AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する
ハイスペック専用サーバー
39周年!BIGサンクスキャンペーン


Slow Starter After



気がつけば、いつもイルカの傍にカカシがいるようになっていた。
それは、まるで最初からカカシとイルカが二人でいることが自然なことのように、だ。



そのことに戸惑っていたイルカであったが、逆に周囲の方が、それを当たり前のように受け入れていた。
「だって、そうだと思っていたからな。」
イルカは受付けに入った時に同僚に、そう言われた。
受付け所に人が途切れた時だ。
その同僚とは、かつて数年前にカカシの部隊の応援でトラップを仕掛けに行ったことのあり、尚且つ、この前深夜の受付けでカカシとイルカが抱き合っているのを目撃した人間である。
「そ、そうなのか?」
平静さを保つのに失敗してしまったがイルカは聞く。
「何で、そう思ったんだよ?」
「えー、だってさー。」
提出された報告書の束を、とんとんと机で揃えながら同僚は言った。
「イルカ、時々、俺に、はたけ上忍のこと話していたじゃないか。」
「・・・そうだっけ?」
「そうだよ。」
同僚は呆れたように言ってイルカを見た。



「元気かなあとか、何してるかなあとか多愛ないことばっかりだったけど、その時のイルカ、すっげー嬉しそうな顔だったぜ。」
う、とイルカは言葉に詰まった。
そんな顔していたのか、俺は。
「でさ。」と同僚は話を続けた。
「心配事があると何かと口元触っていたのを、しょっちゅう見たしな。」
「口元って。」
「イルカが、はたけ上忍にキスされたところだよ。」
はっきり言われてイルカの顔は、くっきりと赤くなった。
「キ、キス、だなんて、あれは、その。」
そういえば、あのトラップの任務の帰りしなにカカシにお呪いと称してキスをしてもらったのを、この同僚は、ばっちり見ていたのだ。
イルカは特に深く考えもしなかったが、そういうことなのだ。



「イルカが皆の前でキスを強請っても、それに応えるなんて、はたけ上忍もイルカのこと大切に思っているんだなあ、って男らしさを感じたよ。」
「そ、そう・・・。」
なんとなく、ががーんと打ちのめされてイルカは肩を落とした。
子供の頃の俺ってすげーな、無敵じゃん。



ちょうど、その時に受付け所に誰かが入ってきて話しは中断された。
「これ、頼む。」
「はい。」とイルカは報告書を受け取る。
顔を上げて相手を見ると、嘗て深夜の受付け所でイルカに迫ってきた上忍であった。
あの時のことが思い出されて、イルカの体は僅かに強張る。
それでも、声も手も震えず報告書のチェックを終えると、なんとか笑みを浮かべて「不備はありません。大丈夫です。」と言うことができた。



「いつかの夜は。」と、その上忍は、ぽつりと言った。
「本当に済まなかったな。」
「いえ・・・。」
上忍に照れくさそうに呟かれる。
「カカシとのこと聞いたが。・・・・・・好きな人が幸せだったら、それでいいんだ、俺は。」
くるりと背を向けられた。
「それだけだ。」
そして、その上忍は足早に受付け所から出て行ってしまった。



それを見送りながらイルカは思った。
人から向けられる好意を、どう受け取ったらいいか分からなかったけど、素直に受け取れば良かったんだ。
好意に対して、感謝の気持ちを表せばいいだけだったんだな。
なのに、嫌われることを恐れて逃げていた。


カカシが変わらない気持ちもあると教えてくれて、イルカのことを好きだと言ってくれた。
いつまでも。


ごめんなさい、ありがとう、とイルカは行ってしまった、さっきの上忍に心の中でお詫びと感謝の気持ちを送った。
そしてカカシに対しても、もう少し素直になろうと思う。



「お願いします。」
次の報告書が提出された。
カカシであった。
「はい。」と受け取り、報告書に目を通していたイルカだが、頭上から優しい眼差しが降り注がれるのを感じる。
いつも、カカシは優しい。
「大丈夫です、報告書に不備はありません。」
「分かりました。ありがとう。」
カカシはイルカに微笑むと「じゃ、いつもの所で待っていますから。」と言い残して受付け所を去って行った。
いつもの所でカカシは、イルカの仕事が終わるのを待っていてくれるのだ。
そんなカカシに感謝しながらイルカは受付けの仕事を続け、終了時間になると手早く引継ぎをして受付け所を急ぎ出る。
カカシが待っている場所まで一目散に駆けて行く。



「そんなに急がなくていいのに。」
笑ってカカシが言うがイルカは息を整えながら首を振った。
「だって、一秒でも長くカカシさんと一緒にいたいんです、一緒にいられる時は。」
その言葉にカカシは目を細めて、手を差し出した。
「帰ろうか。」
「はい。」
素直にイルカは手を繋ぐ。
「ねえ、カカシさん。」
「何です、イルカ先生。」
時折、カカシはイルカのことを、イルカ先生と呼ぶ。
イルカはアカデミーの先生でもあるからだ。



「あのですね。」
握った手に、ぎゅっと力を込めながらイルカは言った。
「家に帰ったら、お呪い、してほしいんですけど。」
ちょっぴり声が震える。
「お呪いって、あの?」
「あの。・・・でも、今度は。」
ごくり、とイルカは緊張で唾を飲む。
「今度は、ここにしてほしいんです。」
自分の唇を指差した。
有りのまま、自分の気持ちを表すと言うのは難しい。
カカシの全部の動きが止まった。
イルカを見ている目は、ぴくりとも動かない。
「・・・駄目ですか?」
急速に不安と心配に襲われる。
こんなこと言ったら、いけなかっただろうか。



「俺、カカシさんが・・・。」
好き、と言おうとしたところへカカシが突然「わーっ。」と大声を出した。
「ちょっと待ったああ。」
繋いでいた手を強く引っ張られた。
ぐいぐいと手を引かれて家路を急がされる。
「カカシさん?」
「続きは家で二人きりのところでしたい!」
「え、と。じゃ、お呪いは駄目じゃないんですね?」
引っ張られながらも確認するとカカシは、ぶんぶんと頷いている。
「駄目なわけないでしょうが。寧ろ、どんと来い!です。」
「よかった。」
イルカは、ほっとして笑顔になる。



「俺たちのファーストキスですよね。」
嬉しさの余り、普段は言わないような恥ずかしい単語を口にするとカカシの動きが一瞬だけ止まった。
「あ、あ、当たり前です。」
何故か、カカシは少しだけ動揺したようだ。
「ファーストキスに決まっています!」


二人の家が見えてきた。
カカシの家である。
あの日から、カカシに告白された日から、二人は一緒に住んでいた。
任務や仕事は別として、片時も離れず一緒である。


恋人としての二人の歩みは遅いけれども、でも、それでも。
カカシとイルカ、二人はとても幸せだった。




Slow Starter19
The Three1










text top
top