全く知らない。
それにカカシは自分の名も教えてなければ顔も見せてないので、今、ここにいる自分はイルカにとって面識のない知らない人だ。
普通に里を歩いている、単なる木の葉の忍の一人にしか見えない。
片目を額宛で覆い、顔の大半を覆面で隠しているし、見ようによっては思い切り怪しい。
そんな人物が、いきなりイルカみたいな子供に声を掛けたら、どうだろうか・・・。
「もしかして、ただの変な人になるわけ、俺・・・。」
不審者ってやつ?
カカシが悩み始め、どうイルカに声を掛けようか、と考えた時だ。
明らかにカカシの姿を見たと思われたイルカが、カカシに、くるりと背を向けた。
ものすごく、不自然に回れ右をして、すたすたと歩いてカカシから遠ざかっていく。
結った髪が歩く速度に合わせて揺れ、そんな後ろ姿も可愛いな、とのんびり構えていたのだが、はっとなった。
イルカが行ってしまう!
どんな理由かは分からないがイルカは、どう見てもカカシの姿があったので今、来た道を全力の早足で引き返しているのだ。
「えーとえーと。」
カカシは焦る。
焦りながら、とりあえずイルカを追いかけた。
ここでイルカを逃がしてしまったら、もう会えないかもしれないし、この休暇を逃したら次の休暇まで長い任務が待っている。
見つけたからには、どうしてもイルカに会って顔も見たいし声も聞きたい。
だからカカシはイルカを見失わぬように追いかけながら、知らない人が話しかけても自然な言葉を頭の中で必死で探していた。
見た目は大人な自分が、イルカのような子供に声を掛けてもおかしくない言葉って何だろ?
ちょっと、そこまで一緒に来て、とかって人攫い?
俺は、ちっとも怪しくないよ〜って、それは怪しい人物が言う常套句か・・・。
きみ、可愛いね〜って、そりゃあイルカは可愛いけれど初対面の人物に、いきなりそう言われたら警戒心百パーセントだよなあ。
しょうもないことを色々考えているカカシは、こうなれば、と、あの手でいくことにした。
前方を歩くイルカの前に一瞬で、すたっと降り立つ。
その早業は、さすがは暗部、面目躍如と言えるほどの動きで、突然、目の前に現れたカカシにイルカは目を丸くしている。
カカシを見上げるイルカは目を見開いて、一歩後退した。
更に一歩後退して、その行動は無意識のうちにしているようだった。
イルカの動揺が手に取るように分かる。
だからカカシは屈んでイルカと同じくらいの高さに視線を合わせた。
イルカの顔も黒い瞳によく見える。
そのことに満足した。
よかった、元気そう。
それからイルカを怖がらせないように優しく話しかけた。
「ねえ、あのさ。」
カカシの声を聞いたイルカが両手で左胸を押さえる。
どきどきしているようだ。
そんなイルカを微笑ましくカカシは見つめる。
なるべく優しい声を出す。
「これから俺と一緒に食事でも、どう?」
言った内容は所謂、ナンパ的なものであった。
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