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好きじゃなくてもいい、嫌わないで 4



飲み会の次の日の朝。
カカシは呻いていた、上忍の控え室で。
「気持ち悪〜」
顔の殆どが覆面で隠れているのに、げっそりと、やつれているのが分かる。
「飲み過ぎた〜」
昨日の酒が残っているのだ。
「何よ、二日酔い?」
情けないわね、という酒豪の紅は二日酔いに経験がない。
強靭な肝臓の持ち主だった。
「昨日は結構、飲んでいたものねえ」
紅は呆れたようにカカシを見る。
「年甲斐もなく、はしゃいじゃってイルカ先生に迷惑掛けていたじゃないの」
「・・・全部、覚えているよ」
全部、覚えているから始末に悪い。
酔っていても記憶は、しっかり残っているのだ。
「酔っ払いに絡まれたイルカ先生と助け出したと思ったら、自分が酔っ払ってイルカ先生に絡むなんて」
「うう・・・。反省しています」
「あの後、どうなったのよ」
あの後、とは飲み会が終わった後のことだ。
「カカシ、イルカ先生と帰って行ったわよね」
「そうだよ、自宅まで送ってもらいました」
「・・・イルカ先生も大変ね、ほんと」
カカシなんかと友達になっちゃって、とイルカに同情している。
「家まで送ってもらって、どうしたの?」
好奇心が刺激されたのか、紅が突っ込んで聞いてきた。
わくわくしているような雰囲気だ。
「どうしたって・・・。送ってもらって、玄関先で別れたよ」
「・・・そんだけ?」
「そんだけ」
カカシが頷くと、何かを期待していた紅は「つまんないの」と肩を落とした。



それから、数日。 カカシはイルカと会うことがなかった。
上忍師という仕事が意外に大変だったのと、個人的な任務を請け負って忙しかったからである。
「あーあ」
深夜、カカシは夜道を、とぼとぼと歩く。
歩きながら愚痴が出た。
「里に帰ってきたら少しは暇になると思ったら、全然じゃない」
あっちもこっちも、いい様に人を使ってくれちゃって、と主に愚痴を言いたいのは火影に対してだ。
「火影さまも、もうちょっと俺のプライベートも考えてくれてもいいんじゃない?、青春を謳歌したい年頃なのにさ〜、何とかならないもんかね」
お陰でイルカと会う時間も取れない。
せっかく、友達になったというのに。
「里に戻ってきたんだから、イルカ先生と友達ライフを楽しみたいよ」
目下、それがカカシの夢であり、目標だ。
「明日はイルカ先生に会えるかなあ」 もうすぐ自宅というところで、カカシは、ぴたりと足を止めた。
家の前に誰かがいる。
誰かの気配がする。
それは、よく知っているもので・・・。
走り出したカカシは、一気に自宅に到着した。
「イルカ先生!」
カカシの玄関の前でイルカが座り込んでいた。
立てた足を抱えて、膝小僧に頬を乗せている。
「どうしたんですか?こんなところで?」
時間は夜遅く、自分は任務でいなかったのに。
どうして、ここにいるのだろう?
・・・答えは一つ。
カカシに用事があるからだ。
「あ、カカシ先生」
顔を膝から離したイルカはカカシを見上げた。
「お帰りなさい」
「た、ただいま・・・」
居るはずのないイルカの姿を見て、カカシは動揺している。
「任務、お疲れさまでした」
「あ、はい・・・」
イルカは立ち上がると、ぽんぽんと服を叩き、土埃を払う。
「じゃあ、おやすみなさい」
頭を下げると、そのまま去って行こうとする。
さすがに、それはないだろう、と思ったカカシはイルカを引きとめた。



