うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子41
離れた場所でカカシと女性の二人を見ているイルカの肩を、とんと叩くものがあった。
どきっとしたイルカは飛び上がらんばかりに驚いてしまう。
誰だと思って振り向くと・・・。
「よ!」
見知った顔が、そこにはあった。
名前は知らないが一度だけあったことがある人がいた。
「あ!」
秋祭りの日にカカシを探すのを手伝ってくれた人である。
寂しい気持ちに襲われていたイルカは見知った人にあって、現金だが元気になってしまった。
「こんにちは!お久しぶりです!」
すごく嬉しくなってしまう。
「そうだな、久しぶりだな。」
その人は人懐こい笑みを浮かべている。
「元気だったか?」との問いにイルカは生き生きとして頷いた。
「俺は元気にやっています、えーと・・・。」
相手のことを、どう呼べばいいか少し迷う。
「あの。」
ちょっと考えて、こう呼んでみた。
「お兄さん・・・、はお元気でしたか?」
「お兄さんか。」
呼ばれた相手は擽ったそうに笑いイルカの頭を、がしがしと力強い手で撫でてきた。
「そう呼ばれるのも悪くないな。」
楽しそうに笑っている。
「そ、そうですか。」
相手のノリにイルカは押され気味だ。
「ところで。」と、お兄さんはイルカの顔を覗き込んできた。
「元気がないようだったが・・・。どうかしたのか?」
「え・・・。」
「何か悩みごとでもあるのか?」
軽い感じで訊いてくる。
「悩み、なんて別に、俺・・・。」
ないです、と言おうとしてイルカは、つい視線をカカシの方へと向けてしまった。
カカシは、まだ女性と話している。
込み入った話のようで顔が真剣だ。
「ああ〜、あれか。」
お兄さんは了承したように、うんうんと首を縦に振った。
「俺んとこにも、さっき連絡事項を伝えに来たやつだな。」
そして親しげにイルカの肩に手を回してくる。
「連絡事項なんだけど話が長いんだよなあ。なあ、イルカ。」
親しそうにイルカの名も呼ぶ。
「当分、あいつらは話しているだろうから、その間に飯でも食べに行こうぜ。」
昼だしな、と軽い調子で誘ってきた。
「え、ああ・・・。」
曖昧に答えてイルカは、もう一度、カカシと話す女性に視線を向けた。
「あの女の人、綺麗な方ですね。」
なんとなく、そんな言葉が出てしまう。
「ああ、あいつか〜。」
お兄さんはイルカの肩を、ぐっと引き寄せて耳元で囁いた。
秘密でも話すように。
「あいつはなあ、見た目は女だが中味は鬼なんだぜ。」
「おに?」
「そうそう、おっそろしい鬼なんだ。」
容赦ねえんだ、これが、と肩を竦める。
どうして鬼なのかが、よく分からなかったが、カカシを話す女性がとても綺麗な人にイルカには見える。
カカシの横に綺麗な女性がいるのを見るのは初めてだが、お似合いだ、と、ぼんやり思った。
ぼんやりしていたイルカの隙を突いたのか、お兄さんは決定事項のように宣言した。
「あいつらは放っておいて俺たちは飯に行こうぜ、イルカ。」
肩に回された手で容易く、イルカは体を反転させられてしまう。
「さあ、何食べる?イルカは何が好きなんだ?」
お兄さんは嬉々として質問してくるが、イルカは焦ってしまった。
「あの、俺、カカシさんと・・・。」
カカシと昼食を食べようとしていたところだったのに。
お兄さんの腕から逃れようとしても、どこにどう力が入っているのかイルカの力では、びくともしない。
「大丈夫大丈夫。」
にこにこと笑って、お兄さんはイルカを逃してくれそうになかった。
「で、でも・・・。」
「いいじゃないか、イルカ。」
その時だった。
「よくな〜い。」
背後から陰気な声がしたかと思うとイルカの体に一瞬だけ、ふわっと浮遊感が起き、終わった時にはカカシの腕の中にいた。
「ちょっと!気安く、うちの子に声掛けないでくれる?」
不機嫌そうなカカシの声がする。
「簡単に名前を呼ぶな!しかも呼び捨てで。」
「なんだよ、それくらい。いいだろ。」
「駄目だ!」
見上げるとカカシが目を吊り上げていた。
相手を睨みつけている。
「おまけに。」
ぎゅっとカカシが腕の中のイルカを抱きしめてきた。
「イルカの肩に手を回したりなんかして。何してくれてんの!」
本気で怒っている。
「まあまあ、落ち着けよ。」
お兄さんは余裕の表情だ。
カカシの怒りなぞ、どこ吹く風だった。
「そんなに大事な子なら一時も離れず、傍にいて目を光らせてればいいだろ。」
ふふん、と笑みを漏らす。
「それが出来ないくせに駄目だとかなんとか、俺に言えんのか。」
それに、とカカシに人差し指を突きつけてきた。
「だいたいにして、そんなこと言う資格がお前にあるのか、カカシ。」
資格じゃなければ権利でもいいが、権利じゃなければ立場でもいいが、と、あれこれカカシに言ってくる。
言われてカカシは反論するかと思いきや・・・。
くっと唇と噛んだカカシは一言だけ言った。
「そんなの俺が一番分かっている。」
声の響きは重く暗い。
だが、それも瞬時でカカシは、すぐに立ち直った。
「俺のことは自分で、どうにかするからご心配なくだ〜よ。」
イルカの手を引いて、お兄さんに背を向けた。
「あ、そうそう。」
カカシは振り返って、お兄さんに向かって意地悪そうに笑う。
「鬼から伝言。私のこと鬼だなんて、今度会ったらお仕置きね、だって。」
「げっ!マジ?」
「マジで〜す。」
まんまと仕返しとしたカカシは意気揚々と、その場を後にしたのだった。
「あの、カカシさん。」
カカシに手を引かれながらイルカは話しかけた。
「・・・いいの?」
「いいのいいの、あんなやつ。」
「えっと、お兄さんじゃなくて女の人・・・。」
「それこそ、全然いいの。連絡事項も大したことなかったし。」
すっと立ち止まったカカシは少し屈んでイルカと目の高さを合わせる。
厳しい顔をして強めの口調でイルカに言った。
「それより、あんなやつのこと『お兄さん』だなんて呼んじゃ駄目だよ。」
「うん。じゃあ何て呼べば・・・。」
「あいつと道で会っても目を合わせちゃ駄目、危険だから。だから呼ぶ必要もなし!」
カカシは先ほど会ったお兄さんに何やら、だいぶ怒っているらしく何度もイルカに念を押していたのだが。
どうしてカカシが怒っているのか・・・。
イルカには、さっぱり見当がつかなかったのであった。
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