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ただ愛しいだけなのに5



カカシの言葉を聞いて微笑んだイルカは何も言わなかった。
その表情には寂しさが混じった諦めのようなものがある。
カカシが新たに注いでくれたグラスの酒に口をつけて一口飲んだ。
こくり、とイルカの喉が鳴る。
カカシは、その様子から目が離せなかったのが、はっとしたように、がばっとテーブルの上に両手を着くと頭を下げた。
余りに勢いよく下げたものだから頭がテーブルにぶつかり、がつんと派手な音がする。
「イルカ先生、この間はごめんなさい!」
率直に謝った。
「誤解して酷いことを言ってイルカ先生を傷ついてしまってごめんなさい」
ごめんなさい、とカカシは繰り返す。
「この間って・・・」
困惑したようなイルカの声。
「ほら、あのですね」
思い出すのも口に出すのも嫌だったが自分でやったことなのだから仕方がない。
カカシは潔く言った。
「あの、一ヶ月以上前にイルカ先生がアンコと餡蜜食べていたときにですね、言った・・・」
「ああ」
カカシより早くイルカが、あっさりと言う。
「浮気とか二股って言ったことですか?」
「そうです」
ごめんなさい、と、もう一回言って、恐る恐る頭を上げるとイルカと目が合った。
イルカは特に怒ってもいないようで。
「そのことなら気にしないでください、俺も気にしていませんから」
言い方は丁寧だが、どこか突き放すような言い方である。
「イルカ先生、怒ってますよね?」
「怒っていませんよ」
怒っていないという人間ほど怒っているのが世の常だ。
不穏なものを感じたカカシは誠心誠意、謝罪の言葉を口にする。
「すみません、疑うようなことして、酷いこと言ってしまって」
「もう、いいじゃないですか」
ふっと視線を逸らしてイルカは目を閉じた。
「最後にカカシさんと話ができて良かったです・・・」
そんなことを言った。



「さ、最後って・・・、なんで・・・」
どういう意味か分からなかった。
「イルカ先生・・・」
「付き合うってほど付き合っていませんから、最後ってのもおかしいですよね」
目を開けたイルカは俯いた。
両手でグラスを握って、グラスの中の酒を見つめている。
「付き合ってから二人きりで会うのって初めてですね」
「それは、仕事で擦れ違っていたから・・・」
「考えてみれば男同士で付き合うってのも無理がありますし」
イルカの言葉は自身に言っているようだった。
カカシを見ていない。
「上忍と中忍では階級が違いますから支障が出るでしょうし」
「階級なんて関係ないじゃないですか」
「それに・・・」
それに、とイルカの声が細くなる。
「同姓同士の恋愛なんて不毛ですよ、何も生まない。若いうちはいいかもしれないけれど年を取ったら、きっと・・・」
「きっと?」
イルカが何を言いたいのか、カカシにはさっぱり見当がつかなかった。
けれどもイルカが強い意志を秘めて言葉を発していることは確かだった。
「きっと後悔します」
イルカの声は微かに震えていた。



「後悔って、どうして?」
努めて優しい声を出してカカシはイルカに聞いてみた。
イルカは何かを隠している。
その隠しているものの正体が知りたかった。
「俺は何も後悔なんてしてません。この前の俺の酷い発言でイルカ先生が怒っているのなら、いくらでも謝ります。イルカ先生の気の済むまで。謝ってもイルカ先生が俺を許せないと言うのなら、それでも構いません」
でもね、と自分を見ないイルカの手にカカシは、ちょんと触れる。
びくっと反応するイルカの手。
ちらりと、イルカが自分を見るのを確認してからカカシは、にっこりと笑った。
「俺、何があってもイルカ先生と別れる気なんてありませんからね、絶対に。何があろうとも」
この関係は崩しません壊しません。
にっこりと笑いながらカカシは宣言する。
「俺とイルカ先生は一生、死ぬまで恋人同士です」
もっと細かく説明すると言うと未来永劫、魂のある限り永遠に。
そんなカカシの無茶苦茶な宣言を聞いて退くかと思ったイルカであったが意外なことに「本当ですか」と聞いてきた。



