うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子44
仲良く夕飯を食べ終えて、カカシより先に風呂に入ったイルカは明日の準備を始めた。
クナイに長刀、札や巻物を数種類。
念入りに数を確認している。
イルカの後から風呂に入り上がったカカシが、それを見咎めた。
「・・・何してるの?」
床の上に、ずらっと並べられた忍具の数々にカカシは見つめる。
手入れの行き届いた武器が、ぎらりと光を放っていた。
「任務?」
訊くとイルカは首を振った。
「いえ、違います。」
イルカは前に家宝と言っていた刀の柄を握り、光る刀身を眺めている。
「実は明日から演習で。」
刀を鞘に収めながら、思いもよらぬことを言う。
「サバイバルと実戦を兼ねた演習で一週間ほど山に篭るんです。その前日だから今日は休養と準備をするための休みだったんですよ。」
「えー、そうなの。」
カカシは明らかに、がっかりしていた。
「一週間もイルカに会えないのか〜。」
寂しいなあ、と独り言ちている。
「一週間なんて、あっという間ですよ。」
大人の顔で笑ったイルカは、黙々と明日の準備を再開した。
武器や巻物を見るイルカの顔は厳しく真剣で、忍の顔をしている。
こんな顔を初めて見るなあ、とカカシはイルカに見蕩れていた。
子供だとばかり思っていたけど、こんな顔をするんだなあ。
イルカの顔が凛々しく見える。
「あれ?」
準備をしていたイルカが、途中で首を傾げた。
「治療用具、足りない・・・かな。」
がさごそと家にある治療用具を入れてある箱から何やら取り出している。
「紅白戦だけど、かなり本格的にやるって先生、言っていたからなあ。」
包帯やガーゼを取り出して、明日持っていくだろう袋に入れていた。
「怪我をしないのが一番だけど本気出せって言っていたし。」
ぶつぶつ呟きながらイルカは消毒液も取り出した。
「これでいいかな?」
イルカは未だ本格的な実戦の経験がないのか、戦場での怪我の知識が薄いらしい。
見ているカカシが、はらはらとしてしまっていた。
「イルカ。」
声を掛けずにはいられない。
「準備は本当に大丈夫?怪我なんてしないでね。」
「平気ですって。」
言いながらも緊張しているのかイルカの言葉使いに、いつもの気安さはない。
「ちょっと、どきどきしているけれど。」
ふっと息を吐いて目を閉じる。
胸に手を当てて自分を落ち着かせているようだった。
「本当の実戦だったら怪我だって何だって、自分で何とかしなきゃいけないんでしょう?」
「それはそうだけど。」
「俺も頑張って実力をつけて、いつかはカカシさんのように里を守るようになりたい。」
澄んだ瞳をカカシに向ける。
その目は心の底から、そう思っているようだった。
「そう。」
イルカの志を否定することなくカカシは黙って頷く。
「じゃあ、頑張ってね。」
応援してみた。
「はい!」とイルカは嬉しそうな顔になる。
「でもなあ。」
イルカの傍に来たカカシはイルカの手を取った。
先ほど料理を手伝うといってイルカが人参と一緒に切った指先を見つめる。
まだ絆創膏が貼ってあった。
「人参を切るっていう簡単なことで、イルカは指まで切ってるからなあ。」
心配そうにイルカを見る。
「本当に心配だよ。」
「大丈夫ですってば。」
イルカは、ほんのり赤くなってから、向きになったように言い返してきた。
「俺だって忍者です!」
「それは分かっているけれどね〜。」
わざと、のんびりとした口調でカカシは言った。
イルカの緊張を解すためだ。
「イルカが怪我すると俺が悲しいから。」
「カカシさんが?」
「そうだ〜よ。」
「なんで?」
「さあ、なんででしょう。」
冗談めかして言い、カカシはイルカの肩を叩いた。
「ほら、明日は早いんじゃないの?準備ができたら、もう寝なきゃね。」
「あっ、そうだった。」
カカシの指摘で明日が早いことに気がついたイルカは目覚まし時計の時間をセットする。
「カカシさん、明日の朝、煩くして起こしたらごめんなさい。」
「いいよ〜、別に。」
今日、買ってきた布団をカカシは床に敷いている。
イルカがベッドに入るのを見届けてからカカシは部屋の電気を消した。
「おやすみ〜、イルカ。」
「おやすみなさい、カカシさん。」
部屋に沈黙と暗闇が訪れた。
カカシは目を瞑っていたのだが、隣のベッドで眠るイルカは一向に落ち着く気配がない。
何度も寝返りを打っている。
明日のことでも考えているのだろうか。
カカシも戦場で作戦前などは神経が苛立ち、度々、落ち着かないことがあった。
何度も実戦の経験を積んで、その様なことはなくなってきたが。
それに寝ようと思えば思うほど、寝れないときもある。
そうして一時間が過ぎた頃。
イルカがベッドから、むくりと起き上がった。
抜き足差し足でベッドから下りてテレビの前に行く。
眠れないのでテレビでも見ようというつもりなのか。
イルカがテレビのスイッチを入れようとしたところでカカシは声を掛けた。
「イルカ。」
暗闇で低い声は、よく響く。
「・・・眠れないの?」
「うん。」
暗闇からイルカの声が返ってきた。
「全然、眠くない。」
カカシの予想通り、やはり眠れないらしい。
「寝ないと明日に差し支えるよ。」
体を少しでも休めないと、と諭すとイルカが暗闇で困った顔をするのが分かった。
困惑したような声が聞こえてくる。
「でも、どうしたら眠れるか分からなくて。」
イルカの緊張と不安を和らげるのには、どうしたらいいか。
考えた末にカカシは断られるかもしれないと思いながら言ってみた。
「・・・俺と一緒に寝る?」
布団の中で体を移動してイルカの場所を作ってやる。
掛け布団を捲って空いた場所を、ぽんぽんと叩いた。
暗闇にいたイルカは、カカシの提案を聞いて逡巡しているようである。
しかし、それも僅かで、おずおずとイルカはカカシに近寄ってきた。
「一緒に寝てもいいの?」
「いいよ、おいで。」
くすっと笑いを漏らすとイルカはカカシが寝ている布団に体を滑り込ませてきた。
ぴたりと自分からカカシに体を寄せてくる。
イルカの心臓の鼓動がカカシに伝わってきた。
鼓動は速い。
その体をカカシは、ゆっくりと抱きしめてやり、あやすように背中を撫でてやる。
暫く、そんなことをしていると・・・。
徐々にイルカの体は弛緩していき緊張が取れてきたようだった。
イルカの瞼を落ちていき、やがて寝息を立て始めた。
「よかった、寝たみたいだ。」
カカシの腕の中でイルカは健やかに眠っている。
寝顔は安心しきっていた。
可愛いなあ、とカカシは思い、幸せな気持ちでイルカの体を抱きしめて自分も眠りに落ちていったのだった。
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