うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子27
イルカがいない・・・。
そのことに呆然とすると共に急にカカシの心臓は、どきどきと音を立て始めた。
履き慣れてない下駄で歩くのが遅いはずなのに、いなくなるのだけは早いなんて。
どこかで、また転んでいるかもしれないし。
とにかく、イルカを探さないと。
それに、今日は自分が欲しい物を買ってあげると約束していたのでイルカはお金を持ってない。
そのことも気掛かりだ。
まさか、ないとは思うけど誰かに何かを買ってあげると言われて付いて行ったり、よもや攫われたりなんて・・・。
カカシの想像は嫌な方向に、どんどんと膨れ上がり居ても立っても居られず、急いでイルカを探すことにした。
探せど探せどイルカは見つからない。
見つからないというより見つけられないのだ、人が多すぎて。
「あー、もう!人多過ぎ!」
いらいらとカカシは呟いた。
祭りである今日はイルカくらいの年頃の子供が大勢来ていて浴衣を着ている子供も数多く見受けられる。
家族連れも多く、人ごみで溢れかえっていた。
この中から一人の人間を探すのは至難の業といえる。
「・・・雷切りで、ふっ飛ばしちゃおうかな。」
物騒な考えがカカシに頭に浮かんできた。
もちろん、そんなこと出来っこないのは承知の上だが。
イルカを探すうちカカシは喉が、ひどく渇いてきた。
九月中旬を過ぎたといっても、まだまだ暑く、イルカが迷子になったことで緊張と苛立ちから喉が、からからになってしまっていた。
幸い、祭りなので飲み物を売っている店は、たくさん出ている。
「一つ、ちょうだい。」
そう言ってカカシが買ったのは缶ビールであった。
二十歳になってからカカシはビールというか、酒を飲む機会が余りなく、殆ど初めての状態でビールを口にしたのだがイルカを見つけられないことで焦っていて、飲んだものがビールだとは気が付いていなかった。
ちょっと苦いな、と思ったくらいで、喉を潤したという感じだ。
一気に飲んでしまったビールの缶をカカシは手の中で握り潰すとゴミ箱に放り投げて、再びイルカを探し始めた。
喉が渇いてはビールを飲んでを三回くらい繰り返してカカシは、やっと目当ての子を発見することに成功した。
前方に、黒髪を頭の天辺で括り、浴衣の柄が兎と三日月の子がいたのだ。
イルカに間違いない!
カカシの勘は、そう訴えていたが、だがしかし!
盛大にカカシは眉を潜めた。
イルカは誰かと一緒だったのである。
後ろから見たところだが、イルカが一緒にいるのは男性のようで背が高く髪は短く茶色い。
その人物とイルカは仲良く手を繋ぎ、時折、顔を見合わせては親しげに話して笑っているようだった。
時々、見え隠れする横顔にもカカシは見覚えがない。
イルカの知り合いだろうか・・・。
誰だろう?
心当たりが全くないカカシは用心しながら近づいた。
イルカと一緒にいる人物から危険は感じないけれど、いつ、どこで豹変するか分からない。
イルカは手を繋いでいる人物に全く警戒心を抱いてないようで、しっかりと手を握っている。
そこが、またカカシの癇に障る。
感単に人を信用しちゃ駄目だって!
おまけにイルカのもう片方の手には、一緒にいる人物に買ってもらったのか、飲みかけのラムネのビンが握られている。
この暑さでは喉が渇くのは仕方がないとしても、だ。
見も知らぬ人から、物を買ってもらったりしちゃあ駄目でしょ、イルカ!
それは誘惑の第一歩っていうか、攫われる一歩手前っていうか・・・。
すっごく危ないんだからね!
カカシは思い切り、心の中で叫んでいた。
イルカと見知らぬ人物の妙な仲の良さに、いよいよ苛立ちを募らせたカカシは二人の前に音もなく、すっと姿を現した。
最初に言葉を発したのはイルカだった。
「あっ、カカシさん!」
嬉しそうに声を上げる。
「良かった、いた!」
どうやらイルカもカカシを探していたらしい。
ほっとしたような顔をしている。
イルカの無事な様子にカカシも安心したのだが、問題はイルカを一緒にいた人物だった。
「・・・・・・・・・よう。」
「・・・・・・・・・ども。」
相手の人物は短い挨拶をするとカカシから顔を逸らす。
それはカカシも、また同様だった。
非常に気まずい雰囲気が立ち込める。
その人物の顔は確かにカカシは知らなかった。
相手もカカシの顔は知らないに違いない。
だが知り合いだったのだ、お互いに。
そんな二人の気まずい様子にイルカだけは何が何だが判らずに首を傾げて、手にしたラムネを飲みながら二人を見ていた。
相手は暗部の仲間だった・・・。
お互いに顔は見たことがないけれど、暗部同士なら暗部特有、独特の雰囲気を一種持っているので判る。
「あのなあ。」
相手から疲れたような声が漏れた。
「俺だってなあ、偶には仕事から離れて、のんびりしたいんだ!」
「・・・・・・はあ。」
「そしたら神社で祭りなんてしているじゃないか!仕事とは違う、日常の空気を味わいたくて来てみたら!」
そこで何故か、ぎゅっとイルカの手を握り締める。
カカシは、それが面白くない。
イルカを自分の元に呼び寄せようとしたのだが暗部の仲間の話が、それを遮った。
「ちびっ子が危なっかしげな足取りで、一人でうろうろしているし!」
この暗部の仲間はイルカのことを知っていた。
以前にイルカが暗部の集合場所へ食料を届けに来た時から知っているのだ。
「今にも転びそうなのに何回も転ぶ間際で踏み止まって!冷や冷やしながら見ていたら、あっちにうろうろ、こっちにうろうろしているし!」
暗部の仲間は勢い込んで言う。
「そんなちびっ子に手を差し伸べない訳にいかないだろうが!訊いたら迷子になったって言うし!ついでに転びそうになって歩いている、ちびっ子と手を繋いだりするだろ、思わず!」
要するに迷子になったイルカを見て心配になったらしい。
その言い分は理に適っている。
「・・・・・・まあ、気持ちは解らないこともないけどね。」
渋々、カカシは同意する。
良心からイルカのことを心配してくれてイルカと一緒にカカシを探してくれていたらしいから。
しかし・・・、とカカシは眉を潜めて、きつい目つきなった。
イルカと手を繋いでいるのはいただけない。
一刻も早くイルカを自分に返してほしかった。
イルカはカカシの、そんな想いを知ってか知らずか手を繋ぐことに違和感はないようで手を放す気配はない。
そのことに無性に、いらっときたりする。
イルカには自分だけと手を繋いでいてほしかった。
それが独占欲というものだ、ということにカカシは気がついていない。
仲間の話は続いていた。
「そして手を繋いで歩けば、ちびっ子は喉が乾いたのかラムネを見ているし、飲みたいかと問えば頷かれて・・・。」
それでイルカはラムネを手に持っていたらしい。
「そこで頷かれたら買ってやらない訳にいかないだろ!それが二回でも三回でも!」
イルカは既に何本目かのラムネを消費しているらしかった。
「とりあえず、礼は言うけど。」
暗部の仲間の言い分を了解したカカシは一番、言いたかったことを言った。
「握っているイルカの手を今すぐに放して・・・。」
カカシはイルカに手を差し伸べる。
「俺にイルカを返してくれる?」
それが一番、言いたいことだった。
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