うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子25
「せんせーの鬼・・・。」
その日、修行だったイルカは夕方、疲れた体を引き摺って家路を歩いていた。
せんせーとは上忍師の先生で今日は徹底的に、しごかれたのだ。
全身、泥だらけで服も髪も汚れている。
顔も手も真っ黒で風呂に入って洗い流したい。
でも、それよりも・・・。
「寝たい・・・。」
イルカは呟いた。
疲れた体は休息を求めており、体は眠たがっている。
「あー、今日は・・・。」
ご飯も何もいらないから、とにかく寝たい。
イルカは切実に、そう思った。
家に着き玄関の扉を開けると、室内には人の気配がない。
「カカシさん、出かけたのかな・・・。」
上忍の先生に聞いた、いいことをカカシにも教えようと思ったのに。
その日は先生が任務を早く終わらせてくれると言っていたのに。
残念だ。
もしかしてカカシさん任務?と思いながらイルカは玄関に膝をつく。
そのまま、玄関先に倒れこんだ。
瞼が体の欲求に素直に従って、すぐに落ちてくる。
眠い・・・。
せめてベッドに行こうとしたが体がいうことを利かない。
眠りに落ちながらイルカは、ぼんやりと思った。
再開した時、カカシさんに夕ご飯、朝ご飯食べてないか訊かれたけれど・・・。
今日と同じく、あの日は修行で疲れて玄関先で寝てしまい朝まで起きなかったのだ。
というか、起きることが出来なかった。
俺って体力ないな〜。
微かな苦笑を浮かべたイルカは、こんな情けない姿、カカシさんに見られなくて良かった、と心のどこかで安堵していた。
穏やかな人の気配と温かい空気、カレーのいい匂いでイルカの意識は覚醒した。
薄っすらと目を開けると天井が見えた。
夜、眠るときによく見る天井。
体は温かく、柔らかい場所にある。
目を、ゆっくりと開けると、そこはベッドの上だった。
「あ、イルカ。起きたの?」
台所からカカシの声がした。
「おはよう、って今、夜だけど。起きてよかった、朝まで眠るんじゃないかと思っていたから。」
ベッドの上で体を起こすと汚れた忍服ではなく、寝巻きを着せられていた。
見たことのない寝巻きで、袖丈が長くサイズが少し大きい。
「あ、それね。」
寝巻きを見るイルカの訝しげな視線を感じたのかカカシが説明する。
「今日、家に帰って荷物を少し持ってきてね。」
やはり、カカシの持ち物の寝巻きだったらしい。
「帰ってきたらイルカが玄関先で倒れているし、ベッドで寝せようとしたけど、余りにも服が汚れていて・・・。」
やむを得ず、俺の持ってきた服着せたんだよ、とカカシは言った。
イルカの近くに来て顔を覗き込む。
「すごく疲れているみたいだったから、起こすのも可哀想かなって思ってね。」
修行、大変だったの?と訊くカカシにイルカは、こくんと首を縦に振った。
「そっか、中忍になって頑張っているんだね。」と頭を撫でてくる。
にこりと笑ってイルカの労を労ってくれるカカシにイルカは体の疲れが、とれていくように感じた。
「・・・ありがとうございます、カカシさん。」
ぺこりと頭を下げる。
「着替えもしてくれて服も貸してくれて・・・。」
「あっ、着替えね。」
着替えのことを言うとカカシは何故か、どきっとしたようだ。
「着替えっていっても着替えさせただけで・・・。あの、その、えーと、俺、何にもしてないから!」
妙に焦っている。
「悪いことしていないし、服が汚れていたから着替えさせてただけで・・・。本当に、それだけだからね!」
カカシが何を言いたいのか、よく分からない。
でもイルカの世話を焼いてくれたのは事実な訳で。
イルカは、もう一度カカシにお礼を言ったのだった。
「あっ、そうそう!」
話題を逸らすべくなのかカカシが台所に行き、何かを手にして戻ってきた。
「はい、これ!作ったから飲んでみて。」
嬉しそうにカカシが差し出した、それはコップに入った何かだった。
液体のようなもので色が曇りの日の空のように、どんよりしている。
「・・・それは何です?」
なんだか嫌な予感がしたイルカが訊くとカカシが答えた。
「野菜ジュースだよ。イルカ、野菜食べないでしょう?」
だから摂りやすいようにジュースにした、とカカシは言うのだか・・・。
イルカは、そのジュースという名の液体を口にするのを躊躇ってしまう。
色が恐ろしいほど、くすんでいて、黒のような紫のような藍色のような、表現できない色になっている。
以前にカカシが果物のジュースを作ってくれた時にも思ったのだが、色がこわい。
イルカは、ふるふると首を振った。
カカシの好意は嬉しいが、絶対に飲みたくないと思ってしまったのだ。
「・・・ごめんなさい。」
謝るとカカシは「いいよ。」と笑って、もう片方の手に持っていたコップをイルカに差し出してきた。
「じゃあ、こっちなら飲めるよね?」
それはイルカがリクエストしたことのある、果物のジュースだった。
「うん!」
嬉しそうに頷き、コップを受け取る。
全部、飲み干した。
果物のジュースは美味しい。
「よかった。」とカカシも嬉しそうだ。
「家からミキサー、また持ってきたんだよね。」
カカシが家から持ってきた荷物の中にはミキサーも含まれていたらしい。
イルカの飲まなかった野菜ジュースをカカシは、あっという間に飲み干してしまった。
「そうだ、カカシさん!」
イルカは思い出した。
上忍の先生が言っていたことを。
「あのね、もうすぐ神社で秋のお祭りがあるんだって!」
今時分、季節は九月で秋だった。
秋でも、まだ暑い。
「その日は任務も早く終わるから一緒に行こうよ!」
もう何年もイルカは祭りと称するものに行ってはいない。
一人では決して行きたくはなかった。
だけど今年はカカシがいる。
カカシと行ってみたかった、お祭りに。
「へえ、秋の祭りねえ。」
興味深そうにカカシは呟く。
「そういや、この前、俺、年とったけ。」なんて言っている。
それからイルカの耳元で、ひそっと囁いた。
秘め事でも言うように。
「いいよ、じゃあ、二人で行こうか。」
お祭りに。
カカシと一緒にお祭りに行く。
それは、とても楽しい予感がしてイルカは胸を、わくわくさせたのだった。
うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子24
うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子26
text top
top