うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子36
「あ・・・。」
暗部の物悲しい現実を聞いてカカシは、あることに思い至った。
「もしかして忘年会や新年会、おまけに春夏秋冬、季節ごとにある懇親会と称する飲み会とか、その他、何かと託けて飲み会を開いているのは独り身が多いから?」
それに応えるものは誰もいない。
「年末年始とか忙しいのに必ず飲み会あって全員参加だし、それって独り身の寂しさを紛らわすためとか・・・。」
「カカシ。」
誰かが言った。
「武士の情けだ、それ以上言うな・・・。」
「俺たち、忍者でしょ。」
割とカカシは容赦なかった。
「まあ、ともかくだな。俺たちのことはどうでもいい。」
仲間の一人が気を取り直し、カカシを指差した。
「今はカカシのことを話してんだろ?」
「あ、そうだね。」
「カカシの気持ちがどういう種類のものなのか、ってことが肝心だ。」
「まあ、そうだよね。」
「じゃあ、こう考えたらどうだ?」
「どんな風?」
カカシは首を傾げた。
「仮にカカシが今いる位置を誰かに置き換える、とする。」
「ん?」
ますます分からなくなってカカシは腕組みをして考える。
「俺のいる位置?」
「だから、ちびっ子と築いているカカシの関係を他の誰かに置き換えて考えてみろよ。」
「例えば?」
「例えば・・・。」
その暗部は考えてあぐねて言葉に詰まる。
「そうだ!」
秋祭りの日にイルカと一緒にいた例の暗部が、横から口を出してきた。
イルカの名前も知っている。
「祭りの日にカカシはイルカと一緒にいただろ?でも、俺のこと見て怒っていた。」
「そりゃあ、そっちがイルカと手を繋いだり、挙句の果てに抱きしめたりしたからでしょうが。」
「それだよ。」
「どれよ?」
「つまり、自分が意外の誰かとイルカが仲良くしていたらどうだってことだ。」
「イルカが他の誰かと仲良く・・・。」
「カカシが普段、イルカにやっていることを他の誰かがやってあげたとしたら?別に何とも思わないか?」
「・・・それってさ。」
自分以外の人間がイルカと・・・。
色々と想像してカカシの眉間に深く皺を寄る。
それは面に隠れて見えなかったが。
「それって、俺が作っているご飯を他の誰かが作ってイルカと一緒に食べたりすること?」
「まあ、そうだな。」
「買物に行く時に手を繋いだり、買物に行って強請られた物を、よしよしなんて頭を撫でて、今日だけだからねとか甘いこと言って買ってあげちゃったりしたり?」
「ま、まあ、そうだな・・・。」
「イルカに寝る時にしてあげてる腕枕を俺じゃない他の誰かがするってこと?」
「・・・そんなこともしているのか。」
「っていうか、俺以外の人間がイルカと二人きりで家にいたり、あまつさえ、夜、同じベッドで寝たりしちゃうわけ?」
「・・・そういうことになるかな〜。」
「絶対嫌だ!」
カカシは、きっぱりと言い切った。
「そんなの駄目、絶対!」
「それが、お前の気持ちだ・・・。」
疲れたように仲間は言った。
不用意なカカシの発言でイルカとの生活の一部を暴露され、それを聞いた仲間の何人かは心が折れている。
今、カカシの話しかけている祭りの日にイルカと一緒にいた暗部も、その一人だった。
何だ彼んだ言って、仲の良いカカシとイルカが羨ましくて仕方がない。
独り身の寂しさが強烈に身に沁みた。
「あとは自分で考えろよ。」
「あ、うん。分かった。ありがとね。」
カカシは仲間の憔悴したような雰囲気には気がついていない。
若者なので落ち込んだりしてもパワーがあるので、その分、立ち直りも早い。
最後に一つだけカカシは仲間に訊いてみた。
「あのさー、どうやって謝ったらいいと思う。」
「誠心誠意だろ。」
「それは勿論だけど、俺のこと怖がっていたら謝れないよねえ。」
「あー、じゃあ。」
暗部なのに人が好い仲間は結局、カカシの話を聞いている。
「物で釣ればいいじゃないか。」
「それって、一番、やっちゃいけないような気がするんだけど・・・。」
「話の切っ掛けを作るだけだからいいだろう。」
