うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子15
カカシに伝えられた任務は里内で行う任務だった。
ただし暗部としてであったけれども。
「なんで休暇中に呼び出すかなあ。」
任務に来てからカカシは不機嫌そうに呟き続けている。
「俺、忙しいのになあ。」
一緒に任務に呼び出されたカカシの隣で待機していた暗部の一人は眉を顰めた。
さっきから、ずっとカカシの愚痴に似た呟きを聞いていたのだ。
「いいじゃないか。長期休暇で里にいられるんだから、単発任務くらいは。」
「だってさ〜。」
「要人警護なんて、すぐ終わるだろ。あの大名は夕方には帰るらしいから、そしたら俺たちの任務も終わるじゃないか。」
「そうだけどさ。」
カカシは面の下で浮かない顔をする。
「俺、夕方までに帰って夕飯の支度をしないといけないんだよねえ。」
「夕飯?」
意外な言葉に他の暗部は、びっくりしたようだ。
「カカシが夕飯作るのか?」
因みに暗部同士では普通に名前を呼び合っている。
「へええ〜。」
茶化すような感じで注目されてカカシは、ちょっとむっとしてしまう。
「しょうがないだろ。だって、イルカがご飯食べないから心配で心配で。」
「イルカ?」
今度は別の暗部が反応する。
「イルカって、この前、米を届けにきた、あのちびっ子か?」
「そうだよ。」
この暗部は、あの時、カカシと一緒の任務に就いていてイルカに握り飯を渡した本人だった。
「里に帰ってきて偶然会ったんだけど体は大きくなってないし、ご飯も野菜も食べないで炭酸入りのジュースやお菓子やアイスばっかり食べているみたいなんだよねえ、あの子。牛乳も嫌いみたいだし。」
「ふーむ。そうだったのか・・・。」
握り飯を渡した暗部は腕を組み、心配そうな声を出した。
「だからさ、俺、早く帰らなくちゃいけないの。」
仲間内ということで少々、気が緩んだのかカカシは悩みも打ち明けてしまう。
「子供にご飯食べさせるのは、どうしたらいいのかなあ。」
「そりゃあ、あれだ。」
カカシの話を聞いていた誰かから声が上がった。
「楽しい食卓を演出すればいいんだよ。」
「楽しい食卓。なるほどねえ。」とカカシは頷いたものの、すぐに首を捻った。
「楽しい食卓ってどんなの?」
想像がつかない。
「それはだなあ。」
先ほどの声が上げた暗部が得意げに語りだした。
「テーブルには白いレースのテーブルクロスがかけてあって・・・。あ、もちろん手編みのな。テーブルの中央には白磁の一輪挿しにチューリップ。チューリップの色は赤か黄色だな。料理は愛情たっぷりの手作りで、ふわふわの焼きたてのパン、野菜がたっぷり入った湯気の立つスープにオーブンでこんがりと焼いた鳥の丸焼きが、でんとテーブルに乗っているのがいい。」
すると別の暗部も言い出した。
「俺はテーブルクロスよりも一人一人にランチョンマットがいいな。色は黄色と黄緑のチェック柄で、その色に合わせて食器も揃えたい。そして、ご飯に味噌汁、あとは漬物と煮魚か焼き魚があればよし。」
「えー、そうか。」
別の暗部も口を出す。
「テーブルの上はテーブルクロスもランチョンマットもいらないだろ。それよりテーブルの上に所狭しと、いっぱい料理があった方がいいがなあ。テーブルいっぱいに大皿料理が乗っていて皆で取り分けて食べる。料理が温かくて美味しければ、俺は満足だ。」
だんだんと話題が明後日の方向に向かっていた。
皆、それぞれに夢と理想があるらしい。
食卓議論を繰り広げる暗部たちを尻目に、最初にカカシに声を掛けた暗部と握り飯をイルカに渡した暗部が現実的なことをカカシにアドバイスした。
「子供はカレーが好きだから、カレーを作ってやったらどうだ?」
「作り方も簡単だしな。」
「野菜が嫌いだったら小さく切って煮込めばいい。牛乳を飲むのが苦手なら牛乳をカレーに入れて煮込めば分からないし、カレーを食べれば牛乳が摂取できる。」