「ちょっ、イルカ先生」
腕を掴んで足止めをする。
「ここで何をしていたの?こんな遅くまで」
「何ってカカシ先生を待っていたんです」
「待っていたって・・・。俺、任務でいなかったでしょ」
「今日、帰還するって火影さまに内緒で教えていただいたんです」
だから、家の前にいればカカシ先生に会えるかなと思って。
「俺に会うために待っていたの?」
「はい」
首を縦に振るイルカは本気でカカシに会うために待っていたらしい。
任務が長引いてカカシが帰ってこなかったら、どうするつもりだったのか・・・。
「たった、それだけのために?」
「そうです」
信じられない、という言葉をカカシは飲み込んだ。
「カカシ先生に会えたので、もう帰りますね」
「え・・・」
掴んでいたイルカの腕がカカシの手を擦り抜けていく。
「さよなら、カカシ先生」
振り返りもせずに去って行くイルカの姿をカカシは小さくなるまで見つめていた。
「俺に会うためにだけ、ここにいた」
明日じゃ駄目だったのかなあ、と呟いたカカシの声は風に流されていった。



それから、カカシはイルカと一緒に帰ったり帰らなかったり。
会ったり会わなかったりしていた。
そして、それらはカカシの方から誘った時のみだけだった。
イルカの方からカカシに近寄ってはこない。
常に受身の態勢になっている。
近寄ってきたのは、あの夜だけだ。
「イルカ先生」
カカシは任務が終わって報告書を出した足で、夕方のアカデミーに顔を出した。
「もう仕事、終わりましたか?」
「あ、カカシ先生!」
自分から近寄っては来ないがカカシの顔を見るとイルカは、いつも嬉しそうな顔をする。
ほっとしたような、安心したような顔をするのは何故なのか。
「今、終わりました」
「そ。じゃ、帰りましょ」
「はい」
自分の机の上の書類を整理すると荷物を持って、いそいそとイルカはカカシの傍に来る。
「お待たせしました」
満面の笑みではないが、微笑を浮かべて明るい顔で。
カカシと一緒にいられて、嬉しいと全身で表現している。
・・・イルカ先生って素直だな。
そんなところが可愛かったりする。
・・・・・・男に可愛いって変だけど、友達なら変じゃないよね?
イルカには不可解な一面もあるが、感情表現はカカシの前では素直だ。
それはカカシがイルカに心を許されているからこそかもしれない。
他の者に対しては、カカシの前のように感情を表したりしない。
そういうのって・・・。
ふふ、とカカシは覆面の下で密かに笑う。
何かいいよね、友達同士の秘密みたいでさ。
カカシとイルカは他愛無い話をしながら、帰り道を一緒に歩く。
しかし、帰るだけだった。
途中、店に寄り食事をしたり酒を飲んだりということはしない。
分かれ道に来るとイルカは、あっさりと「また明日」と自分の家に帰ってしまうのだ。
それがカカシは少々、不満であった。
雨の日は俺の家で、と言ったけど。
普段の日も時間があったら寄っていってくれてもいいのに、と思っている。
思い切ってイルカに言ってみた。



「イルカ先生」
もう分かれ道に来ていた。
「あのですね・・・」
「はい?」
イルカに断られたら、どうしようと思いつつも言わずにはいられない。
「今日は、まだ時間も早いですし・・・」
「はい」
「この後、イルカ先生が何も予定がないなら・・・」
「予定は特にありませんが?」
「じゃあ!」
カカシは、ぐぐっとイルカの方へと身を乗り出した。
「だったら!」
「カ、カシ先生・・・」
乗り出しすぎて、額と額がぶつかりそうになっている。
それを避けようとしたイルカが身を引くのに、妙な焦りを感じてしまう。
「俺の家に、ちょっとだけ寄って行きません?」
これだけ言うのに、ひどく時間が掛かってしまった。
「カカシ先生の、家?」
「そうです、遊びに来てください」
やっと言いたいことを言えた。
「遊びに、ですか・・・」
「はい、ぜひ!」
誘われたイルカは躊躇っているようで。
浮かない顔だ。
「偶にはいいじゃないですか」
迷っていると思われるイルカの背をカカシは押した。



