うちの子どんな子かわいい子、おれのあの子はかわいい子10
カカシに対して警戒心を解いたようなイルカと手を繋ぎ歩くのは快適で心が弾む。
イルカの小さな手を包み込むようにカカシは握った。
手は柔らかくて握っていると、なんだか心がぽかぽかとしてくるがイルカの手が相変わらず小さいことが少し気に病まれる。
イルカを、どこに連れて行こうかと暫し悩んだ挙句、結局、カカシは時々一人で訪れる店へとイルカを誘った。
そこは安くて美味しく、値段に対して量の多い定食が食べれる店である。
ご飯のお代わりも自由にできるのだ。
イルカの手を握ったまま、カカシは店の暖簾とくぐる。
中途半端な時間帯なので店は空いていた。
空いたテーブル席に向かい合わせに座りカカシはイルカに訊く。
「何か苦手なものある?」
イルカは、ふるふると首を横に振った。
「じゃあ、俺と同じメニューでいい?」
もう一度、訊くとイルカは首を縦に振る。
カカシは適当に選んだメニューを二つ注文した。
注文した定食が、すぐにカカシとイルカの元に運ばれてきた。
ちなみにご飯は大盛りにしてもらっている。
運ばれてきた定食を見てイルカは、ごくりと唾を飲み込んだ。
そしてカカシに訊いてきた。
「これって・・・。何人前ですか?」
「ん?一人前だよ。」
「一人前ってことは、これで一人分!」
イルカは目の前の温かそうな湯気を出す味噌汁や、つやつやと光るご飯が盛られた茶碗を見て息を飲んでいる。
定食には食べたら、さくさくと音を立てそうな大振りな揚げ物が何品かとキャベツの千切りが、山と盛られた皿があり、ついでに漬物の小鉢もついていた。
割と定番な感じの定食だ。
「これ、一人で食べるんですよね?」
「そうだ〜よ。」
カカシは答えると手を合わせて「いただきま〜す。」と言い、早速食べていた。
対してイルカは箸を持つを、まるで挑むような気迫でご飯に箸をつけた。
「いただきます。」
真剣な表情だ。
だが、ぱくりとご飯を一口食べると表情が一変した。
顔が、ぱっと輝く。
「美味しい!」
「そう、なら良かった。」
カカシは、にこりと笑うと「たくさん食べなさい。」とイルカに言っていたがカカシの茶碗にあったご飯は既に空で、二杯目をお代わりしている。
「食べないと大きくなれないからね。」
そう言うとイルカは「はい。」と笑顔で返事をしたのだった。
「イルカ、大丈夫?」
食事を始めてから一時間以上が経過していた。
詳しく述べると、イルカが食事を始めてから一時間以上が経過していた、である。
カカシは、とっくの昔に食べ終わって茶を飲みながらイルカの食べる様子を見守っていた。
「あのさ。残してもいいんだよ?」
イルカは頼んだ定食は、やっと半分食べたところだ。
一生懸命にイルカは食べているのだが口に入った食べ物が中々、喉を通過しないらしい。
飲み込めないというより、腹の中に入っていかないみたいであった。
どうやらイルカは満腹のようで、これ以上は食べるのが厳しい状況のようだ。
その様子を見てカカシは、失敗した、と感じていた。
一度、イルカの食べる様子を見ているが、あの時も一つの握り飯を食べるのに、えらい手間取っていた。
人によって食べる量は違う、と、そんなことを、つくづく感じる。
自分が食べれる量だから、と言って、他の人も同じとは限らないのだ。
体の小さいイルカのことを、もっと考慮すべきであったとカカシは後悔する。
食事を始めた頃はイルカは「美味しい!」と言っては楽しそうに食べてはいた。
しかし表情は、だんだん暗くなっていき食べることが、まるで任務か修行のようになっている。
箸を持つ手も重そうだった。
カカシは、もう一度、言った。
「イルカ、残してもいいんだよ?残りは俺が食べるから。」
だがイルカは首を振るばかりだ。
前にも思ったが意外に頑固である。
「うん、分かった。・・・無理しないで、食べてね。」
カカシの言葉にイルカは頷き、黙々と食べ始めた。
ようやくイルカが食べ終わったのは食事が始まってから、二時間近くなる頃であった。
食べ終わったイルカは箸を置いて手を合わせる。
「ご馳走様でした。」
「うん。ちゃんと食べたね、偉いね。」
カカシはイルカを褒めると頭を撫でた。
頭を撫でるとイルカは擽ったそうしながらも嬉しそうにする。
「ごめんね、無理に食べさせたみたいで・・・。」
なんとなく罪悪感を覚え、そんなことを言うとイルカは「俺の方こそ、ごめんなさい。」と言ってきた。
「なんで?」
イルカが謝る意味が解らなくてカカシは首を捻る。
「だって。」とイルカは恥ずかしそうに肩を竦めた。
「ずっと待たせてしまったし。それに・・・。」
カカシの前を指差す。
「俺が食べ終わるを待っている間、お腹減ったんでしょう?もう一回、ご飯頼んでいたじゃないですか。」
「・・・ああ。」
結構、食べ盛りなカカシはイルカを待っている間、腹が空いてしまって、もう一度定食を頼んで食べていたのだ。
そして、それもイルカよりも早く食べ終わっていた。
「まあ、それはねえ・・・。人が食べているのを見ると、なんでか腹が減るんだよねえ。」と苦笑いを浮かべる。
「そうですか。」
イルカは、ちょっと照れたように笑った。
「でも食べ終わるのを待っていてくれて、ありがとうございました。・・・・・・ご飯の量は多かったけど一人で食べるより誰かと食べる方が美味しいですね。」
「そっか・・・。」
その言葉に何気なく胸が、ちくりと痛んだが知らない振りをする。
そしてイルカを促し店の外に出た。
「さ、行こうか。」
会計は疾うにカカシが済ませてしまっていた。
二人が店の外に出ると、もう夕暮れになっていた。
夕日が目に染みる。
「ふー。」とイルカは全身で伸びをした。
それから自分の腹を擦る。
「お腹いっぱいです。すっごい食べました。」
「うん、俺もお腹いっぱいだよ。」
カカシも久しぶりに食事をしたような気分になる。
「たくさん食べたので、もう今日の夕飯も明日の朝食も昼食もいらない気がします。」
「え、夕飯は、ともかくとして・・・。」
カカシは眉を潜める。
明日の朝までには腹が減るんじゃないか、と。
「ところで、これからイルカはどこかに行くの?」
イルカと離れたくなくて、そんなことを訊いてしまった。
「あ、えーと。何か食料とか買いに。」
「へええ。」
カカシは興味がわく。
どんな食料をイルカは買うのか、と見てみたくなった。
「あ、じゃあ、俺も一緒に行く。」
イルカの返事も待たずに強引に、そう決定する。
「いいよね?」
「あ、はい。」
イルカは、すっかり警戒心を解いているのか、あっさりと了承した。
「でも・・・。」
「でも?何?」
カカシを見てイルカは、何やら言い難そうにしている。
「あのー、ですね・・・。」
「どうしたの、言ってごらん。」
励ますように手を握ってやるとイルカは、ぽつりと呟いた。
「名前。」
「名前?」
「なんて呼べばいいのか・・・。」
「誰を?」
イルカの人差し指がカカシを指す。
「あ・・・。ああ、俺ね・・・。」
そう言えば、イルカに自分の名前を名乗ってなかったと今更のようにカカシは思い出したのだった。
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