ネコは人にあらず4
「イルカ先生を見るな!」
つい勢いで言ってしまったカカシだったがアスマは、そんなカカシを介せず背後のイルカに遠慮なく話しかけた。
「よう、イルカ。久しぶりだなあ」
「はい、アスマさん」
イルカはカカシの肩口から顔を覗かせる。
「お久しぶりです」
「仕事は忙しいのか?」
「ぼちぼちです。やっと明日は休みでして」
「それは良かったな」
カカシを挟んで和やかな会話だ。
そっと背後のイルカを見ると耳が嬉しそうに動いている。
アスマと話のが楽しいらしい。
「ところでよ」
ちら、とカカシを見てアスマは人の悪い笑みを浮かべた。
「これからカカシと飲みに行くんだがイルカも一緒に行かねえか?」
「あ、行きます!」
はーい、と子供のようにイルカは手を上げた。
頭に生えた耳が激しく動いている。
「最近、全く飲んでいなくて。迷惑でないなら、ご一緒させてください」
「だとよ、カカシ」
「んなの駄目に決まっているでしょーが」
カカシは怖い顔をして背後にいるイルカの方を振り向いた。
「そのネコ耳、どうするんですか?そんな姿で店に行ったら店中の客に注目されますよ?変な噂が流れたらどうするんですか」
イルカ先生はアカデミーの先生でしょ、ときつめに言われてイルカは首を傾げた。
考えているイルカの耳は横に寝てしまっている。
「あー、そうですねえ」
実に忍者らしい返事をイルカはした。
「ネコの耳が頭に生えていても見た人は術か何かと思いますよ。なんたって、ここは忍の里ですしね。それか仮装かなんかと思いますよ」
だから平気です、と言い放った。
がっくりと脱力するカカシ。
横で聞いていたアスマは、あっはっはっと豪快に笑っていたのだった。
「ふーん、で、それからどうなったんだ?」
「はい、実はですねー」
酒を飲みに店に来てからアスマとイルカの話は弾んでいた。
カカシもいたのだが口を挟む余裕がない。
なんというか居心地が悪くて仕方がなかったのだ。
三人はカウンターに横並びに座っている。
カカシ、イルカ、アスマの順だ。
その順でアスマとイルカが話してしまうとカカシは置いてけぼりになる。
それはいい、それは。
そんなはどうってことない。
初めてイルカと飲みに来て、この扱いと不満に思うが、まあいい。
アスマと親しげにしていて以前も飲みに来ているらしい、というのも、この際よしとする。
居心地が悪いのは、ひとえにイルカの頭のネコの耳が注目の的になっていることだった。
イルカの隣に座っているカカシも痛いほど視線を感じる。
好奇の視線だ。
居た堪れない。
「ねえ、イルカ先生」
隣に座っているイルカに、ひそっと囁く。
「もう帰りませんか?それか店を出ましょうよ」
「えー、なんでですか?」
イルカは、ほろ酔い気味だった。
ほろ酔い効果の所為か、イルカがカカシの肩に頭を乗っけてくる。
酒を飲んで気が緩んだのか、初めて一緒に飲みに来たカカシに何気なく触れてきた。
肩に頭を乗っけて無邪気に笑われた。
「も少し飲んでいきませんか」
これまた無邪気に誘いをかけてくる。
カカシの胸は勝手に、どきどきとしてきてしまっていた。
これはいったい何だろう?
自分でも解らない。
「あのね、イルカ先生」
カカシの肩に頭を乗っけているイルカが、ずり落ちないようにカカシはイルカの体を手で支えてやる。
酒に酔っているイルカは見ていて大変、危なっかしい。
「みーんなイルカ先生のこと見てますよ」
「いいじゃないですか、偶には」
すりっとイルカはカカシに身を寄せてきた。
意外な行動である。
もっと人見知りかと思っていたら、そうでもなく大胆な感じであった。
「偶にはって・・・」
意味不明だ。
もしかしてイルカはカカシが思うよりも、かなり酔っているのかもしれない。
「だってですね」
イルカは赤みの差した顔で機嫌良さそうに話をする。
「さっき、オレが上忍の方の控え室に行ったのはカカシさんに会うためだったんですよー」
「え、そうだったんですか」
そういえばイルカは何で上忍の控え室に来たのだろう、と思っていた。
仕事以外で来ることは滅多にない。
「そうですよー。カカシさん、今日、付き合ってくれたじゃないですか、それのお礼に出来たらですけど食事に誘おうと思っていたんです」
それを言い出す前に飲みに誘われちゃいましたけど、と酔っ払いのイルカは話す。
イルカもカカシに付き合わせてしまったことを悪いとは思っていたらしい。
あまり口には出さなかったけれども。
「カカシさんと中々、話す機会がなくて、これを機に親しくなれたらといいなあって」
「イルカ先生」
その言葉にカカシは嬉しくなったのだがイルカは、するっとカカシの腕を抜けると反対隣のアスマの方へと身を寄せてしまっていた。
アスマと、また話し始めている。
「今の聞いたぜ、イルカ」
「何をですか?」
「カカシと付き合っているんだって?いつからだ?」
「えー、今日、付き合ってもらったんですよ」
「そうか、今日から付き合っているのか」
微妙に会話が噛み合ってない。
ふとアスマとイルカの座っているカウンターテーブルを見ると飲み終わった御銚子が何本も横になっている。
横になっているのは飲み終わったということを示すものだ。
いつの間に、こんなに飲んだんだ・・・。
酔っ払いたちの話は続く。
「なんでカカシなんかと付き合うことになったんだ?」
「はあ、カカシさんが付き合ってくれるって言ってくれて」
「カカシから告白されたのか」
「告白なんてないですよー」
「無理矢理か、もしかして?」
「無理矢理だなんてそんなこと、カカシさんが決めたことで・・・」
「カカシが勝手に決めたのか?」
なんだか話の雲行きが怪しくなってきた。
確かに薬品の部署に行くイルカに同行すると決めたのはカカシであったが。
断じて無理矢理ではない、はずだ。
「悪いやつだなあ、カカシは」
多分、アスマは酔っている。
「優しい人ですよ、カカシさんは」
おそらく、イルカも酔っている。
どうしたもんか、と戸惑うカカシの手の甲に当たるものがあった。
ぺしっと当たった、それは柔らかくてふわっとしている。
そして細く長い。
もう一度、ぺしっとカカシの手に当たる。
細く長い物を辿っていくとイルカの腰辺りから生えているのが辛うじて分かった。
これって、これって・・・。
イルカの頭の耳を見て、腰周辺を見る。
カカシは理解した。
これは尻尾だ、ネコの・・・。
イルカ先生に尻尾が生えている!
新たな事実が判明したのだった。
ネコは人にあらず3
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