ネコは人にあらず6
イルカを抱きかかえてカカシはダッシュで家に帰って来た。
自分の家に。
玄関開けて入って、しっかりと鍵を閉める。
気がつくと肩で息をしていた、はあはあと。
これほど急いで家に帰ってきたのは未だ嘗てない。
店でのことは置いといて、知り合いに見られてないだろうか・・・。
一抹の不安も残る。
カカシの知り合いを言えば忍者に決まっているのだから、もし万が一、イルカを抱きかかえた姿を目撃されていたら、後で何を言われるか堪ったんではない。
しかもイルカはネコの耳と尻尾を生やしている。
変に誤解されてしまったら大変なことになるやもしれない。
「オレの趣味でイルカ先生にネコの耳と尻尾が生えていると思われたら・・・」
というよりカカシが自分で好き好んでネコの耳と尻尾を術か何かで生やしたと思われたら・・・。
そんな噂が立ったら・・・。
思わず鳥肌が立つ。
「オレは、そんな趣味ない!」
自分の家で叫んでしまった。
「えー、カカシさんって趣味がないんですかー」
頭上から暢気な声がした。
そういえばイルカを抱きかかえたままだったのを忘れていた。
「人生を潤すために趣味は必要ですよー」
そう言ってイルカはネコの尻尾で、ひたひたとカカシの腕を叩いた。
柔らかい尻尾なので叩かれても別に痛くはない。
「心配しなくても趣味はありますので大丈夫ですよ」
「へえ、カカシさんの趣味って何ですか?」
まだ酔っているのか、イルカの口調は砕けている。
「それはねー」
カカシは自分の下足を脱ぎ捨て、抱き上げたままのイルカの足かも下足を奪い取った。
そして部屋に上がる。
「読書と寝ることと植木を育てることです」
植木とはカカシのベッドの傍にあり名前も付けているサボテンのことだ。
「意外な趣味ですねえ」
イルカは、うんうんと頷いている。
「植物を育ていることは情操教育にも繋がります」
いいことです、と酔っているのに教師らしく解説していた。
「植物っていいですよね」
「あー、はい、うん、そうですね」
適当に返事をしたカカシはイルカを自分のベッドの上に落とした。
落とされて、ぽふっとベッドの上でイルカは跳ねる。
「ちょっと、ここにいてください」
「はーい」
大人しく返事をしたイルカの耳と尻尾は、ぱたぱたと忙しなく動いていた。
イルカ先生を連れ帰ってきたけど・・・。
台所で冷蔵庫を開けながらカカシは考える。
いい、のかなあ?
今更ながらに後悔の念が襲ってきた。
ついつい、勢いでイルカ先生を連れてきちゃった。
ちらっとイルカのいる居間の方を見る。
イルカを持ち帰ってきたのは総ては自分の欲望のためだ。
あのネコの耳と尻尾に思う存分、触りたいという。
我ながら馬鹿だと溜め息を吐いた。
オレって、そんな趣味があったのか、と。
まあ、連れてきてしまったものはしょうがない。
カカシは冷蔵庫から取り出したミネラル水にグラスを二個持つとイルカの元に引き返した。
「イルカ先生、お水、飲みますか?」
「冷たいなら飲みます」
イルカは、にこにこしてカカシを出迎えた。
耳が、いっそう、ぱたぱたと動いて喜んでいるようだった。
「冷たいですよ」
カカシはグラスに注いだミネラル水をイルカに渡すとイルカは、ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。
「おいしー。お代わり!」
元気よく、グラスを差し出してくる。
「あ、はい」
もう一杯と注いで差し出すと、これまた一気に飲み干してしまった。
どうやら、ひどく喉が渇いていたらしい。
次のお代わりを尋ねる前にカカシはイルカのグラスに水を注いでやる。
イルカは嬉しそうに三杯目の水も飲み干した。
そして、やっと渇きが収まったのか満足そうな顔になる。
今にも、喉をごろごろと鳴らしそうな様子だ。
とってもネコに似ている。
水を飲み終わったイルカはグラスを置くとベッドの端に座っているカカシの傍に音も立てずに寄って来た。
寄って来たイルカはカカシの背後に回る。
つまり背中だ。
「お水、ご馳走様でした」
イルカの声がすると同時にカカシの背中が、ふわっとあったかくなる。
「え、なに・・・」
肩越しに振り返るとカカシに背中にイルカがくっ付いていた。
広い背中に、ぴったりと密着している。
「あ、あの、イルカ先生?」
「気持ちいい〜」
至極、イルカはご機嫌であった。
すりすりと背中に擦り寄る様はお気に入りにマーキングしているネコのようにも見える。
イルカ先生はオレのことを気に入っているのか!
嬉しいような嬉しくないような・・・。
やっぱり複雑かつ微妙な気持ちだ。
ネコとしての本能か何かで自分のことを好いてくれるよりはイルカ自身がカカシのことを好いてほしい。
ああ、そうか。
そこまで考えてカカシは自分の気持ちをようやく理解した。
オレ、イルカ先生にオレのことを好きなってほしいのか。
それ故にイルカに興味を持ったり、気になっていたりしてのだ。
答えが解れば今までの自分の行動にも納得できる。
総てはオレの恋心ゆえの・・・。
だから災難にあったイルカを助けたいなんて思ったのか。
イルカが今の状態を災難と思っているのかは不明だが。
ついでに今のイルカの気持ちも不明だ。
まあ、でも、今は・・・。
カカシは自分の膝を、ぽんぽんと叩いた。
「イルカ先生」
背中に懐いていたイルカの動きが止まる。
「こっちにおいで」
優しく呼ぶとイルカは、そーっとカカシの膝に頭を乗せてきた。
膝に頭を乗せてカカシの顔を見る。
そのイルカの顔は心配そうで、少し怯えている。
「大丈夫ですよ〜、イルカ先生」
膝の乗ったイルカの頭、耳を撫でると安心したようにイルカは微笑む。
ぴんと立った尻尾が嬉しいと揺れていた。
本当にネコみたい。
そんなこと思ったカカシは初志貫徹の如く思う存分、イルカを撫でまくり欲望を満たすことに成功した。
撫でる以上のことはしていない。
今のカカシはイルカを撫でるだけで充分であった。
ネコは人にあらず5
ネコは人にあらず7
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