うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子7
イルカの周辺の空気が微かに動いた。
それを見逃すカカシではない。
「あれ、イルカ?」
暗部の面を被ってからイルカの顔を覗き込む。
「気がついた、もしかして。」
ふっくらとした頬を、なぞるように触った。
つるつるしていて触り心地がいい。
「ん〜?今、意識が戻ったと思ったんだけどなあ。」
カカシはイルカの頭を自分の膝上に置き、静かに肩を揺すってみた。
「イルカ、起きて。・・・ねえねえ、イルカってば。」
イルカは頑なに目を瞑っている。
起きている気配はあるのにカカシの呼びかけに応じない。
「おかしいなあ。」
首を捻りながらカカシはイルカの顔に自分の顔を近づけた。
するとイルカは、すすっとカカシの顔を避けるように横を向く。
横を向いた顔に、再び顔を近づけると、また反対側を向いてしまう。
・・・完全にイルカは起きている。
カカシは確信した。
だが、何ゆえ起きようとしないのか皆目検討がつかない。
起きているのに目を開けないようとしないのだ。
カカシは、ちょっとイルカを、からかってみることにした。
小さい頭を膝上に乗せたまま、イルカの両脇に手を忍ばせる。
こちょこちょ、と擽ってみた。
ぴくり、とイルカの肩が動き反応がある。
もうちょっと擽ってみるとイルカの閉じている瞼が、ぴくぴくと痙攣し始め、笑い声を出したいのか口元が微妙に引き攣っている。
擽られて笑うのを耐えているイルカは、ちょっと面白い。
更に擽る範囲を広げてみるとイルカの体全体が、そわそわとし出す。
それでも頑張ってイルカは目を開けなかった。
意外に頑固なところがあるのかもしれない。
イルカが擽りに耐えている姿は面白くもあり、また可愛くもあり、もっと続けていたかったが残念ながらカカシには、この後任務が控えていた。
未練を残しながらも擽るのを止める。
そしてイルカの耳元で低く囁いた。
「イルカ〜。起きて〜。」
ふっとイルカの耳に息を吹きかけて呼びかけた。
イルカの気配には起きようか、どうしようか迷いが見られる。
そしてカカシが何気なく言った、次の一言でイルカが飛び起きた。
「起きないと、ちゅーしちゃうよ〜。」
「あ、起きた。」
飛び起きたイルカは地面に立って胸を押さえていた。
心臓の辺りである。
頬が仄かに色づいてもいる。
「ちゅーってキスのこと?」
いきなりカカシに訊いてきた。
「ちゅー?ああ、うん、キスのことだね。」
何故、そんなことを突然、言われたのか理由も解らずにカカシは答える。
「でも、それがどうしたの?」
逆にカカシが尋ねるとイルカは下を向き何やら、ぶつぶつ言っていた。
「もしかしてキスしてもらえば良かったのか・・・。あ、でも愛がないと駄目なんだっけ。」とか意味の解らぬことを呟き、渋い顔をしている。
「なーに、言っているの?」
カカシがイルカに近寄ると、びくっと肩が揺れてイルカはカカシを見上げた。
その黒い瞳は心配そうに瞬いている。
二人の身長差は、まだ結構ありカカシの方がイルカより頭二つ分ほど背が高い。
「あ、えと、何でもないんです。」
慌てたように言ったイルカは手と頭を、ぶんぶんと横に振る。
「気にしないでください、ほんとに。」
「ふーん。」
そんなイルカを訝しげに見ながらカカシは面の下で目を細めた。
イルカの態度から見て、何事か隠しているような印象を受ける。
・・・・・・この子の隠し事を暴きたい。
衝動的にそう思い、自分に隠し事するなんてと心の内が熱くなる。
この感情の起因がなんなのか自分でも解らなかったがカカシは兎に角、そう思ったのだ。
激しく、イルカに隠し事を問い質したい衝動に駆られたが、その感情を無理やり押さえ込む。
兎にも角にも任務が待っているからだ。
だいぶ、時間が経っているので早く戻らなければならない。
はあ〜あ、と溜息を零したカカシにイルカが言った。
「あのう。・・・何で、ここにいるんですか?」
「あー、それはね。」
カカシは懐から例の鍵を取り出した。
「これ、イルカのでしょう?」
「あ!・・・俺のですけど。」
言いながらイルカは鍵を受け取り「でも、どうして?」と不思議そうにカカシを見る。
カカシはイルカの頭を無意識に撫でながら身を屈めてイルカを視線を合わせた。
「落ちていたの。きっと俺がイルカを放り投げたときに落ちたんだと思う、だから俺が届けに来たの。」
家に入れなかったら困るでしょ、とカカシが言うとイルカは頷いた。
嬉しそうに微笑んで鍵を握り締める。
「そうだったんですか。ありがとうございます。」
「いーえ。ところで頭は痛くない?」
「痛く?少し、ずきずきしますが・・・。」
イルカは自分の後頭部を探る。
少し瘤が出来ているくらいだ。
「大丈夫です!」
元気よく返事をした。
「そう、なら良かった。じゃあ気をつけて里に帰るんだよ、今度は刀を抜いて転んだりしないでね。」
その言葉にイルカは、かっと赤くなる。
カカシは、きっと自分の間抜けな所業の総てを知っていると悟ったのだ。
恥ずかしくて赤くなったイルカも可愛いなあ、と思いながらカカシは傍に落ちていた刀を拾うとイルカに渡した。
「はい、どうぞ。」
「すみません。」と口の中で、もごもごと言ってイルカは刀を受け取る。
刀を鞘に収めるイルカを見届けるとカカシは言った。
「里に帰ったら、ちゃんと毎日三回、ご飯食べなさいよ。」
「あ、はい。」
イルカは素直に頷く。
「よし!じゃあ、行きなさい。」
もう一度、気をつけてね、とカカシが言うとイルカは一礼して里に向かって走り始めた。
一回だけ振り返ってカカシを見て手を振る。
手を振り返すとイルカの姿は直ぐに見えなくなった。
「あーあ、行っちゃった。イルカ・・・。」
どこか寂しそうに呟いたカカシの胸の中にはイルカがいなくなったことで出来た、何か言葉では言い表せないような、ぽっかりとした空間ができてしまっていたのだった。
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