好きと言わない3
仕事が終わって一緒に帰れる日はカカシはイルカを待っていた。
いつでも、嫌な顔一つせずに。
イルカが遅くなるから先に帰っていてほしいと言っても中々、首を縦に振らない。
「イルカ先生を待つのなら幾らでもできますよ」と言って譲らない。
そうなるとイルカも悪いと思いながらも待っていてもらってしまう。
仕事が終わって急いでカカシの元へ行くとカカシは、とても嬉しそうに言う。
「イルカ先生を待っていて良かった」
これで一緒に帰れますね、と顔を綻ばせる。
「いつでも一緒ですよ」なんて言われながら手を握られたりするとイルカの心は、あったかくなった。
ああ、俺、この人が好きなんだなあ。
いつも思わされてしまう。
実際、そうなのだが。
そして帰りに夕飯を食べたりするのだが圧倒的にカカシはイルカの好みを優先してくれた。
イルカが好物をしているラーメンもそうだ。
食べすぎるとカカシに注意されるがラーメンを食べるのはカカシとが一番多い。
その日。
イルカは、やはりカカシと夕飯を大好きなラーメンを食べることになったのだが。
ほかほかのラーメンを食べながらカカシは言った。
「俺ね、イルカ先生とラーメンを食べるようになってね」
「はい」
「前は、普通だったのに今ではラーメンが好きになりましたよ〜」
「へええ」
「美味いですよねえ、ラーメン」
ま、食べすぎは駄目ですけど、とカカシは笑う。
「・・・そうですね」
イルカは軽く相槌を打ち、大好きなラーメンを口に運んだ。
確かにラーメンは美味しい。
美味しいけれどカカシの言を聞いて気持ちが少し沈んでしまった。
ラーメンでさえ、カカシさんに好きだと言われているのに。
澄み切ったラーメンのスープを飲むと余りの美味さに泣けてくる。
ラーメンをが好きだとカカシが言ったからではない。
・・・けっして。
はあ、とイルカは息を吐く。
好きだと言ってもらえない俺って何なのだろう。
深く考え込む結果になってしまった。
数日後。
カカシは任務で、しばらく里を離れることになった。
出発前に家で二人きりの時にカカシは尋ねてきた。
「俺は任務に行きますけれど」
カカシの顔は眉が潜められて瞳は心配そうにイルカを見ている。
「イルカ先生、一人で大丈夫?」
声は不安げだ。
「大丈夫ですよ」
イルカは努めて元気そうな声を出した。
「大人なんですから一人でも平気です」
「それは分かっていますけど」
うーん、とカカシは任務の出発前なのに腕を組んでイルカを検分する。
「そうじゃなくてイルカ先生、最近、変だったでしょ」
「変、て?」
ちょっとだけ、どきりとしながらイルカはカカシの顔を見た。
カカシは難しい顔をしている。
「元気なかったじゃないですか。食欲もなかったし」
「別に、それは・・・」
上手い理由が見つからずイルカは言葉を濁す。
「病気じゃなくて、タイミング的なものというか、その・・・」
じっとカカシに見られ、居心地が悪くなりイルカは顔を俯かせた。
ここ数日、悩んでいたのをカカシに気がつかれていたから。
完全に隠しおおせるとは思ってはいなかったけけど。
「カカシさんが心配するようなことじゃないですから」
やっとのことで、それだけが言えた。
「俺、一人で大丈夫です」
「イルカ先生」
やはりカカシは心配そうな声を出した。
「何か悩みでもあるんですか?病気じゃなければ余計に気になります、俺でよければ話してください。話すだけでも違いますよ」
「・・・・・・カカシさん、これから任務じゃないですか」
他ならぬ悩みの原因が目の前にいるカカシだったのでイルカは少しだけ意地の悪い発言をしてしまう。
すぐに後悔してしまうことになったが。
「そうですね」
ゆっくりとカカシは包むようにイルカに背に手を回しイルカを抱きしめた。
「もっと早く訊けばよかったです。ぎりぎり任務前に訊いても何もしようがないですよね」
ごめんなさい、と謝られた。
「なるべく早く任務を終わらせて帰ってきますから待っててもらえますか?すぐにイルカ先生の話を聞きますから」
聞かせてくださいね、とカカシは念を押す。
カカシは優しい。
「俺が待てなければ他の信頼できる人に相談しても構いませんから」
そう言うカカシは本意ではないのだろう、少し寂しげだ。
「・・・俺の方こそ、すみません何でもないんです」
反省したイルカは項垂れれる。
こんなにも自分を心配して思いやってくれるカカシが、自分のことを嫌いなわけがない。
イルカは微笑んだ、無理矢理。
「俺のことは心配しないで任務に行ってください。怪我をしないでくださいね」
無事で帰って来てください、と願うように言葉を出す。
「もちろん、怪我なんてしません。イルカ先生に会うために帰ってきますから」
もう任務の出発時間が迫ってきている。
カカシは、もう一度、イルカを抱きしめる。
大事に大事に腕の中に抱え込んだ。
「行って来ます、イルカ先生」
イルカの額にキスを落とすと名残惜しげにカカシは任務に行ってしまった。
後にはイルカが一人残された。
やはりというか、予想通りというか。
カカシが任務で里から離れ、一人取り残されたイルカが悩まないはずはなかった。
むしろ、カカシと一緒にいる時より悩んでいた。
悩む原因を取り除く、簡単な方法はカカシに訊くことだ。
何でイルカのことを好きだと言ってくれないのか。
・・・でも、さあ。
イルカの顔は憂鬱そうになる。
訊いて、もしかして、もしかしてだけど嫌いって言われる可能性も無きにしも非ず、だよなあ。
仕事の合い間に考えてしまう。
・・・カカシさんに嫌いって言われたら、どうしよう。
その場で心臓が止まってしまうかもしれない。
だって、こんなに好きなんだ!
