台風少年18
カカシの名を呼んだイルカは、ふんわりと笑った。
「カカシ、落ち着いて。ちょっと混乱しているんだよ。」
あっさりとカカシの告白をかわして、しっかりとした声で言う。
「これから俺が言うことを、よく聞いて。」
小さいイルカの方が、この場ではカカシより大きく見えた。
「いい?この精神安定剤はね、水の中を渡るときに必要なんだよ。」
もう一度、手の平にある錠剤をカカシに示す。
「水を渡る術が禁止されたのは、水の中を渡るとき、自分が一番嫌な記憶を視てしまうからなんだ。」
「・・・・・・記憶。」
「心の奥底に仕舞い込んで忘れていた記憶を視てしまうんだ。詳しいことは判ってないけど、水には深い記憶を呼び起こす作用があるらしいんだって。」
炎は二人に近づいてくる。
熱さも増して、二人は小さな湖の上にチャクラを使って立っていた。
「だから精神安定剤を飲んでいないと忘れていた記憶を強制的に視せられて精神が、めちゃくちゃになる。」
イルカの瞳が緩やかに弧を描く。
「それで、最初、俺は水を渡る術に失敗して、ある湖の奥底に沈んで危うく溺れて死にそうになった。」
いったい、イルカは何の記憶を視たのだろうか。
きっと哀しい記憶だったに違いない。
「それで精神安定剤を飲んでから水を渡る術を使用することになったんだけど通常の精神安定剤が、だんだんと効かなくなってきて、次第に精神安定剤は強いものにとなっていき、遂には術者の体にも心にも負担が掛かり過ぎるというので術の使用は禁止されたんだ。」
「・・・なら、なんで。」
カカシは息を飲んだ。
「イルカは来たんだよ。」
今、水の中を渡ってきたときもイルカは一番嫌な記憶を視てきたはずだ。
これまで何回も嫌な記憶を視ているはずなのに。
なのにイルカはカカシを見て笑っている。
「馬鹿だなあ。」
まるでイルカは悟りを啓いた仙人のようだった。
「それはカカシを助けるために決まっているよ。水を渡る術を使ってカカシを木の葉の里に送り届けるために。」
だってさ、と何でもないことのように言う。
「カカシは木の葉の里に必要な人だから。」
「・・・・・・それだけ?」
残念そうな声がカカシの口から漏れた。
「違うに決まってんだろ。」
呆れたように言ったイルカは首を傾げてカカシを見る。
頭の天辺で結った髪も一緒に揺れた。
「カカシは俺にとって大切な人だから来たんだ。嫌な記憶を視ても、それでもカカシを助けたいと思って来たんだ。」
背伸びをしたイルカはカカシの目を覗き込む。
「強いカカシに勝手に嫉妬して引け目を感じて、今まで名前を呼ぶこともできなかったけど・・・。」
カカシの知らない真実が明かされた。
「カカシに強さも色々だって言われて、自分にしかない強さもあるんだって思って、それで。」
頑張ってみたんだ、今も頑張っている途中だけどね、と穏やかに言われる。
「強い人に追いつこう追いつかなきゃ、と、ずっと思い込んでいたけれど、人それぞれ違っていてもいいだなあって。」
楽になった、ありがとう、カカシにイルカは笑うと何を思ったのか、錠剤を自分の口に含んだ。
精神安定剤の錠剤だ。
そしてカカシの首に手を回したイルカは目を閉じてカカシに顔を近づけてきた。
カカシも自然を目を閉じる。
そっとイルカの背と腰に手を回す。
抱き合った二人は唇を合わせてキスをした。
キスをする姿は迫り来る炎で湖面に照らし出されている。
その中でカカシとイルカは短くて長い、初めてのキスをしたのだった。
台風少年17
台風少年19
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