それはいわゆる一つの恋愛感情 5
薄っすらと目を開けたイルカはカカシを見る
イルカに見つめられてカカシは少し、どきどきしてしまう
あながち紅の言った恋の予言も嘘ではない、かもしれないと思い始めていた
イルカは言った
「アスマ先生・・・」
その一言でカカシは一瞬で頭に血が上ってしまう
てっきり、カカシの名を呼んでくれると思っていたのに
イルカの口から出たのは違う人間の名前だったから
「違います!」
酒の勢いも手伝ってカカシは強く否定した
「アスマじゃありません、俺です」
その言葉に、ぱっちりとイルカの目が見開く
カカシを凝視している
「カカシです、カカシ」
「カ、カシさん」
カカシの肩から頭を起こしたイルカは、ようやく事態が飲み込めたようだった
自分の隣にカカシがいて、そのカカシの肩に頭を預けて寝ていたことが分かったのだ
「え、なんで」
確か、自分の隣にはアスマ先生がいたはずだとイルカは眠る前の記憶を探るように何度も目を瞬かせる
「本当にカカシさん?」
「そうですよ」
焦れたカカシはイルカの手を取って自分の体に触れさせた
「ほら、本物でしょう」
何度も自分の体に触れさせてイルカの手が急に、ぶるぶると震えだしたのにカカシは気がついた
顔は俯いてしまっている
「どうしたの、イルカ先生?」
顔を覗き込むと真っ赤になっていた
とても動揺しているように思える
「あの、俺」
イルカは慌てて立ち上がろうとした
カカシの傍から離れようとするようにだ
「申し訳ないんですが今日は帰らせて・・・」
いただきます、と言いかけたイルカは、しかし立ち上がることができなかった
単純なことなのだが正座していた足が痺れていたのだ
「あっ」と声を上げたイルカは痺れた足では立ち上がることが出来ず、
そのままバランスを崩して呆気なく崩れ落ちた
よりにもよってカカシの方へと
どさっとイルカはカカシの上に落ちていった
中腰の状態でカカシの方へ倒れて縺れるようにして二人は畳みの上へと転がる
座敷であったのが幸いした
イルカはカカシの上へと乗り上げている体勢で、じたばたとしている
「すみませんすみません、すみません」
カカシの上から起き上がろうと、もがいているのだが痺れた足が思うように
動いてくれないらしく何だか泣きそうな顔になっている
対照的にカカシは表情には出ていないものの、妙に嬉しそうな雰囲気を漂わせていた
「あー、俺なら大丈夫ですよー」
もがいているイルカを起き上がらせようと手伝う振りをしながら、
意図的にイルカを抱きとめているのが見え見えだ
それを見ながらアスマと紅は静かに酒を飲んでいた
懸命にも一言も何も言わず
上忍であり、なおかつ、その中でも群を抜くカカシならばイルカが倒れてきたくらいで畳みに転がったりはしない
人、一人を受け止めることなど容易い
カカシの見え見えの行動の意味は何となく察しがついたし、
変に声を掛ければ巻き込まれてしまうこと必死だ
カカシが目覚めたと思われる恋路に
そしてアスマと紅は知っていた
他人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られてしまうことを
ようやっと足の痺れが納まったイルカは再び、帰ろうとしたところをカカシに引き止められてしまった
カカシはイルカの腕を掴んで放そうとしない
実はイルカが自分の方へと倒れこんで来た時から、ずっと腕を掴んでいたのだ
「俺、帰りたいんです」
か細い声で言うイルカを見てカカシは、にっこりと笑う
その笑顔は有無を言わせないような迫力があった
「いいじゃないですか、こうして会ったのも何かの縁ですし」
いっけん、穏やかに言葉を紡いでいく
「俺、前からイルカ先生と話してみたかったんです」
良い人の顔をしている
「これを機にイルカ先生と、もっと仲良くなれたらと思いますし」
ここまでカカシの言うことを黙って聞いていたアスマと紅は、やっぱり黙っていた
黙って酒を飲み干している
ペースは速くなっていた
そんなアスマと紅を余所にカカシはイルカに熱心に言っていた
「大丈夫ですよ」
安心させるようにイルカの手を握る
「イルカ先生が酔っ払っても、ちゃああんと俺がイルカ先生の家までお送りしますから」
とうとう、そこでアスマと紅は飲んでいた酒で派手にむせた
耐えられなかったのである
カカシの良い人ぶりに
もちろんカカシに、ぎろりと睨まれたのであった
それはいわゆる一つの恋愛感情 4
それはいわゆる一つの恋愛感情 6
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