ネコは人にあらず8
イルカは体を丸めて、すやすやと眠っている。
まるで本当のネコのように。
初めて見るイルカの寝顔に思わず見入ってしまったのだが、はっと気がついた。
なんで、こんなに朝から和んでいるだ、オレ!
イルカのネコの耳と尻尾は大変、愛らしく、いつまでも撫でて触って抱き上げていたい衝動に駆られるが。
考えてみればイルカは成人している男性で、同性だ。
つまり男。
男の寝顔に見入っていまうなんて、おかしいんじゃないか、と自分で思ったのだ。
思ったけれどイルカから目が離せない。
その時、イルカの耳が動いて薄っすらと目を開けた。
その目でカカシを見ると微笑んだ。
引き寄せられるように手を伸ばして耳を撫でると擦り付けるように手に頭を押し付けてくる。
結局、カカシは朝からネコのようなイルカを撫でる欲求を抑えることは出来なかった。
「あ、やばい!」
時計を見てからカカシは叫んだ。
気がつくとイルカを撫でることに夢中になっていた。
「今日は任務があったんだっけ・・・」
なんで今日に限って任務があるのか、とても残念だった。
いつも、かなりの遅刻をしているけれど、さすがにいつもの遅刻する時間を大幅に超えるのは度が過ぎる。
イルカと離れ難いが任務ならば仕方がない。
「イルカ先生は今日は休みでしたよね」
「はい」
寝転がって頭を撫でられながらイルカは答えた。
機嫌は良さそうだ。
「オレはこれから任務なので出かけなければなりません」
「ええ〜」
途端、イルカが悲しそうな声を上げる。
「カカシさん、どっかに行っちゃうんですか?」
耳が、しょぼんと垂れ下がった。
ついでに尻尾も垂れ下がる。
「オレを置いて、どこに行くんですか・・・」
瞳を、うるっと潤ませたイルカに、そんなことを言われてカカシは、くらりときた。
可愛すぎる!
「あの、ちょっと任務で。でも夕方には帰ってきますから」
「本当ですか?」
頭を撫でられていたイルカは上体を起き上がらせるとカカシの顔を覗き込んできた。
「本当にオレのところに帰ってきてくれますか?」
なんだか会話がおかしい。
まるで恋人同士の別れのシーンみたいだ、と頭の片隅でカカシは思った。
これじゃあ、オレとイルカ先生が恋人みたいじゃないか、と。
「大丈夫、帰ってきますよ」
カカシは優しく諭すように言い、堪らなくなってイルカを抱きしめて背を撫でた。
「少しだけ我慢していてください。オレの家には幾らでもいていいですし」
お腹が空いたら冷蔵庫の中の物を適当に食べてください、とも言う。
撫でていると落ち着いたのかイルカが体を離して頷いた。
「分かりました、カカシさんが帰ってくるのを待っています」
「いい子にしていてね」
「はーい」
返事をしたイルカは再び、布団に潜り込む。
ふかふかした布団が好きらしい。
布団の中に潜ったイルカは目と耳だけ出してカカシを見る。
「行ってらっしゃい、カカシさん」
「うん、行って来ます」
イルカの様子がおかしくて口元に知らず笑みが浮かんだ。
今日は任務を早く終わらせて早く家に帰ってこようと思ってしまった。
イルカのいる家に。
家に帰ることが楽しみだったことなんて、今だ嘗てない。
初めてだった。
夕方。
いつもより早めに任務を終わらせて自分の家にカカシは帰って来た。
「ただいま〜」
勢い込んで玄関の扉を、ばんと開けて家に入る。
だが。
「あれ?」
イルカの気配がない。
一切合切、イルカの気配も痕跡も消えていた。
「イルカ先生」
呼びかけるも返事がない。
「イルカ先生、どこ?」
念のため台所も風呂場も、ベッドの布団まで捲って捜したが見あたらない。
部屋の中は綺麗に整理整頓されていて昨夜、イルカが泊まったという跡すらなかった。
イルカが部屋を掃除して片付けたのだろうか?
そうしてカカシの部屋から出て行ってしまったのだろうか?
カカシを置いて・・・。
「待っていてくれるって言ったのに」
イルカがいないという現実に思ったよりカカシはダメージを受けていた。
「オレを待ってるって約束したのに」
一人でいることが悲しく寂しかった。
たった一日、一緒にいただけだったのだがイルカはカカシの心の中で、その存在を大きくしていた。
「イルカ先生、どこに行ったの?」
ただただ無性にイルカに会いたかった。
ネコは人にあらず7
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