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好きと言わない5



イルカが薄く目を開けた時、見慣れた天井が目に入った。
ここ、どこだ、俺何で・・・。
考えようとすると頭が、ずきずきと痛んだ。
余りの痛みに考えるのを止めてイルカは再び、目を閉じた。
頭の中は正しく割れ鐘が鳴り響いていると言ってもいい。
うー、頭痛い。
それに冷たいものが欲しい。
喉にも頭にも。
その時だった。
「あれ、イルカ先生?起きたと思ったのに」
また寝ちゃったの?と声が聞こえた。
聞きなれた、イルカが大好きな声だ。
声の主は一人しかいない。
カカシだ。
「大丈夫かな、イルカ先生」
心配そうに額に手を当てられた。
ひんやりとした手の感触が心地よい。
次に本当に冷たいものが額に乗せられた。
感触は濡れたタオルであった。
頭に冷たいものが欲しかったイルカには、ちょうど良い。
濡れたタオルで頭の痛みも治まってきたような気がした。
「イルカ先生、寒くないかな」
布団が肩口まで、きっちりと掛けられた。
ぽんぽんと軽く布団を叩かれる。
「どう見ても飲ませすぎだよ。ったく、あいつらめ」
あいつらと言うのはアスマと紅のことらしかった。
「だから、あいつらと一緒にイルカ先生の酒を飲ませるのは嫌だったのに。絶対にイルカ先生が悪酔いさせられるからねえ」
散々、妨害してきたのになあとカカシが愚痴っている。
どうやらイルカの知らないところでカカシはアスマと紅に釘を刺していたらしい。 大げさだなあ、とイルカは頭の隅で思った。
カカシの愚痴は続く。
「酒を飲むペースも種類も全く違うから俺が一緒の時にしか。あいつらと飲みに行かなかったのに」
そう言われればアスマと紅と酒を飲むときには必ず、カカシが同伴していたような気がする。
それにイルカは気がついていなかった。
カカシは色々とイルカのことを、さり気なくフォローしてくれていたのだ。
すっと頬に何かが当たった。
イルカの頬を撫でていく。
カカシの手である。
頬を撫でて耳を触って髪を梳き、また頬を撫でる。
柔らかい仕草は手で愛を語っていた。



「イルカ先生」
柔らかい手の持ち主は柔らかい声を出した。
「イルカ先生、大好き。好きです、大好き」
何回も言葉が紡がれた。
「好きです、イルカ先生。好きです、心から」
本当に愛しています、と言われる。
「愛しています、イルカ先生」
はっきりと耳元で囁かれた。
とっても優しい声で。
その頃になると目を閉じてはいるものの、イルカの顔は真っ赤になっていた。
目を閉じていても痛いくらいカカシの視線を感じる。
一心に。
「あれ?」
カカシはイルカの額のタオルを取り上げた。
「イルカ先生、顔が赤くなっている。苦しいのかな」
呟いたカカシはイルカの額のタオルを持って洗面所の方へと行ってしまった。
じゃーっと水の音がしてタオルを濡らしているらしい。



その隙を狙ってイルカは、ぱっちりと目を開けた。
意識は完全に目覚めていた。
頭は痛いのだが、それ以上に衝撃的なことがあって痛みが、どっかに吹っ飛んでいる。
「カカシさんに・・・」
はあああ、と深くて長い息が出た。
「好きだって言われた・・・」
どっと安心感が襲ってくる。
「俺、嫌われてなかったんだ」
嬉しい。
良かった。
不覚にも涙が出そうになってイルカは慌てて目を閉じた。
カカシが戻ってくる気配もしたからだ。
目を固く閉じてイルカは顔を横に逸らせた。
今の顔をカカシに見られたくはない。
いっそのこと布団に潜ってしまいたかったが、それをすると起きているとばれてしまう。
起きていることがばれませんように。
イルカは眠っていることにしておきたかった。



「イルカ先生?」
気配でカカシがイルカの顔を覗き込んでくるのが分かったが頑なに寝た振りをするイルカだ。
くすっとカカシが笑ったような気がした。
濡れたタオルが、また額に乗せられる。
冷たくて気持ちがよい。
「イルカ先生、あのねえ」
カカシが、やはりイルカの頬を撫でながら話し始めた。
声がとても近くで聞こえる。
「今だから言いますけど俺、イルカ先生に告白された時、とっても嬉かったんですよ」
気分的には飛び上がってしまうほど。
初めて聞く話だった。
「もうねえ、嬉しくて嬉しくて嬉しくて。俺のプランとしては俺から告白と考えていたんですけど、思わぬサプライズでした」
カカシの口調は弾んでいて楽しげだ。
「好きな人からの告白なんて一生に一度のことですよね。俺、今でも繰り返し、あの日の事を思い出しては胸を高鳴らせています」
告白って何回思い出してもいいもんですよねえ〜。
夢見るような話し方だった。
「緊張して頬を紅潮させたイルカ先生が潤んだ目で俺を見て『好きです』と告白してくるシーンは、いつ思い出してもいいです。最高です」
それからね、付き合ってくださいと言ったイルカ先生は素敵で魅力的で、あの時キスだけで終わったのが奇跡みたいで自分を褒めています、それから後は、とカカシが続きを話そうとしたところでイルカは堪らなくなって起きた。
「ス、ストップ!」
上半身をベッドの上で起こすと頭の中が、がーんと鳴って痛くなったが堪えてみる。
「そ、それ以上はいいですから!」
自分の恥かしい思い出をカカシの口から語られるのは勘弁してほしかった。
「そう?俺は何時間でも、あの日のことは語れますから遠慮しないでください」
カカシは涼しい顔で、さらりと言う。
「あの日のイルカ先生が言ったことは俺、一生忘れませんから」
「忘れてください!」
「忘れるなんて、とんでもない。忘れたら自分を怒ります」
それからカカシは微笑んでイルカの額から落ちたタオルを拾った。
「頭が痛いのは大丈夫ですか?」
「え?あ、まだ少し痛いですけど・・・」
「何か飲みますか?」
「できたら冷たいものを」
「はいはい、待っててね」
カカシはイルカの頭を撫でると台所へ行き、すぐに戻ってきた。
「はい、冷たいお茶です」
「どうも」
ごくごくと冷たい茶を飲み干すと生き返ったような気がした。
「はー、美味しかった〜」
一息つくとベッドに腰掛けているカカシと目が合った。
目が優しい。
イルカを見つめていたカカシは言った。
「イルカ先生、好きです」
はっとイルカは息を飲んだ。
「愛しています」
告白して三年。
付き合って三年。
初めてイルカはカカシに好きだと言われたのだった。



好きと言わない4
好きと言わない6




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