台風少年9
※イルカが登場していません
知り合いの上忍はカカシに渋い顔をして言った。
「海野は俺の部隊に配属されたんだが、なんというか血気盛んでなあ。」
「ふーん。」
「何に対しても、やる気は充分で命令も絶対に拒否せずに、できないと言うことはなかった。仲間に対しても人見知りは激しいものも、仲間を思う気持ちは強かった。」
ある意味イルからしいとカカシは思って聞いていた。
「でもな、そこが海野の長所でもあり短所でもあり弱点とも言えるんだ。」
上忍は冷静に分析している。
そして衝撃的なことを言った。
「詳細は省くが海野は部隊に来てから命令違反を二回した。」
「命令違反!」
カカシは、かなり驚いてしまう。
イルカが、そんなことをするタイプには見えなかったからだ。
「そう、命令違反だ。俺の命令に従わなかった。組織において上の命令に従わないことが、どんなに危険なことか分かるだろう?」
「・・・ああ。」
「歯車が全部、狂ってしまう。狂ったまま、壊れてしまうんだ。」
壊れてしまう、つまり全滅してしまう可能性を示唆している。
部隊の皆を危険にさらしたということである。
「具体的に、どんなことをしたのさ。」
好奇心からではなくイルカを心配する気持ちからカカシは聞いた。
「そんなに、その、悪いことをしたわけ?」
「いや・・・。」
上忍は益々、渋い顔をした。
「悪いこと、と言われるとな・・・。」
「じゃあ、なんなの?命令違反をしたって割には、さっき、イルカを怒ったりしないで怪我の具合を聞いていたじゃない。」
「うむ。それは、あの怪我の原因が、原因だからだ。」
カカシは、じっと耳を傾けた。
「俺の部隊に与えられた任務の作戦は成功した。だがな、敵地に潜入した仲間の一人が、いくら待っても帰ってこなかった。その仲間が敵に囚われたのか死んだのか分からない。タイムリミットが迫って俺は、隊長として作戦の成功を優先して、その仲間を切り捨てることにした。」
切り捨てる、その言葉は悲しい響きを持つ。
「本心を言うと、その仲間を置いて行くのは自分の身が切り裂かれるように辛かったよ、でも俺は隊長なので決断しないといけない。そう決断したとき、海野が言ったんだ。」
「・・・なんて?」
「自分が助けに行くと。もし失敗したら自分も切り捨てていいとさえ、言ったんだ。やってみなければ分からないってな。」
敵地は、湖の真ん中の島だったらしい。
水の中を渡り歩ける術を使えるイルカは、自分が仲間を助けに行くと申し出たらしい。
「それは名案に思えた、だが、一つ障害があった。」
「障害って?」
聞いているカカシは、だんだんと気が滅入ってくるのを感じていた。
「水を渡る術は使用が禁止されていたんだ。」
「なんで?」
カカシの知らない事実が、次々に出てくる。
「木の葉の里の中には海野の他に、水の渡れる者が幾人かいるが、現在、総ての者に術の使用は禁止されている。」
「なんで!」
「それは水の中を渡るときに、過去の一番、見たくない記憶を見てしまうからだ。」
「見たくない記憶・・・。」
「そうだ、心の奥底の忘れていた記憶が反映されてしまい、術者に強度の精神不安を引き起こしてしまうんだ。最初に海野が術を使ったときにも精神不安に陥って、水の中で気を失って沈んでいて危うく死にかけたらしいぞ。」
もはやカカシには言う言葉がなかった。
一番見たくないものを見てしまったら、どうなってしまうのだろう。
見たくなくて忘れていたのも見てしまうなんて。
「術者の精神不安を無くすために、強力な精神安定剤を用いて術を使っていたが、それにも術者の心と体に限界がきたため使用が禁止されたんだ。まあ、余り出回ってない情報だけどな。」
意外すぎることを聞きすぎて、カカシは軽く頭が混乱していた。
「で、命令違反二回って、その使用禁止の術を使ったのと、仲間を助けにいったことってわけ?」
「そういうことだ。」
「で、怪我って、その時の?」
「そうだ。結果的には仲間を助けられたが、海野は深い傷を負った。」
「そんなイルカを置き去りにして一人で帰ってこさせたの?」
カカシは思わず責めるような口調になってしまう。
事情は了解したが、心情的にどうにも解せない。
だけども、その上忍は言った。
「そう言われても仕方がない。海野が残った仲間を助けてくれたときは正直嬉しかったさ。でも命令違反は命令違反だ、処罰を与えなければならない。」
それがイルカの一人で帰還した理由らしい。
処罰が、傷の療養の上、一人で帰還することでは軽い処罰だろう。
処罰にもなっていないかもしれない。
「上忍なら分かるだろう?カカシ。」
そう言われてはカカシには返す言葉はなかった。
しかし、ここまで聞いてカカシはイルカを放って置けなくなってしまった。
先ほど、手を振り解かれて走って行ってから、それほど時間は経っていない。
「俺、イルカを追いかけるよ。」
「ああ。」と、その上忍は手を上げる。
「俺からも海野のこと、よろしく頼むよ。」
アスマからも顔見知りの上忍からもイルカのことを頼まれてしまったカカシは、とことん、イルカと付き合うことに覚悟を決めた。
悩みがあるなら聞いて解決の手伝いを、心配事があるなら慰めてやりたい。
そして後で気がついたのだが何故か、それは嫌ではなかった。
イルカに関わることがだ。
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