Slow Starter12
カカシは何年かぶりに木の葉の里に帰って来ることができた。
下忍の上忍師として任命されたのだ。
「ふふふふ、やったね。」
外回りの任務を精力的な振りして数多くこなして、気乗りのしない部隊の隊長なんてやったりして、頑張っていることをアピールした甲斐があった。
そして隊長なんて地位は色んな情報も手に入るし好都合でもあったので、一年に一回くらいはイルカの名を聞くことができた。
割と、ちゃかりとしていたカカシである。
そして、やっと里に帰れることになったのだ。
カカシは一刻も早く木の葉の里に帰りたかった。
逢いたい人がいたから、好きな人に逢いたかったからだ。
「アスマ、里って疲れるね。」
上忍の控え室でカカシは疲れたようにアスマに話し掛けた。
「人が多すぎだよ。」
アスマは煙草の煙を、ふわりと吐き出す。
「それが里ってもんだろう。しかも里の中枢にいるんだから人が一番多くて当たり前だ。」
「でもねえ。」
溜め息混じりにカカシは訴えた。
「戦場とは、人との付き合い方がかなり違うし、別の意味で疲れるんだよねえ。」
愚痴を言っている。
ははは、とアスマは豪快に笑った。
「その、里にイルカがいるんだろ?いいじゃねえか。」
「まあね。」
ふっとカカシの顔が綻んだ。
「今日も上忍師とかアカデミー職員とか受付け職員とか混合の懇親会だかって、飲み会があって欠席しようと思っていたんだけど、もしかしてイルカが来るかもしれないから出ようかなと思ってさ。」
「へええ。」
珍しいものでも見るようにアスマはカカシを見た。
「イルカ効果って、すげえな。カカシが、やる気を出したとこなんて初めて見たぜ。」
「失礼な。」
カカシは、じろりとアスマを睨む。
「悪い悪い。」とアスマは笑ってカカシを往なして聞いた。
「で、肝心のイルカには会えたのか?」
「いや、まだ。」とカカシは首を横に振る。
「なんだか事務とか雑務とかの手続きで忙しくてねえ。会う暇がなくて。これから指導する下忍の子を受け持っていたアカデミーの先生と会って引継ぎの資料を貰ったら、漸く、時間ができるから探しに行くつもり。」
「そうかそうか。」
何かを知っているのかアスマが面白そうに、にやっとする。
「まああ、ゆっくり会ってこいよ。」
カカシは、そこでアスマが何故、そんな顔をするのか分からなかったが「じゃあねえ。」と手を振ると控え室を出て行った。
意外にも早くカカシはイルカに再会することができた。
場所はアカデミーの一室だ。
下忍の子供達がアカデミーで教わっていた先生はイルカだったのだ。
盲点だった。
イルカはカカシに会うなりカカシの顔もよく確認せずに、ばっと頭を下げて挨拶をしてくる。
下げた瞬間の顔が、ほんのり赤く、どうやら、ものすごく緊張しているようだった。
「初めまして。私は海野イルカと申します。」
そして頭を下げたまま、右手を差し出してきた。
「どうぞ、よろしくお願いします。」
差し出された手は少し骨ばって大きくなっており、小さな子供だったイルカの面影は薄い。
下げられた頭には、天辺で結った黒髪が揺れている。
細い項が、よく見えた。
なんとなくカカシは、もやっとしてしまう。
イルカは初対面の人間には、いつもこうなのだろうか。
無防備すぎるじゃないか。
おまけに、自分に気がつかないなんて酷いなあ、と。
「初めまして。」
カカシは手を握り返したが、その瞬間、ぐっとイルカの手を引っ張って自分の引き寄せた。
なんの構えもしていなかったイルカは容易くカカシの胸に飛び込んでくる。
「わっ!な、なに?」
「初めまして、じゃないでしょう?俺のこと忘れたの?」
「え・・・。」
カカシの胸の中から自分を見上げてきたイルカは、びっくりしたように目を見開いた。
「も、もしかして、カカシさん?」
「そうだ〜よ。」
自分を見て、自然と浮かんだイルカの笑顔にカカシも笑顔になる。
「帰って来たよ、俺。」
「お帰りなさい、カカシさん。・・・ってことは、ナルトたちの上忍師の方ってカカシさん。」
「そうなるね。」
「じゃあ、高名な凄腕の上忍ってカカシさんのことだったんですね。」
自分の前評判を聞いてカカシは苦笑いをする。
「そんな風に俺、言われてんの?」
「ええ。急いでいて上忍師の方の名前を聞くの、俺、忘れていましたが、火影様が『一応、高名な上忍で、凄腕だから安心しろ。』って仰っていらしてものですから。」
黒い瞳でカカシを見るイルカは、ちっとも変わっていなかった。
無邪気に笑っている。
イルカに会えて、イルカを自分の腕に抱きしめることができて、カカシの中に言葉では現せないような満たされた充足感のようなものが生まれた。
このために自分は里に帰って来たのだと実感する。
ああ、幸せだと思ったのだが、その幸せは、するりとカカシの腕から抜け出した。
「カカシさん、上忍師の方にお渡しする下忍の子たちの引継ぎの資料です。」
イルカは手に持っていた分厚い書類の束をカカシに渡す。
「分からないことがあったら何でも俺に聞いてください。」
にっこり笑ったイルカは、ぺこりと頭を下げた。
「それでは失礼します。」
「えっ、もう?」
驚くカカシにイルカは「すみません。」と申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「仕事が立て込んでいるもので。今度、ゆっくりお話しの機会があればと思います。」
「う、うん。そうだね。」
落胆を隠し切れないカカシは、そうだ、と聞いてみた。
「今夜の懇親会ってやつにイルカは来るの?」
「あ、はい。出席する予定です。」
それならば、そこでイルカとゆっくり話せばよい、とカカシは考えた。
「それでは。」とイルカはカカシに一礼して行ってしまった。
再会の余韻に浸る暇もないほど、ばたばたとしていて里は騒がしいのか。
これが里なんだなあ、と里に、まだ慣れないカカシは、ぼうっとイルカを見送った。
イルカが行ってしまってから、ふと嗅ぎ慣れた匂いしてカカシは眉を潜める。
微かに血の匂いが漂っていたのだ。
しかもイルカがいたところからだ。
胸騒ぎを感じてカカシはイルカの出て行ってしまった扉を、じっと見つめた。
追いかけようかと迷ったのだが、ここは里である。
滅多なことは起きないとカカシは自分に言い聞かせた。
だが、その夜、イルカは懇親会という名目の飲み会に姿を見せなかった。
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