うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子3
イルカは飯が炊き上がるまでの間、銀色の髪の暗部の隣に座り、時間潰しも兼ねて喋っていた。
人数が多いからか、大量の米は大釜で、ぐつぐつと炊かれている。
それを楽しそうにイルカは眺めている。
米の炊ける、あたたかくも好い匂いが辺りに漂い始めていた。
暗部の人間に会うのは初めてだったので、イルカは次から次へと銀色の髪の暗部に質問をしている。
だが、銀色の髪の暗部もイルカのような子供と話すのが面白いらしくイルカの話に応じていた。
「暗部の人のお面の下って、どうなっているの?」
イルカが銀色の髪の暗部の面に人差し指で、ちょんと触れて慌てて指を引っ込める。
「どうって、普通の顔だけど。」
「へえ、里のみんなは暗部の面には、おっかない不思議な力があるって噂していたよ。」
「ふうん。」
「暗部の面は夜になると光って人魂を発生させるとか、深夜に暗部の面を被って鏡を見ると幽霊が見えるとか。」
そんなの、本当にただの噂で有るわけがない。
しかし、イルカの話を聞いた銀色の髪の暗部は何事か思案したようで、こそっとイルカの耳に囁いてきた。
「実はね〜、この面には呪いが掛けられていてね。」
「えっ、呪い!」
イルカは、びくっと身を竦ませて隣の暗部に身を寄せる。
銀色の髪の暗部に、ぴったりと体をくっつけた。
「そ、それで・・・。」
イルカの声は、ちょっとだけ震えている。
怖いなら訊かなきゃいいのにいいのに、子供のイルカは恐怖より好奇心が勝ってしまい、つい訊いてしまう。
「この面の下の顔を見た人は呪われちゃうんだよ〜。」
うらめしや〜と手を垂らして、銀色の髪の暗部はイルカを怖がらせた。
「・・・それ、ほんと?」
「ほんとほんとほんと。」
銀色の髪の暗部は真面目に頷いた。
どこか楽しげなのは気のせいか・・・。
「この話は真実なんだ、今までにも呪われた人間が何人もいてね・・・。」
おどろおどろしい話が続く。
「の、呪われた人は、どうなちゃったの?」
「それは訊かない方がいいと思うよ〜。」
訊いたら夜、眠れなくなっちゃうよ〜と銀色の髪の暗部は調子に乗ってイルカを怖がらせた。
「ええっ!じゃ、じゃあ、呪いを解く方法は?」
からかわれているとも露知らず、イルカは真剣に訊いてくる。
突っ込みどころ満載の与太話を、すっかり信じてしまっていた。
「え・・・。呪いを解く方法?」
銀色の髪の暗部は、そこまで話を考えていなかったらしく「あー、そうだねえ。」と明後日の方向を見る。
「知っているなら教えてよ。」
イルカは必死だ。
「えーとね・・・。あ、そうそう。呪いを解くには面を被っていた人とキスするとか結婚するとかすればいいんだよ。愛で呪いの力を打ち消すんだ、・・・多分。」
適当に思いついたであろうことを、尤もらしく説明した。
「そっかー。」
だが、その説明にイルカは安堵したようだった。
「キスするか結婚すればいいんだね。呪いを解く方法があって、良かったー。」と胸を撫で下ろしている。
お互いが同性同士だった場合にもキスしたり結婚したりするのか、というところまで考えが至っていない。
もちろん、言った方の銀色の髪の暗部も、そんなこと考えていなかった。
「ほら、飯が炊けたぞ。」
銀色の髪の暗部とイルカが馬鹿馬鹿しい話をしているところへ、他の暗部が握り飯を持ってやってきた。
「食え。」とイルカに、でっかい握り飯を渡してくる。
「あ、どうもありがとうございます。」
イルカは自分の顔半分くらいもある握り飯を見て、目を丸くした。
「おっきい〜。」
その握り飯に、ぱくりと食いついた。
「美味しい〜。」
ただの塩で握っただけなのに美味しいこと、この上ない。
「炊き立てのご飯て、こんなに美味しいんだ。」と感動していた。
「良かったな、ちびっ子。」
握り飯を持ってきた暗部は穏やかな声でイルカの頭を撫でると隣にいる、銀色の髪の暗部に注意した。
「あまり子供をからかうなよ。」
「はいはい。」
お座なりに返事をした銀色の髪の暗部は握り飯を自分で何個か持ってきていて、既に二個目を食べている。
イルカは、やっと二口目だ。
食べながら周囲を見渡すと暗部たちは面を上手に、ずらしながら握り飯を、ぱくぱくと食べていた。
面の下の表情は見えないが、美味しそうに食べているのが分かる。
暗部の格好をしている以外は普通の人と変わらぬ食事風景だった。
「早く食べなさいよ。」
隣で銀色の髪の暗部がイルカに促した。
「何、見てんの?なくなっちゃうよ、飯。」
「あ、はい。」
イルカは、もぐもぐと握り飯を口にしながら暗部の食事風景を見た感想を、つらつらと述べる。
「暗部の人たちって、もっと怖いのかと思っていたら、そうでもないんですね。」
「そうでもないって?」
「普通にご飯食べるし、話もしてくれるし。暗部の人って、いっつも黙って殺気を漂わせて、暗くて怖いイメージがあったから。」
「怖いねえ。」
銀色の髪の暗部は、何個目か分からぬ握り飯を口にしていた。
イルカは貰った握り飯を、やっと半分食べ終えたところで、二人の食べるスピードは雲泥の差がある。
