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Slow Starter10



とくとくとく、と一定のリズムを持った音がする。
聞いたことがある、安心する音だ。
目を閉じたイルカは気持ち良く、その音を聞いていた。
自然、顔に笑顔が浮かぶ。
ああ、大好きなカカシさんの心音だ。
体のどこもかしこもあったかくて誰かに、すっぽりと覆われている。
嬉しくなってイルカは体を寄せた。
このあったかさを失いたくない。
カカシさん、どこにも行かないで、と心から思った。



薄っすらと目を明けると、そこには思ったとおりカカシがいた。
いつかのように、イルカを抱き込んで寝ている。
ああ、夢みたいだ。
そう思って、イルカは再び目を閉じて眠ろうとしたのだが、次の瞬間、ぱっちりと目を開けた。
「カカシさん!」
目の前にいたのは本物のカカシだった。
自分を心配そうに見つめている。
眠そうな目に、やる気のなさが漂っていて、あのカカシに間違いない。
イルカの知っているカカシだ。

「イルカ、起きたの?良かった、解毒が間にあったんだね。」
大きく息を吐き、カカシはイルカの頬に自分の頬を寄せた。
「熱も下がったみたいだ、本当に良かった。」
「熱?」
「イルカ、劇薬を吸い込んだでしょう。手にも被っていたし、処置が大変だったんだよ。」
そう言われれば体は怠く、手には包帯が巻かれていた。
「俺・・・。」
戸惑うイルカにカカシは端的に説明した。
「トラップの最後の仕上げで、イルカはミスちゃったの。それは、もう、どうしようもないけど、とにかく無事で良かった。」
カカシはイルカが目覚めたことで、ほっと胸を撫で下ろした様子だった。



「それはすみません。」
イルカは自分の失敗を思い出して恥ずかしくなったが、それよりも聞きたいことがあった。
「カカシさん、どうしてここにいるんですか?」
「・・・・・・え。俺は最初からいたんだけどね。」
カカシが乾いた笑いを漏らして、ははは、と笑う。
「最初からって。」
「あのね、俺の本名、はたけカカシ。」
「はたけ、カカシ。」
「そう。」
「はたけって隊長の、はたけ上忍と同じ名前?」
「だから、それが俺なんだけど。」
罰が悪そうにカカシは告白した。



「最初に、ここでイルカと見たとき、イルカが目の前にいるのが信じられなくて。次に、ずっとずっと気になっていた背中の傷が目に浮かんで・・・。」
だから手荒なことしちゃった、ごめんね、とカカシはイルカの目を覗き込む。
「背中の傷って、二、三年前のことじゃないですか。」
「うん、だけど、俺、あの時、イルカの背中を写輪眼でコピーしちゃって、目に焼きついて離れなくて・・・。」
「コピー?」

イルカが聞き返すとカカシは、はっとしたように口を噤んで明後日の方向を見た。
「まあ・・・。そ、それは、追々説明するかもしれないし、説明しないかもしれないけれど。」
引き攣った笑みを浮かべたカカシは、話を逸らすようにイルカの肩をぽんぽんと叩いて「喉、渇いたでしょ?」と傍にあった水の入ったカップを手渡してきた。
「あ、解毒がまだ完全じゃないから、この薬も飲んでね。」
「ありがとうございます。」
一緒に手渡された薬を含み、水を飲み干すとイルカは自分のいる場所を見回した。

「ここって、どこですか?」
「ん?俺のテントの中だよ。」
「テントって、隊長の?」
「そう。」
「へええ。」と、これが隊長のテントなんだ〜と物珍しそうにテントの中を見るイルカは、急に体を強張らせると慌てて頭を下げた。
「すみません!」
「何が?」
「だって、俺、中忍なのに隊長のテントにいて不味いじゃないですか。体も快復したようなので、もういいです。テントから出ます。」
身繕いを超特急でするイルカをカカシは手首を掴んで引き止めた。
「大丈夫だよ。イルカのことを看病しているのは、皆、知っているし、慌てなくても平気。」
掴んだ手首を、そのまま引き寄せて自分の腕で、丸ごとイルカを抱きしめた。



「背は伸びたけど体は、まだまだ小さくて子供だねえ。」
柔らかく腕を回してイルカの体を、カカシが全身で慈しんだ。
優しい手と声がイルカを包む。
「別れてから忘れたことなかったよ。忘れられなかった、イルカのこと。」
背中が、ゆっくりと撫でられてイルカは心地よさに体の力が抜けていく。
「カカシさん。」
ぺったり、とカカシの肩にイルカの頭が凭れた。
無性に安心した、あの時のようにカカシがイルカの傍にいる。
「でも、一つだけ大人になったね、イルカ。」
カカシは楽しげに言った。


「もう寝相は悪くなくなったんだね。」
ちょっと残念、と本当に残念そうなカカシの声が耳元で聞こえたのだった。




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