男同士で上忍と中忍だけど。
カカシが里に不在の間、毎日のように葛藤している。
さながら修行のごとく。
・・・俺がカカシさんのことが好きで、カカシさんが傍にいてくれるなら、それだけでいい。
多くの望みは身の破滅だ。
そんなことは解っている、解っているが。
イルカは日々、悶々と過ごしていた。
カカシは未だ里に帰ってこない。
気分的にイルカは追い詰められていた。
そんな折、イルカはある人たちから誘いを受けた。
仕事帰りに会ったのだ、カカシの知り合いの上忍二人に。
カカシの知り合いでもあったがイルカの知り合いでもあった。
「こんばんは、イルカ先生。お久しぶりね」
「よ、元気か?」
その上忍はアスマと紅で二人は気さくにイルカに声を掛けてきた。
「あ、アスマ先生に紅先生!」
知り合いに声を掛けられてイルカの気分は浮上する。
「こんばんは!本当に久しぶりですね」
任務が重なったりして二人とも久しく会っていなかった。
知り合いに会えたのは単純に嬉しかった。
イルカが、にこにこしていると紅が誘ってきた。
「ねえ、イルカ先生。お暇なら飲みにでもいかない?」
「おお、そうだ。それがいい、ちょうど誰か誘おうとしていたところだ」
「でも・・・。俺でいいんですか?」
「もちろんよ」
「問題なしだ」
行こう、と誘われてイルカは閃いた。
この二人はカカシと親しい間柄だ。
カカシとイルカの関係も薄っすらと知っているかもしれないと前にカカシに聞かされた。
カカシに訊けないことを間接的に、この二人に訊いてみたらどうだろう?
それは、とても名案に思えた。
さり気なくカカシのことを尋ねてみよう。
何か分かるかもしれない。
そう思うと心が軽くなり、アスマと紅の誘いに積極的に応じた。
そして酒の席でイルカは二人に尋ねてみたのだ。
そこは個室でアスマと紅が並んで座り、イルカは紅の前の席に座った。
酒も入って雰囲気も程よくなったところでイルカは切り出した。
酒は入っていたが真剣だった。
「あのう、少々、お尋ねしたいことがあるんですが」
「はいはい、なーに?」
酒が入った紅の口は軽い。
「なんだ、真面目な顔して」
アスマも陽気になっている。
「実はカカシさんのことなんです」
「カカシの?」
「はい」
イルカが頷くと紅の目の奥が、きらっと光った。
何かを察したのだろう。
恋愛関係に女性の感は何故か働く。
「私でよければ何でも聞いてちょうだい」
紅が、にっこりとすればイルカは少し赤くなった。
女性に免疫がない。
免疫が付く前にカカシのことを好きになってしまったから。
「あー、あの」
イルカは思い切って訊いてみた。
「カカシさんは俺のことが・・・」
紅の顔がわくわくとしたものに変わった。
アスマはタバコをふかしている。
「嫌いなんでしょうか?」
その瞬間、二人は盛大に咽ていた。
紅は酒で、アスマはタバコで。
げほげほ、ごほごほと派手に咳をしている。
それが落ち着くとアスマと紅は呟いていた。
「今世紀最大のジョークかと思ったぜ」
「この世で絶対に有り得ない質問を聞いたわ」
疲れた顔をしていたのだった。
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