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好きじゃなくてもいい、嫌わないで 5



カカシの家にイルカが来た日。
いつもは体の何処かしら触れている二人であったが、その日はちょっと違っていた。
ベッドに凭れて並んで座るのが定番で、カカシの肩に寝ていても寝ていなくてもイルカが頭を乗っけるのも定番になりつつあった。
「あ、そうだ」
カカシが「ちょっと待っててね」とイルカの頭を、そっと動かしてイルカに背を向けた。
単に遠くの物を取ろうとして、そちらに手を伸ばしたのだ。
「ん?これじゃなくて・・・。あ、これこれ」
積み重なっているカカシの愛読書である本の中から一冊を選ぶ。
不意に背中があったかくなった。
あったかくなると同時に少し重い。
首だけ動かして、何が起こったのか背後を見ると、肩の辺りに黒髪が見えた。
イルカの頭だ。
こてっと頭を肩口に乗せて、イルカがカカシに背中にくっ付いている。
まるで、甘えているような。
今までの中で、大胆な接触だった。
「・・・イルカ先生」 背中からイルカの体温が、じんわりと伝わってくる。
どうしたんだろ、イルカ先生・・・。
急に、こんなことをするイルカの真意が解らない。
皆目不明。
・・・なのだが、こんなことをイルカにされても嫌じゃないのだが不思議だ。
イルカを拒否しようとは思わない。
寧ろ、こんな風にくっ付いてこられて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。
うーん。
背中にイルカをくっ付けたままのカカシは悩む。
このままでいるのはいいだんけど。
この先、どうしたらいいんだ?
悩んでいると背中の温かさが、ゆっくりと離れていく。
イルカの体温がなくなっていき、カカシは残念に思う。
くっ付いていても嫌じゃないのになあ。
手にした本を持って振り向くと、イルカは何事もなかったかのように元の体勢に戻ったカカシの肩に頭を乗っけてきた。
目は閉じている。
表情は穏やかで、満ち足りているように見えた。



それから何日か後。
イルカの姿を、ぱったり見なくなった。
カカシもイルカも里にいるはずなのに会えない。
受付所でも擦れ違う。
「ねえ、イルカ先生、見なかった?」
上忍の控え室で、ばったり会った紅に聞くと「今さっき、受付所にいたわよ」と情報と貰い、急いで向うとイルカの姿はない。
受付所で尋ねると「たった今、アカデミーに戻った」と言われる。
夕方まで待ってイルカを迎えにアカデミーに行くと「先ほど帰った」と言われる始末。
何でか会えない。
イルカの顔を見ることができない。
「はあ〜」
がっくりと肩を落としたカカシは、何でだろう?と考えた。
「俺、イルカ先生に何かしたかな?」
怒らすようなことはしていないと思うが。
ここまで擦れ違いが続くとイルカが意図的にカカシに会わないようにしているとしか思えない。
忙しいというだけで、こんなにも会えない訳がない。
「どうして、イルカ先生・・・」
普通の友達付き合いをしていたと思っていたのに。
あんなに仲良くなったのに。
イルカと会えないのが、こんなにストレスになるとは・・・。
「友達と会えないのって辛いんだな」
イルカの家に行くことも考えたが、実はまだイルカの家に行ったことがない。
招かれたことがないのだ。
調べることもできるが、そこまでして押しかけてイルカの不興を買うのは本意ではない。
もしかして怒っているかもしれないのに。
怒らせた理由は全く思い当たらないが。
イルカと顔を合わせず、一週間が過ぎ、カカシのイライラはピークに達していた。



やっぱり、イルカ先生の家に行ってみようかな・・・。
明日は休みだという夜、一人で家にいるカカシはベッドの上で、ごろごろしながら考えた。
週末はイルカが遅くまでカカシの家にいて、楽しい時間を過ごしていたというのに今日は、それがない。
つまらない・・・。
久々に過ごす一人の時間をカカシは持て余し、一人でいるのがこんなに退屈のかと驚く。
イルカと出会う前は一人で何をしていたのか、思い出せなかった。
本を読もうとページを開くが頭に入ってこない。
考えるのはイルカのことだけだ。
もしもイルカ先生を怒らすようなことをしていたなら謝りたい・・・。
謝って仲直りして、イルカと一緒にいたいと切に願ってしまうのだ。
「よし!」
腹筋で上半身を起こしたカカシは決断した。
悩んでいても仕方がない。
「イルカ先生の家に行ってみよう!」
イルカの家は既に調べて場所は把握してある。
「偶然、通りかかった振りをして訪ねてみよう!」
いい訳など幾らでも出てくる。
顔が見たかったから、声が聞きたかったから、会えなくて寂しかったから、すごく心配だったから、ちょっと近くまで来たから等々。
どうとでもなる。
決断したカカシは早速、行動を開始した。
部屋着から忍服に着替えようとしたところで動きを、ぴたりと止めた。
玄関の外に気配がある。
人の気配が。
玄関前を、うろうろと行ったり来たり。
すぐ近くまで来たかと思うと遠ざかり、また近寄ってくる。
カカシの家の玄関を叩こうか、どうしようか、迷っている雰囲気が濃厚だ。
手にしていた服を放り投げると、迷わず玄関を開けた。
勢いよく。
そこにいたのは、やはりイルカであった。