「そう?」
「ちびっ子は何が好きなんだ?」
「アイスとかジュースとかお菓子とかケーキとか。全般的に甘いものかな〜。」
「じゃあ、それのどれかを、ばばーんと買っていってやればいいじゃないか。」
「うーん・・・。そう、かな?」
「そうそう。」
仲間が一斉に頷き、そこでカカシの話は一応、終わったのだった。
イルカが食料を届けに来た、その何日か後にカカシの任務は終わった。
任務が終わってから疲れてはいたものの、カカシは全速力で帰ってきた。
報告は仲間に任せてある。
里に帰って来たのは夕方で急いで自宅に戻って、シャワーを浴びて通常の忍服に着替えるとイルカの家に向かった。
一刻も早くイルカに会いたいと急く気持ちはあったが、やはり、どうしようと気持ちは揺れる。
イルカの家に向かう途中、里中の店が立ち並ぶ賑やかな場所を通り抜けようとしたカカシの目にあるものが飛び込んできた。
仲間の言葉が蘇る。
・・・物で釣ればいいじゃないか。
いけないことかもしれないと思いながら、目に付いた、それをカカシは買ってしまっていた。
買物を終えてイルカの家に着いた時には辺りは暗くなり、既に夜になっていた。
イルカの家の玄関前でカカシは躊躇する。
最初に何て言おうか。
ノックしようか、ドアを開けてしまおうか・・・。
冷静に考えてみると、そもそもイルカは自分と会ってくれるかさえ怪しい。
「あー、どうしよ。」
小さく呟いたカカシは弱気になっている。
「嫌いとか言われたら死ぬかも・・・。」
あれから自分の中のイルカへの気持ちを少なからず自覚はしたカカシである。
嫌われたら、と思うと最初の一歩が、どうにも踏み出せなかった。
勇気が出なかったカカシはドアチャイムに頼ってみた。
ドアチャイムが鳴ればイルカは出てくる。
イルカが出てきて顔を合わせてから、それから先のことは流れに任せてみよう・・・。
成り行きに運命を委ねたカカシは恐る恐る、イルカの家のドアチャイムを押してみた。
在り来たりの音がする。
ピーンポーン、と。
すると家の中から小さい悲鳴が聞こえた。
イルカの声に違いない。
わーっとか、ぎゃあとか、そんな感じだ。
「イルカ!」
咄嗟に回したドアノブは鍵が掛かっておらず簡単に開いた。
部屋の中は真っ暗で電気が点いてない。
何があったのかと思い玄関に足を踏み入れると、ふらふらっとした足取りのイルカが奥から出てきた。
ちょっと顔が青褪めている。
「カ、カシさん・・・。」
カカシの名を呼んだイルカは、そのまま、ぎゅーっとカカシに抱きついてきた。
「ど、どうしたの?」
イルカの予想外の行動にカカシは少し動揺する。
しかしイルカは抱きついたまま、動こうとはしない。
「イルカ?」
動揺しながらもカカシはイルカの心臓が、どきどきとしていることに気がついた。
抱きついてきたイルカの心拍数は異常に早い。
何か緊張しているのか・・・。
荷物を持ってない方の手で、ゆっくりとイルカの背を擦ってやるとイルカの心拍数は、だんだんと安定してきたようだった。
やっと落ち着いたらしい。
「あ・・・。」
抱きついている相手がカカシと分かったイルカは、ばっと抱きついていた手を放して離れていってしまった。
イルカの温もりが離れていくことを寂しく思う。
「あの、ごめんなさい。」
カカシから顔を逸らしてイルカは、そんな言葉を口にする。
「すっごい怖いホラー映画を見ていて・・・。一番怖いシーンでチャイムが鳴るところがあって、それがカカシさんの押したチャイムと、ちょうど重なって・・・。」
それでイルカは飛び上がるほど驚いたらしい。
何しろ電気も点けず真っ暗な中でホラー映画を見ていたのもある。
本当にホラー映画と同じシーンが起きるのかと玄関に来てみたらカカシがいたから、ほっとした。
それで安心して抱きついてしまった。
そういうことらしい。
抱きついてきた理由はともかく。
カカシはイルカが抱きついてきてくれたことが嬉しくて。
そして、とても愛おしいと思ったのだった。
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