Slow Starter14
イルカは忍服ではなく、比較的な楽な服装で片手に何かを持っていた。
髪も珍しく下ろしている。
雰囲気も昼間に会った時とは違い、幼く、どこか頼りなく感じられた。
「カカシさん?」
もう一度、名を呼ばれる。
「どうしてここに?今は飲み会のはずじゃ。」と不思議そうに聞かれた。
「どうしてって。」
一足飛びにイルカの横に近寄ってカカシは逆に聞いた。
「イルカこそ、背中の傷ってなによ?」
目を、ぱちくりさせるイルカにカカシは問い詰める。
「なんで、昼間、会った時に言ってくれなかったの。心配するじゃない。」
「えと、どうして知ってるんでしょうか?」
イルカが至極真っ当な質問をしてきた。
「俺、一部の人間にしか言ってないのに。」
「それは、さっき、飲み会で聞いたから。」
隠すでもなくカカシは正直に言った。
「イルカが、今日の飲み会に来るって言っていたのに来ないから心配して、近くにいたイルカの知り合いに聞いたの。」
正確には聞いたのはアスマだったが。
「そうでしたか。」
「で、傷はどうなの?」
イルカの今の服装は、少し大きい目の服で、首から下に巻かれている包帯や、袖口から手首に巻かれている包帯が暗闇の中で白く輝き、よく見えた。
楽な格好をしているのは痛む傷に触れないようにか、傷を締め付けないようにしているのだろうか。
心配そうなカカシの顔にイルカは微笑んだ。
「大したことはないんです。」
「本当?」
その割には声は弱弱しく元気がない。
それでも心配そうなカカシだったが、イルカが歩き始めたので連れ立って横に並び歩き始めた。
「はい。」と頷いて、イルカは説明してくれる。
「ほんの少し傷が開いただけなのに出血が思ったよりあって、それで病院に行ったんです。そしたら、医者から今日は家で安静にするように言われて。」
手に持っていた袋を目の高さまで上げてみせた。
「今日は飲み会で、夕飯食べれると思っていたら帰宅する羽目になって、帰って冷蔵庫見たら何もないから買出しに出たところだったんです。」
「そう。」
イルカの話を聞いて、なんとなくカカシは安心した。
そして真っ暗な道だったがイルカと肩を並べて二人だけでいる。
自分が望んでいたように、ゆっくりと話ができることにカカシは満足した。
暫く沈黙が落ちてイルカが思い出したように、ぽつりと言った。
「そういえばカカシさんて、すごいんですね。」
「え?」
「すごい人なんですね、カカシさん。」
ちょうど外灯のある場所に来ていて、イルカを見れば俯いている。
下ろした髪がイルカの顔を隠して表情が窺い知れない。
辛うじて、髪の隙間から見えた包帯の巻かれていない首元が、やけに青白かった。
「俺、カカシさんの戦歴とか噂とか全然知らなくて。そういうの疎いから。今日、周りがカカシさんのこと、たくさん話していて。」
はあ、とイルカから小さく息が漏れた。
「暗部にいたって聞きましたし、数々の戦場でも活躍されて、それで・・・。」
「あのね、それはね。」
思いつめているようなイルカにカカシは慌てて言い繕おうとした。
それは一刻も早く里に帰ってイルカに会うためだけに上層部にアピールして頑張っていただけで、つまり下心満載だったんだよ、までは言おうか迷ったが、その前にイルカが言葉を発した。
「もう、俺、軽々しく『カカシさん』なんて呼んじゃいけませんよね。」
顔を上げたイルカはカカシを真っ直ぐ見ると、澄んだ目ではっきりと言った。
「はたけ上忍て呼ばないと。」
「それって。」
「中忍の俺が、カカシさんって呼んだら、おかしいですから。」
そして視線を逸らし唇と強く噛んだイルカが一礼して、くるりと踵を返した。
「ここで失礼します。」
「ちょっと待ってよ!」
なんだ、それ?
なんだかイルカに突き放されたような感じを受けたカカシは、イルカの手首を強く掴んで引き止めた。
背中を向けてしまったイルカを自分の方に振り向かせる。
「周りが俺のこと、どう言ったのか知らないけど、それは俺とイルカに全く関係ないでしょうが!」
腹も立ってくる。
なんのために自分は里に帰って来たのか。
イルカを距離を置くためではない。
寧ろ、近づきたくて傍にいたくて帰って来たのに。
なのに自分の近くにイルカがいるのに、それが遠くなるなんて絶対に嫌だ。
まだ、自分の気持ちは伝えていないがイルカに、そんなことを言われるなんて甚だ遺憾だった。
「ねえ、イルカ。」
カカシは掴んでいたイルカの手首を引き寄せて、ぎゅっと力を込めて自分の腕の中に引き込んだ。
「イルカは俺と会えて嬉しくないの?俺はイルカに会いたくて里に帰って来たってのに。」
思いが伝われ、とカカシはイルカの背中に手を回し、全身でイルカを感じられるように、できるだけぴったりとくっ付いた。
イルカの体温をカカシは感じて、心臓が高鳴る。
好きな人を抱きしめていることに大いなる喜びを感じた。
思いのままカカシは勢いに乗じて告白してしまおうとする。
「俺、実はさ、あのう。聞いて驚かないでほしいんだけど、最初に会ってからイルカのこと、その、す・・・。」
肝心要のことを言おうとした時、ぱさっと何かが地面に落ちた。
「・・・イルカ?」
それはイルカが手に持っていた袋だ。
「イルカ。」
腕の中のイルカを見れば瞼は閉じられていて、支えを失った首が、くたりと横に力なく垂れた。
体の力が抜けており手足が、だらりと下がっている。
イルカの顔は完全に血の気を失っていた。
「イルカ!」
驚いたカカシが軽く揺すっても起きる気配はない。
イルカの背に回した手の平に滑りを感じて見てみると、赤いものが付着していた。
血だ。
イルカの背中の傷は、実は大したことあって痛みも、それなりにあったのかもしれない。
本人は大したことがないと言っていたが、実際は違っていたのだろう。
そこへカカシが、ぎゅうぎゅうと力を込めて抱きしめたもんだから閉じた傷口が再び開いて、その痛みや出血でイルカは気を失ってしまったのかもしれない。
告白に夢中になっていたのでカカシも力の加減が上手くいかなかった。
「やばい・・・。」
真っ青になったカカシはイルカを腕に抱え上げると即効、忍犬を呼び出して、現在いる場所を確認させる。
病院よりはカカシの家の方が近いと判明したので、そちらへ全力で向かうことにした。
自分の家にも医療用具や治療器具は備えてある。
「ごめんね、イルカ。」
目を固く閉じているイルカにカカシは呟いたのだった。
Slow Starter13
Slow Starter15
text top
top