白く輝く月 2
くるりくるりと回りながら落ちていくような感覚が体を支配している。
そのくせ、回っているのに止まっているような、落ちているのに昇っているような。
おかしな感じがする。
辺りは真っ暗闇で何も見えない。
いったい、どこへ行くのだろう。
・・・恋人には、また会うことが出来るのだろうか。
そして、気になる言葉。
魔法って、いったい・・・。
忍術じゃないのか?
あの老婆からはチャクラは感じなかった。
ということは。
考えようとしたのだが、頭の中もぐるぐるしていて纏まらない。
不意に、ぴたりと体の動きが止まった。
はっと気がつくと、そこは・・・。
見慣れた木の葉の里の、たくさんの店が立ち並ぶ大きな通り。
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
送ってあげようとは、木の葉の里まで送るという意味だったらしい。
でも、どうやって?
分からないことばかりだ。
不可思議でしょうがない。
あの老婆は、いったい何者だったのであろうか。
あたりを見回すと賑やかで人も多い。
夕方の買い物客で賑わっているのだろう。
よく見ると店先には南瓜のオブジェを置いている店が多い。
南瓜はくり貫かれて、顔が彫ってある。
少し怖い顔が。
そして、何故か橙色の色や光が多く、異国の情緒を感じさせる。
これから、どうしたらいいのか・・・。
心細くなったイルカは、うろうろと当て所もなく通りを彷徨って、きょろきょろして前を見ていなかったのか。
どん、と誰かにぶつかった。
咄嗟に「あ、すみません」と声を出そうとしたのだが、声は出なかった。
上を見上げると小さい子供。
その子供より、小さくなっているのにイルカは漸く気がついた、
「駄目じゃない、よく見て歩かないと」
「・・・小さい子には配慮しろ」
言われているのはイルカがぶつかってしまった子供だ。
「へへ、ごめんってばよ」
その子供は金色の髪の男の子で、イルカには見覚えがあった。
桃色の髪の色と紺色の髪の色の連れの二人の子供も知っている。
三人ともイルカのアカデミーでの教え子だ。
金色の髪の子供が、しゃがんで今のイルカの目線に合わせてくれた。
優しい子だ。
「どこも怪我してないってば?」
よしよし、と教え子に頭を撫でられて微妙な気持ちになる。
「可愛い子ね。もしかして、迷子?」
お父さんとお母さんは?と桃色の髪の女の子もしゃがむ。
「・・・いっぺんに話しかけるから、びっくりしているぞ」
紺色の髪の男の子は、しゃがみこそしなかったがイルカを驚かさないように静かな声を出した。
「あ、ごめんね」
「ごめんてば」
声の出せないイルカは、ぷるぷると首を振る。
首を振ることしか出来ない。
「・・・なんか可愛いかも」
きら、と桃色の髪の女の子の目が光った。
女の子は可愛いもの好きだ。
「ちっちゃくて、細くて、手の平サイズで」
「・・・手の平サイズはないだろう」
紺色の髪の男の子が的確な突っ込みを入れた。
「ところで、どうして、こんなところに一人でいるんだってば?」
どうしてって・・・。
説明しようにも言葉が出ない。
出来たら、子供たちの誰かが自分の変化に気がついてくれて名前を呼んでくれないか、と微かに期待した。
しかし、期待は無駄に終わった。
「きっと迷子よ」
桃色の髪の女の子が、きっぱりと言う。
「今日は人出が多いし、ご両親とはぐれたんだわ」
「そだな〜」
金色の髪の男の子も同意する。
「俺たちみたいに異国のお祭りの日だからって見物しようと、里中に繰り出す人も多いしな〜」
「・・・迷子なら、本部に連れて行くか」
本部とは大人の忍がいる場所だ。
治安を取り締まったりしている。
「それがいいわね」
じゃ、と三人の手が同時に出された。
「手を繋いで」
しかし、イルカの手は二本しかない。
手を繋ぐのを選べるのは二人だけ。
気持ちは嬉しいが、誰を選んでも残った一人に悪いような気がする。
困った、とイルカが三人を見上げると・・・。
金色の髪の男の子が、にこり。
桃色の髪の女の子も、にこり。
紺色の髪の男の子は、無愛想だった。
つんつん、と桃色の髪の女の子が紺色の髪の男の子を肘で突付く。
「ほら、笑わなきゃ。怖がっているわよ、この子」
女の子に促されて、紺色の髪の男の子は引き攣った笑いを浮かべる。
多分、これで精一杯のはずだ。
元々、笑うのが得意ではないのだから。
くすっ。
子供たちの様子を見てイルカの顔が緩んだ。
どの子も成長している、優しく頼られる大人へと。
「あ、笑った!」
「ほんと、ますます可愛い!」
「・・・誰かに似ているな?」
そのときだ。
あ!
声は出なかったがイルカは目を見張った。
子供たち三人の後ろを通り過ぎた人物に目が釘付けになる。
男女の二人組みで横顔が、ちらっと見えた。
その横顔をイルカは絶対に見間違うことはない。
何年経っても鮮明に記憶の中にある。
咄嗟に、その二人をイルカは追いかけた。
待って!
声は出ない。
必死に追いかけた。
だけども子供の小さな足では、たかが知れている。
イルカの追いかけた二人は人ごみに紛れ、やがて姿が見えなくなった。
・・・行っちゃった。
二人の消えた人ごみをイルカは見つめ続ける。
・・・せっかく会えたのに。
せめて、声を聞きたかった。
聞いてみたかった。
もう一度だけ、自分の名前を呼んでほしかった。
それだけなのに。
視界が、だんだんと歪んできた。
唇を噛んだイルカは、ぎゅっと拳を握る。
俯いた拍子に、また誰かにぶつかってしまう。
誰かの足に激突してしまった。
「あれ〜?」
頭上から声が降ってくる。
「こんな時間に小さい子供?」
大人の男性の声だ。
それも耳に馴染んだ懐かしい声。
「おやおや、大丈夫?」
優しい声を掛けてくれた人は手を伸ばしてイルカの頭を撫でてくれた。
その後、ふわっとイルカの体は宙に浮く。
気がつけば抱き上げられて腕の中。
恋人の腕の中にいた。
白く輝く月 1
白く輝く月 3
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