「牛乳もフルーツ味とかコーヒー味とかあるから、そっちから攻めていくという手もある。」
「それに。」と、あることを指摘された。
「カカシは去年か一昨年か、暗部の忘年会のビンゴゲームの景品でミキサー当てていただろ?」
「・・・・・・そういえば。」
カカシも、すっかり忘れていたことを言われる。
「それに果物を入れてミキサーしてジュースにして飲ましてやれば、いいんじゃないか?果汁百パーセントだし体にいいだろ。徐々に野菜も少しずつ混ぜてみれば、きっと飲む。」
「そうか〜。」
すっかり、感心したカカシは素直に礼を述べた。
「いろいろ、ありがと。試してみるよ。」
でも、と、ふと疑問に思ったことを口に出す。
「何で俺がミキサー当てたの覚えていたわけ?」
「あ、いやなあ。」
ミキサーのことを言った暗部は面の下で照れ笑いをしたらしい。
「カカシがミキサー当てたの見て、いいなあと思って後日、買ったんだよ、実は。」
「へー。」
「それで、そのミキサーで野菜ジュースを作って家にいる時は毎日、飲んでいるんだ。」
「なんで?」
「健康には気をつかっているんだ。」と自慢げに言われた。
健康に気をつかう暗部・・・。
そんな言葉がカカシの頭に思い浮かぶ。
そしてカカシの後ろでは暗部による、いまだ決着のつかない食卓議論が続けられていた。
夕方、任務から開放されたカカシは早速、作っていたカレーを。
イルカの家で。
イルカの家には調理器具が何もなく、食器もコップが一つしかなかったので総てカカシの家から持ってきた。
一応、カカシの家には使わずとも、それなりに調理器具も食器もあったからだ。
イルカの家でカレーを作る許可はとっていないが、まあ、許してくれるだろうと気軽に考えてカカシはカレーを作る。
「えーと、ふむふむ。なるほど〜。」
カレールーの箱の裏側に簡単に書いてあった調理方法を見てカカシは手際よくカレーを作っていった。
初めてにしては上手にできた!と自画自賛して、ご満悦だ。
「おいし〜。」
味見しても、ちゃんと食べれるように出来ていた。
子供用に味も甘口にしてある。
「これならイルカも食べるよね。」
ピーッと音がなり炊飯器が米の炊き上がりを知らせてくれた。
「おー、ナイスタイミング!」
後はイルカが帰ってくれば、ばっちりだ。
事が上手く運んだことにカカシは満足そうな笑みを浮かべる。
「イルカ、早く帰ってこないかなあ。」
そう言って玄関を見ると、そこには・・・。
イルカが立っていた。
驚愕の眼差しでカカシを見ている。
「なんで・・・。まだ、いるの?」
発した声は掠れていた。
「もう帰ったと思っていたのに。」
それから唇を強く噛んだイルカは何かを堪えるように顔を歪ませた。
泣きそうな顔だ、とカカシは、ぼんやりと思う。
だが、カカシに顔を見られたくないのかイルカは俯いてしまった。
「俺がいない間に帰ってくれたらよかったのに。」
噛み締めた唇の間から苦しげな声が漏れる。
「イルカ?」
ただならぬイルカの様子にカカシは心配になりイルカに近づき肩に、そって触れると微かに震えていた。
「別れは嫌いだ。」と小さな声で囁かれた。
そっか・・・、とカカシは思い至る。
誰かと別れる事に対して怯えているんだ、イルカは。
「大丈夫。」
震えるイルカの肩を抱き寄せた。
イルカの小さい体がカカシの大きな体に、すっぽりと収まる。
「どこにも行かないから。」
休暇の間、邪魔にならなければここにいよう、とカカシは思った。
イルカの家に。
なるべく独りにさせないように。
「ほんと?」
「うん、ほんと。」
頼りない声に力強く答えると、緊張していたのかイルカの体から力が抜けていくのが分かった。
そしてイルカの体の震えも止まっていたのだった。
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