好きと言わない4
「あの、どうかしましたか?」
アスマと紅の様子にイルカは訝しげな顔をした。
「俺、おかしなことを言ったでしょうか」
イルカは本当に真剣だった。
「まあ、そうだなあ。おかしいってかって訊かれると頷きたくはなるな」
「そうね。でも、おかしいのはイルカ先生じゃないわ」
「ということは・・・」
イルカの顔色から、さーっと血の気が引いた。
「それは訊くまでもないということですよね・・・」
ずずーんと落ち込んでいく。
「カカシさんは俺のことが」
「違う違う!」
「そうじゃないわ」
二人は慌てて否定した、それも強く。
「そんなこと絶対にないから大丈夫よ」
「そうだ、小さいことは気にすんな」
気にするなと言われてもイルカは気になってしまう。
気になるのでカカシに近しい立場にある二人に尋ねているのだ。
イルカは、もっと思い切って訊いてみた。
ずばり、そのものといった感じで。
「こんなこと言うとアレなんですが」
アスマと紅は今度は何を言い出すのかと眉根を寄せた。
「なーに、どうしたの」と言いつつ、紅は酒をがんがんと飲み始めている。
この話題が惚気に近いことを察しつつあった。
心の中でカカシに呪いの言葉を吐きそうになる。
恋人の不安くらい取り除きなさいよ!と。
アスマも紅の様子から何かを感じとったのか酒を早いペースで飲み始めた。
「カカシさんが言っていたんですけど、お二人は」
声が小さい。
「お二人はカカシさんと俺の関係を薄々、知っているとかで」
「・・・まあ」
「・・・そうね」
薄々ではない、と声に出さず否定しておいた。
実のところ色々、知ってはいたのだがイルカの事を慮って黙っていたのだ。
イルカの与り知らぬところでカカシが割とぺらぺらとイルカとのこと話している事実を。
主に、それは惚気だった。
「そ、それでですね」
イルカは極度に緊張しているのか紅が注いでくれた、やたら度数の強い酒を煽った。
かん、とグラスをテーブルに置くと深呼吸してからアスマと紅を、きっと強い意思の宿る目で見た。
「あの、カカシさんと俺の関係をご承知の上でお尋ねしますが」
ごくりと唾を飲む。
アスマと紅はイルカの緊張が感染したのか、酒を飲んでイルカの言葉を待っていた。
「カカシさんは」
イルカが、どきどきする胸を押さえる。
「カカシさんは俺のことが」
どきどきしているイルカの声は震えを帯びている。
「俺のことが好きだと思いますか?」
イルカの言葉は続く。
「俺に好意を持っていると思いますか」
お二人から見て、どうでしょう?と。
イルカは至極真面目であった。
質問が終わった時。
紅は口に含まれていた酒を噴出すのを辛うじて答えたがアスマは耐え切れず噴いていた。
「あ、悪い」
慌てて口元を拭ったアスマは溜め息を吐いた。
「で、どうでしょうか?」
あくまでイルカは意見を求めてくる。
「どうって言われても・・・」
「答えは一つしかないと思うわ」
「そうだな、俺もそう思う」
「答えは一つって」
イルカには、さっぱり思いつかない。
「先ずねえ」
ごくり、と紅は度数の強い酒をストレートで飲み干した。
びしっとイルカを指差す。
「全部、間違い!」
「え?」
「全部、勘違い!」
「え?」
「全部、思い込み!」
「え?」
「だと思うわ」
言うだけ言って紅は、アスマと同様に溜め息を吐いた。
「全部の原因はカカシね」
断定した。
「え?何がです、どの辺が間違いで勘違いで思い込みなんでしょうか?」
もはや紅は飲みに徹していた。
イルカは助けを求めるようにアスマに視線を送る。
「まあなあ」
アスマは面倒くさそうに、それでも丁寧に答えた。
「カカシはイルカのことを嫌いということが間違いでな」
「はい」
「カカシはイルカに好きかどうかに疑問を抱くのはナンセンスで勘違いの極みで」
「・・・はい」
「なんだな、カカシがイルカに好意以外のものを持っているなんて、それはイルカの思い込みだ」
説明は的確で的を得ていた。
「で、イルカがそう思った総て原因はカカシにある、と」
「つまり?」
おそるおそるイルカは口に出した。
「カカシさんは俺のことが好き、ということでいいんでしょうか?」
「その通り!」
二人の声は見事にハモっていた。
「だったら」
イルカは寂しそうに呟いた。
「どうしてカカシさんは俺に好きだって言ってくれないのかなあ」
強い酒を飲んだイルカは多少、酔っていた。
グラスに新しく注がれた酒を見つめる。
こくり、と喉を鳴らすと飲んでしまった。
「アスマ先生も紅先生もカカシさんは俺のことが好きだと言ってくれて」
空になってグラスを置いて、イルカは深い息を吐いた。
それは悲しそうで。
「でも、俺にはそれが解らない・・・」
やっぱり俺は男だし告白したのも俺からだし。
最後に漏れ聞こえたイルカの声は掠れて聞き取りにくかったが。
上忍のアスマと紅の耳には、しっかりと聞こえていた。
それと個室の前で気配を消して立っていた人物にも。
「まあ、後は二人で話せばいいんじゃないか」
「そうねえ、愛しの恋人は悲しんでいるから、ちゃんと慰めて誤解を解くのよ」
必ずね、と紅が呼びかけると、その人物は苦い顔で個室に入っていた。
「解っているよ」
出している片目が、じろっとアスマと紅をねめつけた。
「イルカ先生のことは俺が一番解っているからね」
ご心配なく、と嫌味を付け足したのはカカシだった。
「一番解っている割にはイルカ先生は、こんなに悩んでいるじゃないの」
「それは知っていたけど」
「知っているなら、どうにかしなさいよ」
「任務に出る直前だったから時間がなかったんだって、俺だって身を切られるように辛かったんだから。それより俺に無断でイルカ先生と飲むなって、あれほど言ったのに」
「そんなの私の勝手でしょ」
「そんなの駄目に決っているでしょーが」
何がどうなっているのか・・・。
目の前に突然、カカシが現れて紅と言い争っている。
それは、どうやら自分のことで。
そこまで考えてイルカは目眩がしてきた。
先ほど飲んだ酒が今頃、回ってきたらしい。
ぐるぐると回る天井が目に映る。
ついで。
「イルカ先生!」とカカシが呼ぶ声が遠くに聞こえたのだった。
好きと言わない3
好きと言わない5
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