ネコは人にあらず12
★オリキャラ注意
「はあ」
時計を見てイルカは、ほっと息を吐いた。
今日で一週間が過ぎた、薬を試飲してから。
それに、もうすぐ仕事の終わる時間だ。
いつもより少し早い。
仕事が終われば、真っ先に行くつもりだった。
イルカにおかしな薬と飲ませた薬品開発の部署の知り合いのところへ。
そのために仕事を少し早く終わらせたのだ。
カカシの迎えを避けるために。
仕事が終わればカカシはイルカを迎えに来る。
毎日毎日。
カカシと離れている間はネコの耳も尻尾も生えず、冷静な判断が出来るのだが如何せん、カカシが傍に来ると駄目だった。
頭では駄目だと分かっていても駄目だった。
ネコの耳と尻尾が生えてしまうと、どうにもカカシから離れられず。
撫でられると、もう、めろめろだった。
カカシの手に。
自分で言うのも難だったがネコの耳と尻尾が生えると理性が霧散してしまうらしい。
本能のみになるのだろうか?
ひたすら、撫でられることを欲してしまう。
恐ろしい、とイルカは思った。
ネコの耳と尻尾が生えたままだったらカカシさんから離れて生きていけないかもしれない。
ぶるっと体を震わせたイルカは終業の時間と、さっさと姿を消した。
カカシに見つからないように。
気配を隠して薬品開発の部署のある施設の入り口に急ぐ。
カカシさんに見つからないといいけど・・・。
ちなみにカカシに仕事が終わる時間が早まったことは言っていない。
カカシに見つかると面倒なことになりそうであった。
昨晩、カカシは膝の上にイルカを乗っけて撫でながら言っていた。
「ああ、このまま、イルカ先生にネコの耳と尻尾が生えていたらいいのになあ」
その時、イルカは撫でられてご機嫌な状態であったのでカカシの言ったことについて深く言及はしなかった。
「可愛いなあ、イルカ先生」
優しい手つきでイルカを撫でてくれる。
「ずっと、オレの傍にいたらいいのに」
そう言っていた。
それを聞いた時にはイルカも、カカシの傍にいたい、と思った。
けれど。
よく考えてみればカカシさんはネコの耳と尻尾が好きなだけなんじゃないか?
イルカでなければならない、ということではない。
つまり、だ。
ネコの耳と尻尾が生えていれば誰でもいいんじゃないのか・・・。
カカシから離れて冷静になると、そう考えた。
ただ、誰かを可愛がりたいだけで。
別にオレ自身が好きって訳じゃないんだよなあ〜。
自分の考えたことにイルカは落ち込んだ。
「オレは、こんなに好きなのに」
「へー、誰が好きなの?」
はっとして顔を上げるとカカシが立っていた。
「カカシさん!」
目的の薬品開発の部署の入り口の真ん前にカカシは立っていた。
ポケットに手を入れて、不機嫌そうに。
「な、なんで・・・」
なんでオレの居場所がばれたんだ?
軽く混乱する。
「ここに?」
「なーんでって」
一歩、カカシはイルカに近づいた。
「イルカ先生の考えることくらい分かります。何日、一緒にいたと思っているですか」
「ちょっと、あの」
一歩、イルカは下がる。
「来ないでください」
カカシが傍に来るとネコの耳と尻尾が生えて判断が鈍る、というか出来なくなる。
「やだね」
すたすたとカカシが近づいてきてイルカの手を握る。
「あいつのとこへ行くんでしょ?」
「あいつ?」
「あの変な薬を飲ませたやつのところ」
「ああ・・・」
薬品開発の部署にいるイルカの知り合いのことだ。
「オレも一緒に行くから」
「でも・・・」
「訊きたいことがあるからね」
有無を言わさぬ強い口調だった。
「はい・・・」
イルカはカカシに手を握られたまま、施設に中にカカシを誘った。
カカシの訊きたいことって何だろう?
不安になる。
迷惑掛けてしまったから、そのことについて苦情でも言うつもりなのか?
苦情に関してはイルカも言いたいような気がする。
今まで飲んだ薬の中でダントツに変な作用をもたらす薬だった。
こんな薬を、いったい何に使うんだ?
疑問にも思う。
イルカの知り合いに部屋に着くまでカカシは黙ったままだった。
手だけは、しっかりと握られいたが。
そしてイルカにはネコの耳も尻尾も生えていなかったのである。
カカシと一緒にいるというのに。
部屋の扉をイルカはノックした。
中から声がする。
「どうぞ」
扉を開けると白い部屋の白いテーブルに白衣を着た人物が席に着いていた。
「やあ」
爽快に挨拶をしてくる。
「薬の効き目はどうだった?一週間、楽しかったか?」
能天気なことを尋ねてくる相手にイルカが食って掛かった。
「楽しかったって・・・。なんだ、この薬は!カカシさんに迷惑が掛かったじゃないか!」
「えー、そうなのか?」
「そうだよ、こういうのは前もって言っておけよ!」
「前もって言えばオッケーなのか?」
「そうじゃなくて」
話が微妙に噛み合わない。
イルカの知り合いはカカシに訊いてきた。
「迷惑でしたか?イルカのこと」
「それは迷惑に決っている・・・」
「いーや」
イルカの言葉を遮り、予想に反してカカシは肯定した。
「ちっとも迷惑じゃなかったよ」
「楽しかったですか?」
「うん、楽しかった」
「それは良かった」
知り合いは、うんうんと頷いて、どこから取り出したのかノートにメモしてデータを取っている。
「癒されましたか?」
「うん、癒されたね」
「なるほど。癒し系、と」
ふむふむとノートに書き込む。
「出来たら、もっと癒されたいねえ」
「ふーむ、持続性もあるんですね」
「そうだね、中毒性があるかもね」
なんだか二人は気が合っているようだ。
イルカは一人取り残されたような気分になった。
「ネコの耳と尻尾は、もう生えていないので薬の効き目は切れたようです」
知り合いはイルカを見て言った。
「そうなんだ〜。ということは、もう、イルカ先生にネコの耳やら尻尾は生えないの?」
「はい。また薬を飲めば別ですけどね」
「ふーん」
ネコの耳と尻尾はイルカに生えることはない。
だとしたらカカシを癒すことはできない。
だとしたらイルカは必要ない。
だとしたら傍にいることは皆無だ。
「じゃあ、イルカ先生はイルカ先生に戻ったってこと?」
「そうなります」
ぐさっと、その言葉はイルカに突き刺さった。
あれほど元の自分に戻りたかったはずなのに。
悲しくなってくるのは何故だろう。
「よかった〜」
カカシは喜んでいる。
やっぱりイルカは迷惑だったらしい。
イルカのネコの耳を尻尾がなくなって喜んでいるのだ。
だけど。
ぐい、とカカシに握った手を引っ張られた。
よろけたイルカはカカシに胸に収まってしまう。
「これでイルカ先生を正々堂々、撫でられる」
驚くべき事を言っていた。
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