ネコは人にあらず5
これは夢か幻か?
はたまた、オレも酔っているのか幻覚を見ているのか。
ごしごしと目を擦って自分の頬を抓ってからカカシは、またイルカを見た。
確かに長くて細くて柔らかそうな物が、ゆらゆらと腰の辺りから生えている。
何度見ても尻尾にしか見えない、ってか見れない。
掴もうと試みたが、するりとしていて掴めなかった。
中々、素早く隙がない。
カカシが尻尾の件を問い質そうにもイルカは相変わらずアスマと話していて、こっちを見てくれない。
この緊急事態、どうしよう・・・。
ネコの耳と尻尾の生えたイルカのことを店の客は見てないようで見ているのでカカシは居心地が滅法悪い。
アスマは何とも思わないのか?
それにイルカ先生は?
二人は邪魔をするなと言わんばかりに楽しげに話をしている。
くーっ、なあんかムカつく。
と思った、その時だった。
しゅるりと尻尾がカカシの手首に巻きついてきた。
手首を一回転して、きゅっと締まる。
毛は思ったとおり、柔らかでふわふわで。
そっと撫でると、ぴくりと動くのが興味深い。
尻尾を撫でてから、偶然、イルカの頭の耳を見るとこちらもまた、ぴくぴくと動いていた。
なあーんだ。
カカシは、ほっとした。
アスマと話していてもイルカ先生はオレのことが気になるわけね。
かなり嬉しい。
オレが気になるけれど、知らない振りして他の人と話すなんてイルカ先生って結構、あれだ。
巷で言うところのツンデレってやつだったのね。
カカシの口元に笑みが浮かんでいた、満足感から来る笑みだ。
最も覆面で、その笑みは誰にも見えなかったけれど。
カカシがにやにやとしていると何かを察したのか、手首に巻きついていた尻尾が逃げていってしまった。
逃げていっても、付かず離れず誘うように揺れている。
近づいてきてはカカシの手を、ちょっと突付いて、また逃げる。
捕まえようとすると、まるでタイミングを計ったかのように逃げていく。
あー、なんか、これって・・・。
鬼ごっこみたいだなあ。
しばらくカカシは場所を忘れて尻尾との鬼ごっこを楽しんでいた。
イルカ先生はアスマと話してオレを見てないのに、よくもまあ尻尾を上手く操れるなあと感心していた。
気がつくと尻尾に夢中になって遊んでいたカカシだったが。
気配を感じて、はっと正気に返った。
ぐさっと突き刺さる視線が向けられていることに気がついたのだ。
そーっと顔を上げるとアスマが呆れたようにカカシを見ている。
「・・・何、やってんだ?」
「え・・・」
「・・・一人で遊んでいるのか?」
アスマの視線が痛すぎた。
ぐさぐさっと刃のごとくカカシに降り注いでくる。
極め付けの台詞は「楽しいか?」だった。
呆れも雑ざった冷え切った声だったのがカカシには堪えた。
心の中で反論する。
楽しいかって言われると、楽しかった、とっても。
店の中だってことを忘れて夢中になるほど楽しくて時間を忘れた。
「カカシ、お前、何歳だよ?」
「何歳って・・・」
言い返せない。
何歳でもいいじゃないか、楽しいものは楽しいんだ!
あろうことか、逆切れしたカカシは無謀にも次の行動に出た。
思い切り自分の感情に従った、素直な心のままに。
「イルカ先生!」
「はい」
隣に座っていたイルカ先生を軽々と担ぎ上げた。
担いだというよりは腕に抱き上げた。
猫を抱くように。
アスマがカカシに視線を突き刺されている間、イルカは猫のように目を細めて面白そうにカカシを見ていた。
カカシがアスマに呆れられている最中に、尻尾でカカシの体をつんつんと突っついて触ってきたりして悪戯ばっかりしていたのだ。
気を引こうとしていたのかもしれない。
カカシは、そんな尻尾が、というよりイルカが気になって、どうしようもない。
もっと触りたい。
でも、ここじゃ無理だ。
人目があり過ぎる。
だから決めた。
「アスマ、後は頼む!」
言い捨ててイルカを腕に抱いたまま、即効で店を出た。
自分の家にイルカ先生を持ち帰るために。
「こら、待て!後って何だ!」
アスマが叫び声を振り切り「後ってのは店の支払いや周りへのオレのフォローだ〜よ」と一応、叫び返しておいた。
それとイルカを持ち帰ったのを周囲に適当に説明しておいてくれという意訳だった。
まあ、アスマなら、きっと上手にやってくれるさ、と勝手に、そんなことを思っていた。
そしてイルカは、というと。
腕に抱き上げた時は驚いたような声を上げていたけれど。
楽しかったのか、くすくすと笑っていた。
笑っているから細かい振動が抱いている腕からカカシに伝わってきた。
カカシの首にイルカの腕が絡みついてくる。
「カカシさん」
「ん?」
「どこに行くんですか?」
怒ってはないみたいだったので密かに安堵した。
「ん、オレんち」
「おれんち?」
「オレの家だ〜よ」
「何でです?」
「それは・・・」
イルカ先生を触るため。
誤解のないように言うとイルカ先生の猫の耳と尻尾に触るため。
だけどカカシは、それは言わなかった。
言っても解ってもらえなさそうだし、柔らかふわふわに触りたいと思うカカシの気持ちは理解してもらえないだろう。
あと、イルカに対する複雑かつ微妙な気持ちも。
本当の理由は伏せたまま、カカシは巧みな話術で話を逸らした。
「イルカ先生を助けるためです」
「オレを?」
酔っているのか舌足らずなイルカ。
カカシの耳に掠れた声で囁かれた。
「そうです、だってイルカ先生は今、とんだ災難にあっているんですよ」
あながち嘘ではない。
変な薬を飲んだ所為でイルカは厄介かつ、とんだ災難に遭遇している。
ネコの耳と尻尾が生えるという災難だ。
「災難にあっているイルカ先生を助けたいんです」
首に絡み付いていたイルカ先生の手に、ぎゅっと力が入った。
「ありがとうございます、カカシさん」
そんな声が聞こえカカシは、こそばゆくなったのだった。
ネコは人にあらず4
ネコは人にあらず6
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