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地球征服物語 6




カカシは自宅に帰ってきていた。
あれから、ほうほうの体でアスマの前から逃げてきたのだ。
まさか、あんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
付き合っているとか別れ話とか、噂が噂を呼んだのか。
説明しようにも、説明の仕方がどうにも検討がつかないし。
イルカが自分のことを宇宙人だとか人間ではないと言っているとか言って信じてもらえるだろうか?
鼻で笑われるだけのような気がする。
かといって、イルカの血が緑に見えたとか本当のことを言っても、自分の気が可笑しいとか思われて。
二進も三進もいかないと、カカシは頭を抱えた。
紅なら少しは分かってくれるかも、と思いきや任務で里にはいなかった。




となると答えは一つ。
カカシは自分のベッドで寝るイルカを前にして総て聞き出すしかない、と心に決めた。
夕方、イルカは目を覚ました。
顔色は良くなっており、毒の要素は抜けたようだ。
心なしか顔が晴れ晴れとしている。
手当てをしてある手首を見ると、カカシに申し訳なさそうに謝ってきた。
「すみません、カカシ先生、かなりご迷惑を掛けてしまって。」
「いや、それはいいんだけど。」
そんなことより今度こそ聞かないと、自分自身に落ち着けと暗示をかけてからカカシは聞きだした。
「昨日の話に続きがあるでしょう?話してくれないかな、イルカ先生。」
イルカは、じっとカカシの目を見てから伏せた。
ベッドの上で握り締めた自分の両手の視線を落とした。



「そうですよね。・・・カカシ先生には全部お話します。」



そしてイルカは話し始めた。




「昨日、俺は地球人ではないと言いましたが、俺が地球に来たのは十年と少し前です。」
任務に出ていた海野の父さんと母さんが偶然、海辺で倒れている子供の俺を見つけてくれたのです。
「その時、俺の体は輪郭はあったものの透き通っていました。外見は明らかに地球人とは違っていましたが、地球の食べ物を摂取するうちに、段々と体の色や機能は地球人に近づいていきました。」
今では血の色以外は地球人そのものです。
「海野の父さんと母さんは俺を自分たちの子供に迎えてくれました。」
とても幸せでした。



イルカの顔に何かを思い出したように、ふっと顔が緩んだ。
「父さんと母さんはとても優しくて、俺は大好きでした。」
父さんと母さんと暮らした時が俺の生きてきた中で一番幸せで。
「今でも心の中で支えとなっています。」
ふと、カカシは片眉を上げた。
「生きてきた中で?」
じゃあ、此処に来る前は?



カカシの問いにイルカは恥ずかしそうに笑った。
「ここに来る前、俺、独りだったんで。」
天涯孤独で本当の両親の顔も知りません。



「でも、この星、地球に来てから父さんと母さんができて。」
遠くを見るような目をしたイルカの表情は暖かいものがある。
「父さんと母さんがいなくなってからも、ナルトがいてくれたから・・・。」
そのナルトは先日修行の旅に出てしまった。



「また、俺、独りになってしまって。」
カカシは黙って話を聞いていた。
黙ってはいたがイルカの手を自然と包むように握っていた。
イルカはそのことに気づいているのかいないのか。
握り締めた手に力を込めすぎたのか、微かに手が震えている。



「独りになったら、急に元いた星が恋しくなって。」
「だから、帰りたいと思ったの?」
カカシの優しい声にイルカは頷いた。
「でも、俺が乗ってきた宇宙船は疾うの昔、地球に来た時に壊れてしまって跡形もないんです。」
だから、もしかしてと一縷の望みをかけて、月夜の晩に迎えが来るのを待っていたのか。
なんとなくカカシは切なくなり、胸を痛めながらイルカの手を握り返した。
「でも迎えに来ないのは俺が何もしないから。もともと地球の生態調査、探査に来た斥候なのに。ターゲットの星を征服する足掛かりとして来たのに。」
何の役目も果たせなくて。
悪いとは思いながら、強いカカシ先生を倒したら、もしかしたら。
「もしかしたら、元いた星から迎えが来るかもしれないと思ったの?」
イルカは再び頷いた。
黒い目に涙はないものの、睫は震えていて心細さを物語っていた。



しょうがない人だなあ。
途方に暮れるような顔をするイルカの方ににカカシは身を乗り出した。
ベッドの上の座って、イルカの顔を正面から見て視線を合わせる。



「今までの話から推測して補足すると。」
イルカの話が嘘か真が分からないが、取り敢えず冷静に分析してみることにした。
「イルカ先生は独りになって寂しくてしょうがないんだよね。」
イルカはコクリと頭を上下させた。
「ナルトはもう独り立ちしてしまったし。」
喉の奥からイルカは搾り出すような声を出した。
「海野の父さんも母さんも、もういないし。」
俺を待っててくれる人はもういない。



それは本当にイルカの本心のようで聞いているカカシは、柄にもなく慰めてやりたくなる衝動に駆られてしまう。
「でも、イルカ先生が暮らしていた星ってのは、イルカ先生に何にもしてくれなかったんでしょ?小さい子供を他の星に行かせるなんて。」
文明は発達していたのかもしれないが、カカシは釈然としないものを感じた。
イルカは黙っている。
「なら、帰る必要なんじゃないの?」
「でも。」
イルカは反論しようとしたが口を閉じてしまった。
「子供を他の星に行かせるくらいなんだから、イルカ先生を待っている人はいないんじゃないの?」
冷たく言い方だが多分本当のことだ。
酷い考え方だが、要らなくなった子供を厄介払いしただけではないのか。
「海野の父さんと母さんも・・・そう言っていました。」
イルカは力なく言った。
「俺が今カカシ先生に話したようなことを言うと父さんは、とても怒っていました。」
カカシは黙ってイルカの手を撫でた。
「母さんは俺を抱き締めてくれて。」
それで。
「ずっと、ここにいればいいと言ってくれたんです。」
すごく嬉しかったと、続ける。



イルカはカカシの顔を見て寂しそうに笑った。
「俺、その時が産まれて初めて幸せだと思ったんです。でも、もう父さんも母さんもいない。」



イルカは俯いた。
「俺、どうしたらいいんだろう。」
その呟きは自分自身の問いかけたものだろう。
「どうしたらいいのか、分からない。」



イルカは、ふるりと体を震わせた。
カカシから手をそっと離して、両手で顔を覆ってしまう。
「この星で暮らして、この星がすごく好きなのに。でも帰りたいと思ってしまうんです。」
帰りたい帰りたいと呪文のようにイルカは繰り返している。



自分のいた星に帰りたい、それが今のイルカの支えなのだろうか?



ならば、その支え以上の支えがあればいいのではないか?
カカシは考える。


ここにイルカを繋ぎとめておくような強力な何かが必要だ。




地球征服物語 5
地球征服物語 7



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