ネコは人にあらず3
「あ!」
イルカの頭の上の黒い耳が、ぴくぴくと動いた。
「この耳、使えますカカシさん。音がよく聞こえますよ!」
弾んだ声を出した。
「あー、そう」
さっきまで慌てふためいていたのに今は喜んでいる。
「人間の方の耳にも音が聞こえて不思議な感じです」
本人は至って気楽そうだ。
「あのねえ、イルカ先生」
「耳が四つあるって便利ですね!」
再び、溜め息を吐いたカカシはイルカに疑問を投げかけた。
「その耳、どうするんですか?」
「え」
「生えてしまった耳です、多分、ネコの耳」
「えーっと」
「どう考えても、さっき試飲した妖しげな薬の所為ですよ」
原因は、それしか考えられない。
「耳を生やして仕事なんてしたら困ったことになりませんか」
耳が四つもあったら皆、訝しげに思うだろう。
もちろん、なんで生えたのか訊かれること請け合いだ。
「それはそうですけど」
イルカの頭に生えた耳が、ぴくぴくと動く。
ぴくぴくしたかと思うと、だんだんと立っていた耳が横向きに垂れてきた。
何も言わなくてもイルカの心情を耳が現している。
どうしよう。どうしたらいいのかなあと。
それを見たカカシは自分の忍犬たちを思い出す。
犬の感情表現も耳だなあ。
猫と通じるものがあるかもしれない。
「ま、どうにかなりますよ」
イルカは楽観的だった。
「訊かれたら笑って誤魔化しますから」
「あのねえ、イルカ先生・・・」
「カカシさんは心配性ですねえ、ほんと」
逆に心配されてしまった。
「あ、オレ、一度、仕事場に戻らないといけないんだった」
何かを思い出したのか、イルカはくるりと身を翻す。
「今日は付き合ってくれてありがとうございました、カカシさん」
頭を下げるとイルカは軽く手を振って駆けて行ってしまった。
「あ、待って、イルカ先生」
呼び止めようとしたときにはイルカの姿は小さく遠くなっていた。
「どうするのかねえ、あの耳・・・」
やはり心配そうにイルカを見送っていたカカシだが。
「ん?」
あることに気がついた。
イルカの頭に生えた猫の耳が消えている。
目を擦って小さくなったイルカの姿を再度、確認したが頭に生えた耳はなくなっていた。
「あれ?」
見間違いではない。
忍者は一般の人間より視力は良い。
ましてやカカシは上忍で視力には自信があった。
「なんで、ないんだ耳・・・」
小さく呟いたカカシの声は風に吹かれて消えて行った。
あれから一人になったカカシは特に任務もなかったために控え室に戻って待機していた。
いつも読んでいる本を片手にイルカのことを考える。
主にイルカの頭に生えた耳のことを。
生えたのは妖しげな薬を飲んだからだと思うけど・・・。
でも、無くなったのは何で?
そちらの原因が皆目不明だった。
本を開いてもページも捲らずに唸っているカカシを見て同僚の一人がからかってきた。
常に口にタバコを銜えている、髭の蓄えた大柄な男だ。
「どうした、珍しく真剣な顔をして」
「真剣なことを考えているんだから真剣な顔してもいいでしょ」
「真剣なことだあ」
同僚は、にやりとした。
「真剣ってーとあれか」
にやけた顔になった。
「女性関係か?」
面白そうにしているのが癪に障る。
「違うよ」
カカシは、きっぱりと否定した。
「全く違うから。もっと真剣なことだ〜よ」
「じゃあ、なんだ?」
「なんだって言われても・・・」
頭に生えた耳のことだと正直に話しても信じてもらえるかどうか・・・。
ましてやイルカの頭に猫の耳が生えたのに、消えて無くなったと言ったらどう思われるか。
そこまで考えてカカシは頭を横に振った。
「教えない」
「つまんねえの」
同僚は、すぐに興味を失ったようだった。
話題を変えてくる。
「今晩、飲みにでも行かねえか」
「飲みにねえ」
「誰か誘ってよ」
あいにく、いつものメンバーの酒豪のくの一は任務で不在であった。
「あー、イルカでも誘うか、久しぶりに」
「イルカ!」
同僚の口から漏れた名前にカカシは激しく反応し本を取り落とした。
すぐに本を拾って読み始める。
そんなカカシに同僚は何も言わず、ただカカシを見ていただけであった。
数十分後。
誰かの気配にカカシは読んでいた本から、はっと顔を上げた。
この気配は・・・。
粉うことなきイルカの気配だった。
同僚の方を見ると首を振る。
「まだ誘ってねえよ」
ということはイルカの意思でここに来るということだ。
どうして!
さきほど別れてから、そんなに時間は経っていないのにイルカに会えると思うとカカシの胸が勝手に、どきどきとしてくる。
というか、耳はどうなったんだ?
とても気に掛かる。
カカシの気持ちを余所にイルカの気配は部屋の外に到達して扉が叩かれた。
こんこん、と軽快な音がしてイルカの声が聞こえる。
「こんにちは〜、カカシさんいますか?」
「おう、入れよ」
カカシではなく同僚が応じた。
「失礼します」
扉を開けて見えたイルカの姿は普通だった。
頭に猫の耳はない。
人間の耳が二つあるだけだった。
「カカシさん」
カカシの姿を見たイルカは嬉しげに近寄ってくる。
「イルカ先生、あの、あれは・・・」
耳はどうなったんだ、と訊こうとした時だった。
カカシの前まで来たイルカの頭に耳が、ぴょんと生えた。
無くなった思った、あの黒くて、ふわふわした猫の耳。
確かに生えている。
「なんだ、そりゃあ」
カカシの何か言うより早く同僚の声が聞こえた。
「その耳はどうしたんだ?カカシの趣向か?」
少々、品がないことも言っている。
「んなわけないでしょーが!」
カカシは同僚を睨みつけるとイルカを自分の背後に隠した。
耳の生えたイルカを誰かに見られるのが、どうにも我慢ならなかったのだった。
ネコは人にあらず2
ネコは人にあらず4
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