台風少年16
「ちっ。」
カカシは盛大に舌打ちをすると血の出ている脇腹を押さえた。
今のカカシは、体中、傷だらけでチャクラも底を尽きかけている。
一人、敵に囲まれて味方からの救出を待っていた。
所謂、大ピンチの状態だ。
「なんてことだよ。」
カカシは眉を顰め、手持ちの最後の一粒の兵糧丸を口に含むと、がりがりと噛み砕いた。
これで暫くは体力が保つ。
「読みを間違ったか・・・。」
任務は成功したものの、カカシは敵から逃げる手段を誤ったらしい。
逃げていたつもりが追い詰められていた。
小部隊を組み、部隊長をして任務に来ていたカカシは仲間を先に逃がして自分が囮となって敵を引き付けることにしたのだ。
そこまでは作戦通りだったのだが。
敵は森に火を放ち、森は辺り一面火の海と化してしまった。
逃げ場所はどこにもない。
その中でカカシは一人取り残されている。
「火を放つなんて・・・。自然は大切にしろ。」
見えない敵に向かってカカシは呟いた。
「全く、ひどいことするなあ。」
チャクラが残っているのなら水遁の術で火を消したいとこだが、それもできない。
木々が焼ける匂いが辺りに充満していて、息をするのも苦しくなってきている。
カカシの背後に水溜りみたいな小さな湖があるのが唯一の救いとなっていた。
式を飛ばして見方に自分の居場所を知らせて、増援を待っているカカシであった。
ふと、こんな時なのに、イルカのことが頭を過ぎる。
俺のあげた指輪があると元気が出るって言っていたっけ。
まさに、こういう時に元気が出るのかなあ・・・。
俺も何かイルカに貰っておけばよかった。
軽く後悔してしまう。
いや、物じゃなくてもいいんだけど、そう例えばさ、キスとかでも。
好きな人とのキスは一生の思い出になるものだから・・・。
そこまで考えてカカシは、ばっとクナイを構えた。
火の海の中、敵の気配がする。
燃え盛る炎の間を縫って敵が近づいてきたらしい。
「しつこい奴らだな。」
低い声を漏らしたカカシは殺気を身に纏う。
来るなら来い、と身構えた。
炎で照られたクナイが黒い光りを放って、敵を迎えようとしている。
敵が、じりじりと包囲と狭めてくるのが気配で解った。
カカシの腹から流れ出る血の匂いが、自分の居場所を明確に敵に知らせているのだ。
煙の匂いが充満しているといっても相手も忍だ、血の匂いを誤魔化すことができない。
敵の気配が濃厚となり、今や遅しと敵が、いつ襲ってくるか状態の中で、その者は水飛沫を撒き散らして派手に現れた。
カカシの背後にあった小さな湖の中から出現したのだ。
「助っ人、参上!」
いつか、水の中からカカシを助けに来た時と同じ台詞と放つ。
そしてカカシの前に、ひらりと降り立った。
背中に交差するように背負っていた二本の長刀を引き抜くと、抜き身になった刀の刃が炎に照らされて不気味に赤く光る。
「どっからでも、かかって来い!」
同じく聞いたことのある台詞を、髪や服から水滴を滴らせながら言い放つ。
イルカだった。
カカシより少し低い背丈、頭の天辺で括った黒い髪、その声。
見間違うはずがない。
「・・・イルカ。」
どうしてここに、と困惑した。
水を渡る術は禁じられているはずだ、なのに・・・。
突然、水の中から現れたカカシが現在、想いを寄せている相手が目の前にいる。
信じられない思いでカカシはイルカの後姿を見詰めた。
いつか見た小さな背中は、あの時より逞しく見えた。
イルカは凛々しく成長と遂げていたのだった。
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