うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子39
「俺に恋人って。なんで、そんなこと思ったの?」
カカシが訊くとイルカは瞳を曇らせる。
「俺、色々考えたんだけど。」
考えたというよりも、どちらかというと悩んでいたのかもしれない。
「カカシさんて・・・。」
ひどく居心地悪そうに体を揺らせた。
「よっきゅーふまん・・・、なんじゃないのかなって。」
言った後にイルカは顔を赤らめる。
「欲求不満っ!」
思わずカカシは大声を出していた。
まさか、イルカがそんなことを言い出すなんて思ってもいなかった。
「え、えええ〜。」
どんな時にも沈着冷静が基本の暗部のカカシは狼狽している。
「ちょっとイルカ、何言ってんの?どこから、そんな言葉を覚えてきたの・・・。」
絶句気味だ。
「だってね。」
イルカは無意識なのか自分でカカシのつけたキスマークに知らず触っていた。
「これって、あの・・・。」
そして小声になる。
「そういう時につけたりするんでしょ?」
秘め事を告白するような声だった。
「あのですね、イルカ。」
カカシは体勢を立て直すとイルカの肩を、がしっと両手で掴んだ。
イルカの目を真正面から見据え、はっきりと宣言する。
「俺は欲求不満じゃありません。大丈夫です。」
何が大丈夫なんだろう・・・とカカシは葛藤する。
なんてこと言わすんだ、と心中、思ってしまった。
ちょっと恥ずかして、ちょっと悲しいような気がする。
「そんなことよりさ。」
カカシはイルカが何故、そんな発言をしたのかが気になってしまう。
「どうして、突然、そんなこと言い出したの?」
それが、とても気に掛かる。
カカシがつけたキスマークを誰かに見せて、その誰かがイルカに『よっきゅーふまん』なんて吹き込んだのか・・・。
「その首の跡、誰かに見せたの?」
暗部の仲間の見せたのは承知しているが他の誰かに見せたのだとしたら、かなり面白くない。
イルカを独占したいとカカシは、つい思ってしまう。
「ううん。」とイルカは首を振った。
「違う、映画を見たの。」
そう答えた。
「映画?」
「そう。ホラー映画で、そういう場面があって。その映画では男の人が女の人にしていて、で、男の人が『恋人だからする』って言っていた。」
「そ、それで。」
カカシは、ごくりと唾を飲む。
それは所謂、ラブシーンてやつで、それから、どのような場面展開をしたのだろうか。
それを見たイルカは、どんな風に思ったのだろう。
「それでって。」
えーとね、とイルカは素直に言った。
「男の人が怪物に変身してね、女の人を食べようとするんだよ。男の人は人間を食べたいって吼えていてね、近頃、人間を食べてないから『よっきゅーふまん』なんだって・・・。」
それから女の人は怪物に変身した男の人から逃げようとして大変でね、怪物の弱点は桃で・・・とイルカに解説されたのだがカカシは『よっきゅーふまん』の意味がイルカの中で別の意味に捉えられていることに、どこか安心してしまった。
イルカは『よっきゅーふまん』の意味をよく解っていない。
いやでも、そこは今後のためにも大人として教えてあげておいた方がいいのか、と自問自答してしまったが、結局、自然な成り行きに任せることにした。
「へえ〜、怖い映画だね。」
カカシはイルカの解説に無難な感想を述べてみる。
イルカがカカシに恋人云々を言い出した経緯や理由は分かったが・・・。
気持ちは複雑である。
イルカが嫉妬したとか大人の階段昇ったとかではなかったからだ。
キスマークは恋人につけるものだとイルカは思っているらしい、つまりカカシはイルカを恋人の見立ててキスマークをつけて、本当の恋人にキスマークをつけてないから『よっきゅーふまん』ということらしいのだ。
そこまで行き着いてカカシは溜息が出てしまった。
「あー、イルカ。」
何から言えばいいのか迷ってしまう。
事実から言うことにした。
「言っておくけど、俺に恋人はいないからねえ。」
「そうなの?」
「そう、好きな人はいるけどね。」
「ふーん・・・。」
イルカは不思議そうにする。
「カカシさん、カッコいいのに。」
「あはは、ありがとー。」
空笑いをしてカカシは、なんとか体裁をつけた。
それからイルカをベッドに押し込んだ。
「ほら、もう時間が遅いから子供は早く寝なさい。」
これ以上、変なことを言い出されたら適わない。
部屋の電気も、さっさと消した。
「ねえ、カカシさん。」
暗闇からイルカが囁くように話しかけてきた。
「さっき、好きな人がいるって言っていたけど・・・。好きな人って誰?俺の知っている人?」
「うん、まあね。」
イルカはカカシの好きな人に興味があるようだった。
くすりと笑ってからカカシはイルカに言う。
「いつか分かるよ。」
いつかね、と口の中で呟いた。
イルカは、そのカカシの答えに満足したのか、暫くするとベッドから寝息が聞こえてきた。
寝つきがいい。
「まだまだ本当、子供だなあ。」
苦笑しながらカカシもまた眠りに落ちていった。
夜半過ぎ。
床に寝ていたカカシの上にイルカが落ちてきた。
暑いのと寝相が悪いのが重なって冷たい場所を求めて床に落ちてきたらしい。
「ほんっと子供だな〜。」
イルカの体を抱え上げてベッドに戻し、カカシが再び床で寝ようとした時・・・。
カカシの服をイルカの手で、ぎゅっと握られているのに気がついた。
まるで、どこにも行くなと訴えるように。
自分の元にいてほしいという風に。
「あー、そんなことされると困っちゃうなあ、俺。」
全然、困ってない顔でカカシは微笑んで。
寝ているイルカの額に、そっとキスをしたのだった。
うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子38
うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子40
text top
top