「い、今、言ったことって本当ですか?」
俯いていた顔を上げて、大きく目を見開いている。
信じられないとでもいうように。
「本当ですよ」
「本当に本当ですか?」
「もちろんです、本当に本当です」
「嘘じゃありませんか?」
「嘘じゃありません、嘘を吐く理由がありません」
「カカシさんの本心ですか?」
「本心です、本心以外の何物でもないです」
カカシの言葉に縋りつくように反復してくるイルカの瞳は頼りなく揺れている。
何か・・・。
何か言葉ではない揺ぎないものが欲しいような・・・。
「そうですか・・・」
再び、俯いてしまったイルカはグラスの酒を飲み干してしまった。
これで、もう二杯目を空にしている。
「イルカ先生、大丈夫?」
カカシが気遣うとイルカは、それには応えず呟いた。
「信じられたらいいのに・・・」
悲痛な声だった。
「信じたいのに・・・」
胸が切り裂かれそうな声だった。



「イルカ先生、何かあったんですか?」
この言い方は正しくなかったかもしれない。
「何があったんですか?」
ぎゅっと唇を噛んだイルカは何かを言いたげだけど言わない。
「言ってください、言わなきゃ分からないです。ここは俺の秘密の隠れ家で俺たちの他には誰もいません。侵入もできません。誰も見ていないし聞いてもいません」
安心するようにイルカに言ってカカシは、じっとイルカが話すのを待つ。
急かしたい気持ちはあったが、それは得策ではないと感じた。
透明な酒をイルカの空になったグラスに注いだ。
イルカが話し始めるのを待っている間、カカシの方が気を落ち着かせることができなくて酒を何杯か飲んでしまった。
本来ならイルカと二人きりの酒で美味いはずなのに、何の味もしない。
まるで水の如しだ。



イルカは、ぎゅっと割れんばかりにグラスを握る。
「カカシさんの・・・」
ようやく喋った。
「カカシさんの昔の恋人が・・・」
「こ、恋人って」
思わず、口に含んでいた酒を吐き出すカカシ。
「す、すみません」
慌ててタオルで拭くものの動揺の余り、酒の入っているグラスを倒し、酒の入っているビンを倒してしまった。
そして床に零れた酒を拭こうとして足を取られて滑って、こけてしまう。
こけた拍子に床にテーブルの角に頭まで、ぶつけてしまっている。
それほどまでに動揺していた。
一通り、拭き終わり気を落ち着かせて座るとカカシは改めて聞いた。
「恋人って誰それ?」
全く身に覚えがない。
生まれてこの方、任務一筋の生活で人生初の恋人がイルカなのに。
昔の恋人なんて、どこを探してもいないってのに、とカカシは苦い顔になる。
「誰かって言われても・・・。どこのどなたかは・・・」
誰かはイルカには分からないらしい。
「で、それで?」
その嘘っぱちの昔のカカシの恋人とやらにイルカは何を言われたのか。
「カカシさんは子供好きだって言われて、子沢山の家庭が夢だって」
子供・・・。
それは同性同士の付き合いでは、どうにもならないことだ。
そんなのカカシだって解っている。
第一、そんな発言したことがないし・・・。
総て解っていて、イルカが好きで付き合っているのだ。
どこかの見知らぬ誰かに横槍を入れられる覚えはない。
「結婚したら子供が欲しいって口癖のように言っていたって」
イルカの声が、だんだん小さくなっていく。
苦しさを抑えるように。
辛さを堪えるように。
「子供なんて俺と付き合っていたら絶対に無理だから」
望まれても無理だから。
だから、とイルカは顔上げた。
顔は蒼褪めて、唇が震えている。
「だからカカシさんと別れた方がいいのかなって」
そう思って。
哀しく言葉は続く。
「別れた方がいいと解っていたんですけど」
蒼褪めた顔でイルカは無理に笑った。
「カカシさんが好きだから」
なかなか別れる決心がつかなくて。
「ごめんなさい」
謝る必要のないイルカが謝って。
「別れてください、カカシさん」
最悪の言葉が放たれた。





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