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好きじゃなくてもいい、嫌わないで 2



「乾杯」
グラスを、かちんと合わせて鳴らす。
食事をしに店に入ったのだが、そこは大人同士。
食事の前の一杯だ。
イルカは酒が不得手のようで飲むのを遠慮してきたが、カカシに押し切られて「少しだけなら」と口を付けた。
「こうやって、イルカ先生と酒を飲めるなんて嬉しいですねえ」
カカシは、にこにこと相変わらず機嫌が良い。
余程、イルカといるのが居心地がいいらしい。
「そうですね」
言葉少なにイルカは頷いた。
「俺も嬉しいです・・・」
「いつも、話していただけですから。こうやって、一緒に酒を飲んだりすると一気に親密度が上がった気がします」
イルカは何言わず、微笑んだ。
酒の入ったカカシは珍しく饒舌になっている。
「里に帰ってきて窮屈かと思いきや、イルカ先生と知り合えて生活に潤いが出てきました」
里もいいもんですね、とカカシはしみじみしている。
「俺は殆ど里の外に出たことがないので」
遠くに行ったことが余りありません、と。
「恥ずかしながら中忍になるのも遅かったし、それから教員試験の勉強をしたりして」
暗部の中に身を置いていたカカシとは違う人生を歩んでいる。
生きてきた境遇が違う。
イルカの話すことはカカシにとっては未知の世界だ。
面白い。
「別に、それでもいいじゃないですか」
慰めとも取れるような言葉をカカシは言った。
「人それぞれ、恥じることではないでしょう」
「そう言っていただけると有り難いのですが」
イルカは自嘲気味に笑う。
もしかして、何やらコンプレックスを抱えているのかもしれない。
「まあまあまあ」
しんみりと空気を変えようとした時、ちょうど注文していた食事が来て、その話はそれまでとなってしまった。



食事が粗方済み、酒が入ったグラスの中味もなくなった頃、ほろ酔い加減のイルカが、ぽつりと呟いた。
口が少し軽くなったようで。
「カカシ先生と、ここまで親しくなれるとは思ってもみませんでした」
視線は下に落ちている。
「最初は一人で公園のベンチに座っている俺に話しかけてきて、物好きな人だなあと・・・」
暇なのかなとも思いました、とイルカは語る。
「一回だけかと思ったら、また来るし」
ふっとイルカの顔に笑みが浮かぶ。
「話すだけなのに」
「それがいいんじゃないですか」
イルカの言わんとしている事柄が、いまいち分からなかったがカカシは何かを言わずにはいられなかった。
「話すだけの間柄でも。イルカ先生の傍だと自然な感じで寛げるんですよね」
それは本当のことだ。
顔を上げたイルカはカカシに真っ直ぐな視線を向けてきた。
「俺ですね、今は付き合っている人とか彼女みたいな存在はないんですが」
・・・今は?
カカシの胸がちょっと、どきどきする。
「昔と言っても十代の時ですけど、一度、お付き合いみたいなことがあったですよね・・・」
お付き合いと言ったら女性に決まっている。
イルカは彼女がいたことがあったのだ、一時期だけど。
「初めてだったんですけど相手から告白されて、付き合うことになったんですけど」
ちくり、とカカシの胸に痛みが走った。
どういう類のものかは不明だが。
「でもですねえ、振られたんです、一週間で」
「一週間・・・」
「そうなんです、何でも俺の気持ちが重い、とかで」
ちょっと悲しかったなあ、とイルカはグラスに残っていた酒を飲み干した。
「俺、相手のことを大切にしようと思っていたんですけど、それが裏目に出たのか・・・。別れ際に鬱陶しいとかウザイとか言われて」
かなり手酷い振られ方をしたような感じだ。
「極め付けに、もう俺のことは嫌いになった、他に好きな人が出来たって言われて」
十代の思春期に、そんなことを言われたら、すごく傷つくのは容易に想像できる。
夢に夢見る年頃だ。
ガラスのハートを持っている年頃だ。
初めてのお付き合いで、いきなり振られて酷いことを言われて、イルカは精神がズタボロになったのではなかろうか。
未だに引きずっているのかもしれないし。
傷ついているのかもしれない。
そんなイルカを想像してカカシは胸が痛んだ。
「でも、まあ」
イルカは肩を竦めた。
「一週間なんて付き合ったうちに入りませんよね、考えてみれば」
カカシは何と言ったものやら、と心中複雑であった。
可能であるならば、イルカに酷いことを言った人間に仕返ししてやりたい等と物騒なことを思ってしまっている。
「すみません、カカシ先生」
イルカが伝票を持って立ち上がった。
「湿っぽい話をして」
俺って女々しいやつですね、駄目だなあと言ったイルカの声は明るかったが表情は、どこか暗かった。