結局、イルカはカカシの家に来ていた。
来ていた、というよりは連れて来られたと言った方が正しいか。
「どうぞ、イルカ先生」
「お邪魔します・・・」
イルカが部屋を見回して、おずおずと入ってくる。
「この前は玄関先まで送ってくれたんですよね」
その節はありがとうございました、と遅まきながら再度、カカシは礼を述べた。
「部屋の中に入るのは初めてですよね」
「あ、はい」
部屋の入ってきたイルカは、どこに座ったらよいのか、ときょろきょろしている。
「椅子がないのでベッドに腰掛けるかしてください」
飲み物を出そうと冷蔵庫を開けたカカシはイルカを振り返った。
「イルカ先生、ビールあるけど、お茶の方がいい?」
「・・・何でもいいです」
「了解」
冷蔵庫から冷えている茶を取り出し、二人分をコップに注ぐ。
飲み物を持って戻るとイルカがベッドを背もたれにして、床に座っていた。
「ベッドに腰掛けてよかったのに」
「汚してしまったら申し訳ないので」
イルカに飲み物を渡しながら、カカシもイルカと同じく床に座りベッドを背にする。
肩と肩が触れそうな距離で、並んで座る。
「最近、イルカ先生と、ゆっくり話してないですね」
何となく、カカシは話す。
「俺も里や上忍師の仕事も慣れてきて、任務も受けて忙しくなってきて」
横にいるイルカの顔を見る。
「イルカ先生と会えなかったりすると、すごく寂しいですよ」
「・・・・・・・・・俺もです」
「そう」
にや、とカカシの顔が緩んでしまう。
今のはイルカの本音だろう。
心の底から喜びが込み上げ来る。
ああ、友達がいて良かったなあ。
共感できる人がいるのはいい。
にやにやとするカカシは傍から見ると、不気味であった。



カカシが誘うと、イルカは仕事帰りにカカシの家に来るようになった。
カカシの家で夕飯を食べていくことも度々だ。
イルカと一緒にいると心が安らぐ、とカカシは感じている。
二人でいても窮屈じゃないのだ。
自然な感じがする。
いいよねえ、こういうの。
最初に部屋に来たときと同じく、ベッドに凭れてイルカは座っている。
その横にカカシは並んで座っているのだが、今は肩にイルカの頭が乗っていた。
イルカの目は閉じられて、健やかな寝息が聞こえてくる。
カカシの家が余程、居心地が良いのか、寛いだイルカは眠ってしまっていたのだ。
少し身動きしたくらいではイルカは起きそうにない。
ぐっすりと熟睡していた、安心しきって。
・・・信頼されているってことだよね、これって。
イルカの寝顔を見ているカカシの口元に笑みが浮かぶ。
・・・俺の家で二人きりになると、くっ付いてくるしねえ。
家の外と家の中とではイルカの態度は違う。
誰も見ていない家の中だと、気がつくとイルカはカカシにくっ付いていることが多い。
べったりとはくっ付いてこないが、膝が触れていたり、肩が触れていたり、指先が触れていたり。
話が途切れたても、ただカカシに触れているだけでイルカは満足らしく。
また、寝入っているのも今日だけではない。
ある時は、カカシの足に頭を乗っけて膝枕で寝ていたなんてこともある。
別にイルカが、そんなことをしてもカカシは、ちっとも嫌じゃない。 こんなに懐いてくれるなんて。
寝ているイルカを起こさないように、つやつやとした黒髪の頭を撫でるのが、カカシの趣味になりつつある。
これが友達ってものなのか〜。
しみじみしてしまう。
それとカカシには新たな不満が涌き出ていた。
カカシの家で眠ってしまったイルカは、どんなに時間が遅くとも絶対に泊まったりはしない。
帰るのが億劫だろうから、カカシの家に泊まるように勧めても頑なに固辞する。
自分の家に帰ると言い張る。
そして、帰り間際に不安そうにカカシに尋ねるのだ。
「カカシ先生、俺たち友達ですよね?」
決まってカカシは、こう答えていた。
「俺とイルカ先生は友達ですよ」
それは別れ際の習慣になっていたのであった。




好きじゃなくてもいい、嫌わないで3
好きじゃなくてもいい、嫌わないで5




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