Slow Starter19
「でも、昨夜、すごく大事なことを聞いたような気がするんです。」
イルカは呆然としているカカシに告げた。
「それを聞いて、とても胸があったかくなって、久しぶりに安心して眠れたんです。」
「そ、そう。」
カカシは、もう一度イルカに告白しなければいけないのか。
なんだか、それは間が抜けている。
とりあえず、カカシは順を追って聞いていくことにした。
聞きながら事柄を整理すれば、イルカは昨夜のことを思い出すかもしれない。
「あのさあ、イルカ。」
さっきは思い出すなと言ったばかりなのに、こんなことを聞くのは気が引けたが聞いてみた。
「イルカは誰かに、酷いことされたことがあるの?」
イルカは黙って首を横に振った。
ただ、言わないだけかもしれないが。
「じゃあ、ああいうのは昨日が初めてなの?」
また、黙って頷いた。
「じゃあ、じゃあさ。」
カカシは、どきどきとしながら聞く。
昨日、告白の前に聞いてみたかったことを、どさくさに紛れて聞いてしまおうと思ったのだ。
「イルカは、誰か好きな人がいる?」
「好きな人・・・。」
「うん。家族とか友達とかの好きじゃない、好きな人のことだよ。」
イルカは黙って目を伏せて、そのまま、じっと考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「カカシさんの言っているのは、多分、恋愛対象としての好きな人、のことですよね?」
「そうだよ。」
「恋愛対象かどうかは分からないのですが・・・。」
一旦、イルカは言葉を切る。
「すごく気になる人がいて、その人が傍にいてくれると安心して。最初に会った時から、いい人だなあと思っていて、それで。」
「それで?」
カカシは先を促した。
先を早く聞きたくて、気が急いてくる。
「その人に最初に会ったのは、もう何年も前で。年下で子供みたいな自分にも優しくしてくれて、それから大分、時が経つのに未だに忘れられなくて、自分でもおかしいなと思うんです。」
「なんで?」
「だって。」とイルカは顔を上げてカカシを見た。
その黒い目にはカカシが映っている。
「だって、その人は男性で、俺とは同性だし。」
イルカの目は、また伏せられた。
同性の人のことを忘れらないなんて変でしょう、と言う小さな呟きが聞こえる。
「イルカ。」
ベッドの上に置かれたイルカの手にカカシは、そっと自分の手を重ねた。
イルカの手は微かに震えている。
「二度目に会った時、任務でミスした俺の看病してくれて。ああ、やっぱり優しい人なんだって思って。」
カカシの手が重なっていない、もう片方の手の指でイルカは自分の口元の触れた。
「会えない時も、その人がしてくれたお呪いに触れると。」
かつて、そこにカカシはお呪いと称してキスをしたのだ。
「元気になれました。優しい、その人を思い出すと一人でも大丈夫だったんです。」
カカシの手の中に包まれていたイルカの手が、ぎゅっと拳に握られた。
「そしたら何年か過ぎて、その人が俺の前に現れました。すごく、身近に。」
頼りなくイルカの肩が揺れて、話す声が細くなる。
「びっくりして、本当に驚いて、でも、また会えたことが嬉しくて。」
なのに、とイルカの声は益々、か細くなった。
「その人、すごい人だったんです。俺、噂とか疎くて、周りがその人の武勇伝や逸話を話して、それを聞く度に、その人に、もう近寄っちゃいけないって自分に何度も言い聞かせました。」
だって、その優しい人の迷惑になりたくなかったんです、と。
「ねえ、イルカ。」
カカシの家のベッドの上で起き上がって、イルカの横に並んで座っていたカカシはイルカを両肩を掴んで自分の方を向かせた。
イルカの目は不安そうにカカシを見ている。
それを安心させたくてカカシは穏やかに笑いかけた。
「俺、思うんだけど、イルカの言っている『その人』も同じ気持ちなんじゃないのかなあ。」
「え?」
目を大きく見開いてイルカはカカシを凝視する。
イルカの言っている『その人』がカカシには、とっくに見当がついていた。
自分のことだと。
「実はね、俺、昨日、イルカの告白したんだ。」
「こくはく・・・。」
「そう。」
カカシはイルカを魅了するように微笑んだ。
「初めてイルカに会って、それから、ずっと好きだって。この好きだっていう気持ちは変わらないって。」
改めてカカシは告白した。
「俺、イルカのことが好きだよ。今までも、これからも、いつまでも。」
イルカの両肩を掴んでいた手で自分の胸の中に引き寄せる。
「イルカの言っている『その人』って俺のことでしょう。」
絶対の自信を持ってカカシは言った。
「イルカは俺のことが好きで、俺もイルカのことが好き。」
相思相愛だね、と昨夜の台詞を、そのまま告げる。
すると腕の中のイルカの体の体温が一気に上昇した。
イルカの心臓の鼓動も早くなる。
カカシに抱きしめられたイルカの、くぐもった声が聞こえた。
「昨日の俺の夢の中でカカシさんが言ったことと、同じ、だ。」
「夢じゃないよ。」
カカシの家に帰って来た時イルカは眠っていたので、どこからか夢だと思っていたらしい。
「イルカが夢だと思っていること全部、現実で俺が言ったことだから。本当のことだからね。」
「カカシさん。」
「イルカ、大好きだよ。」
全身で愛を伝えようとカカシは愛しさを最大限に込めてイルカを抱きしめる。
初めて会って、ここまで来るのに長く時間が掛かってしまったが、その時間さえも愛しく、これから二人で過ごせる時間を想うと嬉しさが込み上げてくる。
イルカの方はカカシのことを好きだと自覚するまで、今しばらく時間が掛かりそうだけど、それでも、その時間も楽しいものに違いない。
カカシとイルカは、やっと恋人としてのスタートラインに立ったところなのだ。
お待ち兼ねの時間はこれからで、胸を甘く時めかせる恋人たちの時間が待っているのに違いなかった。
終わり
Slow Starter18
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