それはいわゆる一つの恋愛感情 9
「イルカさん、すみません」
深夜の火影室でイルカはシズネに何回も謝られていた
シズネは五代目火影の付き人役のくの一である
「そんなに気になさらないでください」
イルカは、ちっとも嫌な顔を見せずに手を振った
シズネの苦労を知っているだけに仕事の手伝いを頼まれたら断れないし、見過ごせない
「こんなにたくさん仕事があるんですからシズネさん、一人では大変です」
今夜はシズネを補佐しているコテツもイズモも任務に出ている
「イルカさん・・・」
じーんとシズネは感銘を受ける
「皆でやった方が早く終わりますよ、俺でよかったらいつでも声を掛けてください」
「ありがとう、イルカさん」
何十回目かのありがとうをシズネはイルカに告げる
「本当にイルカさんは良い人ですね」
シズネは心の底から、そう言った
そんなシズネとイルカを、ちらちらと見ながら綱手は黙々と仕事をしていた
さぼっていたらシズネの雷が落ちる
手を動かしながら綱手は頭の片隅で、やっぱり余計なことを考えていた
・・・イルカって本当、いいやつだよなあ
仕事は出来るし人間が出来ているっていうか
誰にでも好感を持たれる人物であることは確かで、そんな人間は貴重である
カカシの言っていたことも解る気がした
魅了要素満載とか深層意識で好きだったとか
そういや、と綱手は、ふと思った
何でイルカはカカシのことが好きなんだろう?
恋愛感情でイルカがカカシのことが好きだという見立ては間違いないのだが
カカシのどこが好きなんだ、イルカは
軽く疑問が沸いたのであった
山のようにあった火影室の仕事も一段落ついた頃、外は明るくなっていた
「ああ、朝ですね」
目を細めて窓の外の朝日を眩しそうにイルカは見る
顔には少しばかり疲労の色が浮かんでいた
「もう朝ですか・・・」
疲れた溜め息をシズネは吐き出す
「あー、つっかれた〜」
綱手は仕事の目処が、ようやくついたので椅子に座ったまま、ぐーっと伸びをした
「やっと終わったよ」
「でも、これから今日の仕事が始まりますよ」
シズネが素早く釘を刺す
「終わったのは昨日の仕事なんですから」
「あー、はいはい」
綱手は適当に返事をしてからシズネに言った
「そういえば、シズネ」
「はい、綱手さま」
「ほら、あれが一つ残ってたろ?あれをイルカにおやりよ」
「あれ?」
言われたシズネが首を傾げた
「薬剤開発部の試作品で、ほぼ完成している飲めば立ち所に疲労回復をする薬だよ」
「ああ!」
言われてシズネは、やっと分かったようだ
ぽんと手を打ち「あれですね!」と言っている
「そうそう」
綱手は頷く
「昨日からイルカに仕事手伝ってもらっているからな」
さすがに、いつもいつも管轄外の仕事を手伝わせているイルカに綱手も悪いと思っているらしい
もしかしたらカカシのことも頭の隅にあったのだろう
任務から帰ってきたカカシがイルカに、ちょっかい出すのは容易に予想できる
「え、そんな・・・」
イルカは首を横に振った
「いいですよ、俺は平気なので火影さまかシズネさんが飲んでください」
丁重に断ってくる
「そんなこと言わずに、どうぞ飲んでください」
火影室に戸棚に仕舞ってあった、似たような何本かの小瓶のうちの一つを手にとってシズネはイルカに差し出した
小瓶には透明な液体が入っている
「これ、よく効くですよ、私も飲んでみましたが味も悪くありません」
「はあ」
戸惑いながらもイルカは疲労回復するという薬を受け取ってしまう
「よく効くので任務の時に使用できるように、本格的に実用化が勧められているんです」
医療によく通じ、薬のことに詳しいシズネが言うのだから問題はないに違いない
綱手も勧めるくらいだから
「イルカさんには常日頃、仕事を手伝ってもらっているので」
少しばかりの感謝の気持ちです、と言われるとイルカも断ることができなかった
「じゃあ、有難く頂戴します」
小瓶の蓋を開け早速、口を付ける
小瓶に入っている液体からは甘い匂いがした
「これ、甘い香りがしますね」
「え?」
「いただきます」
ぐっと口をつけてイルカは一気に飲み干した
それと同時に綱手とシズネが声が上がる
「ちょっと待って、イルカさん!」
「待てイルカ、それは・・・」
綱手とシズネの声がした時には小瓶の中は、既に空になっていた
「はー、美味しかったです」
イルカが薬の感想を述べる
小瓶の液体は甘くて、とろりとしていた
「あれ?」
小瓶の液体を飲み干したイルカは綱手とシズネが固まっているのに気がついた
二人とも複雑な表情をしている
「どうかなさったんですか、お二人とも」
「あのう、イルカさん」
シズネが体を丸めて縮こまるようにして、ばっと頭を下げてきた
「ごめんなさい!」
いきなり謝ってくる
「薬を間違えてしまいました!」
「・・・え」
「疲労回復の薬は甘い匂いはしないんです」
「じゃあ、なんの・・・」
薬ですか?と問い質そうとしたイルカは、ぽっと体が熱くなるのを感じた
体の一部分、頭と腰の辺りだ
真実を訊く前に答えは出た
ぼおんと白い煙が上がり、それが消えた時イルカの体の一部分に変化が現れていたのだ
イルカの体の一部分・・・
頭には犬の耳、腰より少し下の部分には犬の尻尾が生えていたのであった
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