「そりゃあ、暗部は怖い存在だけど終始、殺気を出していたりして怖がらせていたら俺たちも疲れちゃうからねえ。」
本番の時だけ怖くなるんだよ、と教えてくれた。
「そうなんだ〜。」
なんだか新発見したような気分にイルカはなる。
暗部の人も普通の人と変わりないんだなあ、と。
「それより。」と銀色の髪の暗部はイルカの食べている握り飯を指差した。
「いつ、食べ終わるの、それ?まだ、一個目でしょ。」
もっと食べるように言われるがイルカは、首を振る。
「俺、もう、お腹いっぱいで・・・。」
「えー、嘘〜。」
銀色の髪の暗部が驚いたように言った。
「だって、食べ盛りな年でしょう?十二くらいって。」
銀色の髪の暗部はイルカの体型から年齢を推定したらしい。
「俺は十二歳じゃないです。」
イルカは強く否定した。
「今、十三だけど、来月で十四になります。」
「そう。・・・にしても食べなさすぎじゃない。」
俺が十三、四の頃には毎日三食じゃ足りなかったな〜とか言っている。
「い、いいじゃないですか。食事の量って人それぞれで個人差があるし・・・。」
イルカは困ったように言って、握り飯を一口食べる。
手の中の握り飯は中々、減らない。
美味しいのだが、イルカは食べるのが遅かった。
「そんなことより。」
イルカは銀色の髪の暗部の髪を見た。
「暗部の人って暗闇の中を暗躍するイメージなのに、そんな派手な髪色していていいの?」
暗部の中で銀色の髪はイルカの目の前にいる暗部だけで、他の暗部は黒髪や茶色の髪だ。
「あのねえ。」
銀色の髪の暗部は最後の握り飯の欠片を口に入れ、飲み込んでからイルカを面の下から軽く睨んできた。
「この髪の色がフェイクだとか思わないの?染めてるとかウィッグだとかさ。」
その言葉にイルカは目を、ぱちぱちとさせた。
「え、じゃあ、その髪って。」
驚愕の言葉を放つ。
「鬘なの?実は禿げているの、もしかして?」
子供という生き物は、ある意味怖いもの知らずで、そして純粋なる好奇心から素直に直球で訊いてくる。
銀色の髪の暗部は訊かれた内容に思いきり、のけぞった。
だが、そこは暗部の底力で、すぐに立ち直る。
「俺は、まだ若いの!十七なの!禿げてる訳ないでしょうが!」
この髪は地毛だ!と息巻いた。
「へええ、十七歳なんだ〜。」
イルカは別のことに感心している。
「若いのにすごいねえ。そういうの立身出世って言うんでしょう?」
変なところで小難しいことを言って大人ぶっていた。
「そんなことはいいから。」
銀色の髪の暗部は、つんとイルカの額を突っついた。
暗部が装備している鉤爪は、とっくに外してある。
「早く、お握り食べちゃいなさい。」
怒ったように言う。
「あ、はい。」
イルカは手に持って握り飯を食べることに専念する。
暫く会話はなくイルカが握り飯を食べ終わったのを見計らって暗部はイルカに、茶をくれた。
「すみません。」
もらった茶を飲み、イルカは一息つく。
「ふー、お腹いっぱいです。」
「そ、よかった。」
それから銀色の髪の暗部はイルカの体を、じろじろと見た。
「なんですか?」
「いや、さ。」
暗部は、出し抜けにイルカの手首を取る。
「十三、だっけ?なのに、この手首細いなあと思ってさ。細い体に重そうな長刀を背負っているけど重くない?エモノが大きすぎて体のサイズがあってないようだし。」
イルカは初めて任務で張り切って、家宝の長刀を持ってきたがイルカの身丈には、ちょっと大きかった。
「い、いいじゃないですか。だって、刀ってカッコいいし・・・。」
「まあねえ・・・。体重は何キロ?四十キロあるの?」
「・・・ありますよ、五十キロ近いです。」
「ふーん。」と銀の色髪の暗部は面の下で疑わしげな目つきなった。
「さっき、持ち上げた時、とても五十キロあるとは思えなかったけどなあ。そんな、体重で自分の体の倍以上の重さの米百キロを持って来るなんて、すごいよねえ。」
一応、褒めてくれたらしい。
「・・・体重なんて、どうだっていいじゃないですか。」
ちょっとイルカは怯む。
「俺の体重なんて。」
「ま、ね。」と銀色の暗部はイルカの手首を静かに離した。
「体が小さいから、ちゃんと食べているか心配になったんだよ。さっきもお握り一個しか食べてないしね。」
う、とイルカは口篭り、それから銀色の暗部を見つめた。
「心配してくれてありがとうございます。・・・それに。」
上目遣いに銀色の暗部を見て、照れくさそうにする。
「嬉しいです。」
そう言って笑顔を見せた。
「うん。可愛い顔。」
銀色の暗部は自然な流れでイルカの頭から頬を撫でて次いで、するりと首筋を触る。
「くすぐったい。」とイルカが肩を竦めた。
「可愛いなあ、この子。」
銀色の暗部の手はイルカの背に伸びて、小さな体を自分の方に引き寄せる。
小さい体が吸い込まれるように、すっぽりと暗部の体に収まった。
柔らく抱きしめられ、イルカは銀色の髪の暗部の体温に安心する。
抱きしめられることで亡き両親を思い出し胸が、いっぱいになっていたのだった。
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