「あ・・・」
小さな声を出したイルカはカカシを見て、固まってしまっていた。
黒い目を少しばかり見開いて、カカシと見つめている。
「イルカ先生!」
これまた少しばかり大きな声を出したカカシに、イルカの体がびくっとなる。
久しぶりといっても、一週間ぶりに会ったイルカは特に変わりが無いようで安心した。
病気や怪我はしていなかったらしい。
「イルカ先生・・・」
今度は、ほっとして出た声だ。
「ここんとこ会えなくて、何かあったのかと心配していたんですよ」
「ご心配をお掛けして、すみません」
イルカが恐縮したように言う。
「何もなかったらいいんです」
イルカ先生が元気そうで安心しました、とカカシの顔に笑みが浮かんだ。
「全然、会えないから俺、イルカ先生を怒らしたかと・・・」
「そんなことはありません!」
カカシの言葉をイルカは強い口調で遮った。
「カカシ先生は何もしていませんし、怒る理由もないです」
「そう」
だったら、今の今まで何故会えなかったのか。
こんな夜に訪ねてきて・・・。
落ち着いて、よくイルカを見ると取っ手のある大きな紙袋を持っている。
カカシの視線に気がついたのか、イルカが手にしていた紙袋をカカシに差し出してきた。
「・・・あの、これ、どうぞ」
「あ、はい」
何も考えずにカカシは受け取った。
受け取ってから後悔した。
「カカシ先生にお渡ししようとして遅くなってしまいました」
「なに、これ?」
中を見るとリボンで飾られ、鮮やかな紙で包まれた贈り物らしき品物や、これまた可愛い色合いの封筒がわんさか入っていた。
仄かに香水の匂いもする。
おそらく、女性からのものに違いない。
「・・・なに、これ」
袋の中を見ているカカシの眉が潜められる、不愉快さで。
「カカシ先生にお渡しするように言われて」
「それで持ってきたの?」
「はい」
声にも不愉快さが滲み出てしまう。
イルカは悪くないのに。



「直接、本人に渡した方がいいと何回も断ったんですが」
断り切れなかった分をイルカは持ってきたのだろう、やむを得ず。
「ここんとこ、とても頼まれ事が多くて」
頼まれ事とはカカシが絡んだ事柄なのだと容易に推測できた。
次のイルカの言葉で。
「カカシ先生と友達なんでしょう、と言われて押し切られてしまって・・・。カカシ先生って有名な方だったんですね」
「有名かどうかなんて、どうでもいいですよ」
イルカとの時間を邪魔されたのが、無性に腹が立ってきたカカシだ。
どこぞの見知らぬ誰かに楽しい時間を奪われたのだと思うと、怒りがこみ上げる。
「こんなの、はっきりと断ればいいでしょう」
手にしていた紙袋を部屋の中に無造作に投げ込んだ。
今は見たくもない。
「漸く会えたと思ったら、つまらない用事で訪ねてくるし」
これは言ってはいけなかったのかもしれない。
駄目だ駄目だと思いながらもカカシの口は閉じることをしなかった。
怒りの矛先がイルカに向ってしまう。
「俺との時間より、こんなどうでもいいことに時間を割いていたんですね」
俺の気持ちなんて考えなかったんでしょ、と会えなかった不満が吹き出てしまう。
「イルカ先生は俺が大事じゃないんだ、友達なのに」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
はっと気がついた時にはイルカの顔は俯いていて見えなくなっていた。
「すみません、俺が至らないばかりにカカシ先生にご迷惑を掛けてしまって」
すみません、とイルカは繰り返した。
「夜遅くにお伺いしてしまって、挙句に嫌な思いをさせてしまって」 イルカの顔は一向に見えず、頭の天辺で結った髪が、しょんぼりと垂れ下がっている。
すみませんでした。
一度、深く頭を下げたイルカは俯いたまま、踵を返した。
そのまま、とぼとぼと歩いて行く。
夜の闇にイルカの姿が溶け込んで見えなくなった頃。
カカシの顔から血の気が、ざあっと引いた。
顔が蒼褪めている。
自分はイルカに何を言ったのだろう・・・。
取り返しのつかないことを言ったかもしれない。
二人の間に入った亀裂は大きい。
大きく深く、底が見えない。
「・・・イルカ先生」
イルカだって迷った末の行動だっただろうに。
だから、カカシの家の前で何回も躊躇うように行ったり来たりしていた。
一週間、悩んで悩んでカカシの家に来た。
それをカカシはイルカに会えなかったイライラでイルカに八つ当たりをしてしまった。
元はといえば、カカシの『友達』宣言が原因で仇になったいうのに。
カカシと友達だから、本来、イルカがしなくはいいことをする羽目になった。
イルカは、とんだトバッチリだ。
せっかくイルカに会えたのに。
友達になって距離が縮まって、いい感じになっていたのに。
カカシに懐いて、心を許してくれたのに。
イルカが傍にいてほしかったのに。
それらを全部、壊してしまった。
「馬鹿みたい」
カカシから出た言葉は自分に向けられたものであった。




好きじゃなくてもいい、嫌わないで4
好きじゃなくてもいい、嫌わないで6




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