うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子45
翌朝。
早い時間にイルカは、すっきりとした気分で目が覚めた。
熟睡したような気がする。
カカシと一緒に寝たからだろうか・・・。
そっと起きて隣のカカシを見ると、まだ寝ている。
目覚まし時計のセットした時間より早く起きたイルカは、まず目覚まし時計のスイッチを切る。
これで音は鳴らないのでカカシは寝ていられるだろう。
それから着替えをして額宛をする。
きちっと結ぶと気持ちも引き締まるような気がした。
朝食は、どうしようかと迷ったが、いつも通り牛乳だけ口にする。
冷たい牛乳は喉越し良くて、すっと胃の中に落ちていく。
なんだか力が出るような気がした。
ベストなどの装備を見に付け、準備しておいた荷物を背負うとイルカは玄関に向かった。
下足を履いて玄関の扉を開ける時に振り向いて言った。
小声で。
「行ってきます。」
眠っているカカシに言ったのだが、それに答えが返ってきた。
「行ってらっしゃ〜い。」
のんびりとした声がして、布団の中からカカシが、ひらひらと手を振っている。
もしかしてイルカが起きたのを気がついていたのかもしれない。
気がついても眠った振りをしていたのか。
そんなカカシがおかしくて、ちょっと笑ってからイルカは演習に向かったのだった。
家を出てから一週間。
漸く、演習の終わったイルカは、ぼろぼろになって帰ってきた。
まさしく、そんな表現が似合うほど服は汚れ破れて、顔や体は擦り傷や切り傷だらけだ。
右手首は立ち回りをした時に、ひどく捻ってしまって痛みもあった。
「死にそうだ・・・。」
イルカの口から素直な感想が零れる。
本当に、そんな感じだった。
体中が、よれよれになっていて歩くのも辛い。
「でも、これでも演習なんだよなあ。」
溜息も出た。
「本当の戦場は、きっと、こんなもんじゃないよね〜。」
カカシの任務のことが思い浮かぶ。
カカシが暗部の所属だということは偶然、知ってしまっていたが、暗部に関することが機密扱いなのも承知しているので、そのことに触れることはしない。
けれども、時々思ってしまうのだ。
カカシさんて、すごいなあ。
いつも、飄々としていて掴み所がなく、どちらかというとのんびりしているのだが、やる時はやる。
そんな感じだ。
実際にカカシの戦う姿を見たことはないから、結局、本当のところは分からないけれど。
そんなことを、つらつらと考えていると家に辿り着いた。
玄関の扉を回したが鍵が掛けられている。
家の中に人の気配はない。
「カカシさん、出掛けているのかな。」
でも、かえって、その方が良かったかもしれない。
ぼろぼろで、よれよれで、ふらふらしている自分を見られるのは抵抗があるからだ。
服のポケットから鍵を出すとイルカは玄関の鍵を開けた。
そのまま玄関に入ると倒れこんでしまう。
疲れて動けない。
寝たい。
風呂に入りたい。
アイス食べたい。
ジュース飲みたい、炭酸入りの。
色々な思いが錯綜する。
でも、まずは・・・。
「怪我の手当てをしないと。」
怪我は大きなもの以外は適当に処置していたので、帰ってから家できちんと消毒や手当てをするように指導されたのだ。
荷物を放り出し服を脱ぎ捨てて、身軽になったイルカは家にあった治療道具を取り出し、一人で手当てを始めた。
だが右手が痛くて、上手くいかない。
頬の切り傷に貼ってあったガーゼを、ばりばりと剥がすと傷が塞がっていないのか、血が滲み出てきた。
口の端も切れており、そこからも血が出て顎に流れ落ちる。
「あーあ。」
血を拭おうとしたのだが疲れていて面倒になってしまっていた。
そんな時、玄関で人の気配がした。
声もする。
「ったく〜、も〜。」
カカシの不機嫌そうな声だった。
「散々だったなあ、まさに酷い目にあったって感じ・・・。なんでイルカに年齢ばらしたの知っているんだよ〜。おまけに『おばさん』なんて言ったのも〜。」
何やら愚痴っていた。
どうやらカカシはカカシで任務に行っていたらしい。
「お帰りなさい、カカシさん。」
疲れていたが、どうにかイルカは声は出した。
その声も疲れていたのだが・・・。
「え、あ。ただいま・・・。」
イルカの声に反応したカカシが動きを止めて固まっていた。
イルカを見て。
大きく目を見開いて凝視している。
「イルカ!」
息を飲んだカカシが、ばたばたっと音を立ててイルカの方に寄ってきた。
「怪我したの!」
「うん、ちょっとだけ。」
「ちょっとって・・・。」
イルカの顔を見たカカシが慌てている。
「血が出ているじゃない。ほら、貸して。」
カカシがイルカの手から治療用具を取り上げて、手当てを始めた。
ガーゼで顔の血を丁寧に拭ってくれる。
「顔に、こんな傷が・・・。」
イルカの頬の切り傷を見てカカシは泣きそうになっている。
「跡が残ったら、どうするの?」
「どうするって。」
どうするって言われても困ってしまう。
イルカはカカシの言わんとすることが全く、見当がつかないし。
「俺、男だし顔の傷くらい、どってことないよ。」
「そうかもしれないけどね。」
消毒した脱脂綿でイルカの頬の傷を拭きカカシは眉を盛大に顰めた。
「唇の端も、こんなに切っちゃって〜。」
余りにもカカシが悲しそうにするのでイルカはカカシを慰めた。
「傷は男の勲章だって誰かが言っていたような・・・。だから大丈夫・・・。」
「大丈夫じゃない。」
イルカの言葉をカカシは強く遮った。
「大丈夫なんかじゃないよ、こんなにたくさん怪我して。」
「でも。」
「でもじゃない。」
頬と唇の端に薬を塗布してガーゼを貼るとカカシはイルカの右手首を取った。
言葉とは裏腹に優しい仕草で。
「ここも捻挫かなんかしているでしょう。」
とっくにイルカの怪我の状態は見抜いていた。
「イルカが怪我したら俺は、すっごく心配になるし不安なの。」
右手首に湿布を当て包帯を巻きながらカカシは言う。
「イルカが一人で痛がっていたり、俺の知らないところで怪我なんてしたら胸が張り裂けそうになるよ。」
包帯を巻き終わるとカカシはイルカの目を真っ直ぐに見た。
「大事な人が怪我するのは嫌なんだ。イルカには、いつも元気でいてほしい、俺は。」
その目には嘘偽りなどない。
イルカのことを、ひたすら想っている目であった。
そんなカカシの目を見てイルカの口から、ゆっくりと言葉が出た。
押し出されるように。
「もしかして・・・。」
瞬きを何回かしてイルカは言葉を紡ぐ。
「俺のこと好きなの、カカシさん。」
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