店の外に出ると雨は、すっかり上がっていた。
「良かった、雨が止んでいる」
いつの間にか、空は晴れていて星が瞬いていた。
雨が止んだことをカカシは、ちょっぴり残念に思う。
イルカと相合傘が出来ないからだ。
「途中までは一緒に帰りましょ」
「はい」
肩を並べて歩き出す。
「ねえ、イルカ先生」
先ほど、イルカの話を聞いてから考えていたことをカカシは話してみた。
「それから、誰とも付き合っていないんですか?」
「え?ええ、まあ」
それから、とはイルカが十代の頃に振られてからだ。
「・・・好きだから付き合ったということは、嫌いだから別れるということですよね」
一概に総ての男女の別れが、そうだとは限らないが、イルカはそう解釈している。
「嫌われるのが怖いっていうか、辛いっていうか」
「ふーん、なるほどねえ」
「こんなこと話すのはカカシ先生が初めてです」
誰にも話したことはないんです、と言われてカカシの心に優越感が芽生える。
イルカはカカシに対して、心を許しているようだ。
信頼関係が成り立っている。
「だけど」
カカシは、横を歩くイルカをちら見する。
「誰とも付き合いたいとは思わない、でも寂しいんだね、イルカ先生は」
「矛盾してますよね」
イルカは素直に認めた。
「矛盾しているし、自分でも変なヤツだと自覚しています」
「だったさ」
ぽん、とカカシがイルカの肩を叩く。
「俺と友達になりましょう!」
「ともだち?」
イルカが大きく目を見開く。
「カカシ先生と友達・・・ですか」
「そ」
うんうん、とカカシは頷く。
「俺的にはイルカ先生と、もう友達のつもりなんだけど。一応、宣言しておいた方がいいかなって」



イルカと友達。
素敵な響きだ。
「友達だったら寂しいときに一緒にいても、おかしくないでしょ」
「それはまあ」
「友達だったら別れるという選択肢もないし」
「・・・そうですが」
「友達だったら喧嘩しても嫌いになることはないもの」
喧嘩したら仲直りすればいいだけのこと。
「俺も友達が欲しいし」
イルカみたいに気の合う人が友達だったら、こんな嬉しいことはない。
「それに」とカカシはイルカの顔を覗き込んだ。
「もしも、イルカ先生に付き合おうって人が現れたら」
にこっと笑う。
「その人がイルカ先生に相応しい人かどうか、俺が見極めてあげます」
友達だから、とカカシは強調する。
イルカが傷つくようなことにはなってほしくない。
「・・・でも」
カカシの提案にイルカは乗り気ではないようだ。
「カカシ先生と俺とで、友人関係が成り立つでしょうか?」
心配そうな顔をしている。
そんなイルカを勇気付けるようにカカシは、ぎゅっとイルカの手を握った。
友達なら手を握るのなんて、当たり前だ。
「成り立ちますよ、誰の許可も要りません」
もう雨の日も一人で残業なんてしないで、お互いの部屋で過ごすことも可能だ。
「無駄に残業なんてしなくもいいんですよ」
寂しくなったら俺のところへ来ればいいんです。
イルカに、もう一人でいるのが寂しいなんて言わせるつもりはない。
自分に頼ってくれば言いだけの話だ。
なんたって友達なんだから。
「はい」
イルカは眩しそうに何回か瞬きをしてから、嬉しそうに目を細めた。
「じゃあ、これからもよろしくお願いします、カカシ先生」
「こちらこそ、イルカ先生」
こうしてカカシとイルカの本格的な友達付き合いは始まった。
だが、後々・・・。
『友達』という言葉の呪縛がカカシに重石と枷となって圧し掛かってくるとは。
この時は想像だにしていなかったのであった。




好きじゃなくてもいい、嫌わないで1
好きじゃなくてもいい、嫌わないで3




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