台風少年12
カカシに手を引かれて、外に出たイルカは大人しく付いてきた。
なんだか不思議そうな顔をして景色を眺めながら歩いている。
「楽しい?」
カカシが聞いてみるとイルカは頷いた。
「・・・多分。」
「どんな風に?」
「普段は忍服で、こんな服で外に出たことないから・・・。」
カカシから借りて着ている服を指差す。
「服を変えるだけで、見慣れて景色も、ずいぶんと変わるものだなあって。」
ラフな服装で、下ろした髪が風に吹かれて靡いているイルカの雰囲気も違って見えた。
年相応の、ただの少年に見える。
もっと笑ったらいいのに。
そんなイルカを見てカカシは、そう思った。
それから二人で里中に繰り出した。
「何か食べる?」
カカシが尋ねるとイルカが遠慮がちにあるものを指差した。
「あれって、何?」
指差したものは擦れ違った女の子たちが手にしているものだった。
「あー、あれ。アイスの類のソフトクリームってやつだよ。」
「美味しいの?」
「さあ・・・。」
カカシも食べたことがなかった。
今まで特に興味もなかったからだ。
「食べてみる?」
「うん。」とイルカは嬉しそうに言ったのだが、ポケットの中を探って、しょんぼりとした顔になった。
「財布、忘れちゃった。」
「いいよいいよ。俺が奢るから。」
「でも、お金の貸し借りはいけないって、火影様もアスマ兄さまも言っていたよ。」
イルカは、どこまでも真面目である。
「大丈夫だって。」
ここでカカシは本領を発揮した。
「平気平気。黙っていれば分からないって。」
適当だったのだ。
それでも渋るイルカにカカシは言った。
「じゃあ、出世払いってことでいいよ。」
「それは、後でお金を返せばいいってこと?」
「そうそう。イルカが大人になって、お金をたくさん貯めてからでいいよ。」
お金のことなんて気にしないで今日は楽しめばいいよ、という心積もりだったのだ。
カカシの言い分にイルカは、なんとなく納得してカカシがお金を払ってソフトクリームを購入した。
「一つだけ?」
「俺、甘いの苦手だから。」
「そう。」
イルカは多少、残念そうだったがソフトクリームに口を付けると、ぱあっと顔を明るくなった。
「美味しい!」
「なら、良かった。」
嬉しそうなイルカの顔を見てカカシも嬉しくなる。
「一口だけ、どう?そんなに甘くないよ。」
ソフトクリームをイルカが差し出してきた。
「食べてみたら?」と折角、イルカに勧められたのでカカシは、ソフトクリームを少しだけ食べてみる。
「美味しいでしょう?」
イルカに聞かれカカシは「悪くない。」とだけ答えておいた。
カカシとイルカは若者らしく、洋服を見たりアクセサリーを見たりと普段の忍者の生活を、かけ離れた一日を過ごした。
こんな日もいいかもしれない。
イルカと過ごしてカカシは、自分も和やかな気分になり寛いでいるのを感じた。
すっかり、今日は肩の力が抜けている。
忍者でいることを忘れているわけではないが非常に気分が良い。
カカシは隣で、先ほどカカシが買ってあげた指輪を指に嵌めて、それを何回も見ているイルカを微笑ましく思った。
指輪は、シンプルなデザインの男女兼用のもので、アクセサリーの店でそれを見たイルカが、ひどく気に入ったのだ。
「綺麗だなあ。」と指輪を見たイルカは、そこから動こうとせず、目が釘付けになっていた。
カカシが繋いでいた手を引っ張っても名残惜しそうにして立ち去る気配を見せない。
「指輪、買おうか?」
そう言ってカカシは、サイズを見るため指輪をイルカの指に嵌めてみた。
指輪は小さ目でイルカの薬指が、ちょうどのサイズだった。
イルカの薬指に指輪を嵌めたカカシは、意味を考えて、どきりとしたのだが、指輪を薬指にする意味をイルカは知っているのか知らないのか、指輪が指に嵌めると嬉しそうに笑った。
「わ、ぴったり!」
「・・・・・・そうだね。」
「ごめん。とイルカは謝った上でカカシに言った。
「これ、欲しいな・・・。」
イルカが、何かを明確に欲しがったのは初めてだったのでカカシは勿論、買ってやったのだ。
「夕飯はどうする?」
「あ、指輪のお礼に俺が作るよ。」
イルカが申し出た。
「何が得意なの?」
作る料理が、どんなものが興味を覚えてカカシが聞くとイルカは、すらっと答える。
「忍者の基本栄養食の指導書に載っている料理。」
「ああ、あれ・・・。」
そういえば、そんなのあったなあ、と思い出してカカシは、げんなりした。
確かに指導書に載っている料理は体には良いには違いないが、低カロリー高タンパク、野菜が中心、味は薄めで一汁三菜の健康食といった感じのものだ。
はっきり言って美味しくない。
「イルカは、いつもそれを食べてるの?」
「うん。食事は体の基礎を作るって書いてあった。」
指導書に書いてあることに間違いはないのだが、どうにもカカシは、気が乗らない。
「今日は外で食べて帰ろう!」
カカシは決めた。
「食べて帰れば、後は家で風呂に入って寝るだけだし。」
簡単で楽だ〜と言うと、イルカは心配そうにする。
「いいの?俺、もう自分の家に帰ったほうが・・・。」
「いいのいいの。」
カカシは楽しそうに言った。
偶にはいいんだよ〜と軽く答える。
心の中では、割といつもだけどね〜と本当のことを言っておいた。
夕飯を食べてカカシの家に二人で帰るとカカシは早速、風呂を沸かす。
「昨日、入ってないから、ゆっくり浸かっておいでよ。」
カカシの家の風呂を見たイルカは目を輝かせた。
「すごーい!広いね、お風呂。」
「うーん、広いかな。」
「広いよ、浴槽で手足が伸ばせるじゃん。二人で入っても余裕で広いね。」
二人で入る・・・。
またしても、どきりとしてしまったカカシだが、そこは年上の余裕を見せて遣り過ごした。
「風呂が好きなんだね、イルカは。」
「そういえば、そうかもしれない。」
首を傾げるイルカに、カカシは微笑んだ。
「好きなものがあったじゃない。」
よかったね、と。
そう言うとイルカは照れてしまったのか、風呂場に逃げていってしまった。
可愛いなあ。
無意識に、そんなことを思っているカカシはイルカと一緒にいることが楽しくなっているのに、まだ気づいていなかった。
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