うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子42
「ねえ、カカシさん。」
昼食を店で食べながらイルカはカカシに話しかけた。
今はカカシは怒ってはいないものの、どこか上の空といった風だ。
疲れているという表現が適切かもしれない。
「ん?どしたの。」
既に頼んだものを食べ終えたカカシはイルカが食べ終えるのを待っている状態である。
「うん、あのさあ。」
カカシが先刻まで怒っていた理由をイルカは、なんとなく尋ねたくなった。
自分に関することで怒っていたのなら謝りたい、という思いもある。
しかし、尋ねることで話を蒸し返してカカシが嫌な思いをするのもなあ、と考えあぐねていた。
もぐもぐ、と口に入れた白米を咀嚼しながらイルカは慎重に言葉を選んだ。
選んだつもりだったが、結局、出たのは・・・。
「カカシさん、さっき、なんで怒っていたの?」
単刀直入に言ってしまったのだ。
「怒る?」
イルカの言葉を聞いてカカシは首を傾げた。
「怒っていた、俺?」
「うーん、あのお兄さんと俺のことで怒っていたんじゃないか、と・・・。」
「ああ、あれね。」
カカシは目を細めてイルカを見た。
「イルカに怒っていたんじゃなくて、余計なことをするあいつに怒っていたの。」
「・・・なんで?」
「なんでって、そりゃあ。」
言い難そうにカカシは言葉を濁す。
イルカは単純に何故かと尋ねただけなのに。
一心にカカシを見つめていると、ふっとカカシの顔が緩んで「早く食べちゃいなさい」と言ってイルカの頭を、ふわりと撫でた。
店を出てから、家までの帰り道。
途中、スーパーに寄って夕飯の食材も買ってきた。
来たときと同じようにカカシと、のんびりと歩いて帰る。
非常に心が、ゆったりとしてイルカは落ち着いた。
荷物を持っているから手は繋げないけれど。
カカシの隣はイルカにとって、とても安心して寛げる場所だ。
あたたかい気持ちになれる。
他の誰ともいても、こんな気持ちになることはない。
言葉はなくても傍にいるだけで、温かく包まれたような気持ちになるのはどうしてだろう。
考えているとカカシが、ぽつりと呟くように言った。
「さっきのことだけどね。」
「さっきの。」
「俺が怒っていたって話。」
「ああ。」
「あれはね。」
隣に立つカカシが歩きながからイルカに視線を寄越す。
「好きな子に、ちょっかい出されていたから怒っていたんだ〜よ。」
好きな子・・・。
イルカは口の中だけで小さく言ってみる。
カカシさんの好きな子・・・。
「俺の大事にしている好きな子に俺の与り知らぬところで、べたべたべたべたべた、触りやがって〜。」
今度会ったら覚えてろ、とカカシは物騒なことを言ってからイルカに再び、視線を寄越した。
その目は真剣みを帯びており、そんなカカシの視線にイルカは、どきりとしてしまう。
イルカに何かを伝えたいと訴えるような目だ。
カカシが、ふと足を止める。
釣られてイルカも足を止めた。
「イルカだって、自分の好きな人が他の誰かと、すっごく仲良くしていたら嫌じゃない?」
自分の好きな人・・・。
自然、イルカはカカシを見ていた。
じっと。
「嫌・・・かも・・・。」
それだけ声に出す。
カカシが誰かと手を繋いでいたり、誰かの肩を抱いたりしているところを想像してみる。
それは昼間見た、女性と二人でいるカカシを見たときよりも寂しい気持ちになり、そして胸が重く苦しくなった。
想像だけで、こうなるのだから実際に目の当たりにしたら、きっと、もっと胸が苦しくなるに違いない。
そんな相手がカカシにできたら、カカシはイルカと一緒にいるはずがない。
イルカの家を出て行って自分の家に戻るのだ。
それは恐ろしく寂しいことに違いなかった。
前にカカシは帰ってきたらイルカをずっと一緒にいてくれると言ったけれど・・・・。
本当は、どうなんだろう。
イルカだって以前よりは子供ではないし、色んな事を知るようになった。
本音と建前とか、大人同士の気の遣い方や駆け引き・・・。
だから、もしもカカシがイルカの家から出て行くと言っても止められない。
胸に言葉に出来ない気持ちが、どっと押し寄せてきてイルカは俯いた。
寂しさや悲しさが、ごちゃまぜになって、よく分からない。
苦しい、というのが一番、強い気持ちだった。
「イルカ。」
俯いたイルカの顔をカカシが覗き込んできた。
顔を見られたくなくてイルカは、ふいと顔を背けてしまう。
「イルカってば。」
カカシが自分の名を呼ぶ響きが耳に心地よい。
「そんな顔しないで。」
地面に荷物を置いたカカシは、よしよしとイルカの頭を撫でた。
「俺はどこにも行かないよ。」
イルカの心を見透かしたようにカカシは言う。
優しい声で。
「約束したでしょ。」
「・・・うん。」
やっとイルカは頷いてカカシを見た。
カカシは笑っている、にこやかに。
それはイルカが好きなカカシの顔だった。
「ずっとイルカの傍にいるからね。」
そう言われると胸にあった苦しさが嘘のように融けてなくなっていく。
あっという間に安堵感が心から体中に広がっていき、人が少ないとはいえ道端なのにも関わらず、堪らなくなってイルカはカカシに抱きついていた。
「カカシさん。」
カカシの腕はイルカを、しっかりと抱きしめてくれる。
「どこにも行かないでね、約束だよ。」
「うん、どこにも行かない。」
イルカを抱きしめ返しながらカカシは言った。
「ずっとイルカの傍にいる。生きている間、ずっとだよ。」
その言葉の後に。
・・・嫌だって言ったって、絶対に離さない。
カカシが断固として、そう言ったようにイルカには聞こえたのだった。
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