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白く輝く月 3



抱き上げられたイルカは急に目線が高くなった。
下ではイルカを追いかけてきた子供たちが息を切らせている。
「あー、カカシ先生!」
「その子、足速い〜」
「・・・見つかってよかった」
イルカの無事を口々に言っている。
「ごめんね」
胸に罪悪感が湧き上がってきたイルカは素直に謝った。
みんな、自分のことを心配してくれたのだ。
「ごめんなさい」
しゅんとして俯くと、ぽんぽんと頭を軽く叩かれた。
顔を上げると微笑む恋人の顔が、すぐそばにある。
イルカの恋人の名はカカシ。
さきほど子供たちが呼んだ名だ。
カカシ先生と呼ばれている。
子供たちの先生で上忍。
そしてイルカと同じ男性であった。



「なーにやってんの?」
カカシが子供たちに問いかけると子供たちは順々に答えた。
まるで連携プレーのように。
さすがスリーマンセルを組むだけあって、息はぴったりのようだった。
「今日は異国のお祭りの日で里の中が賑やかだったから、見物しに来たってば」
「あ、もちろん、カカシ先生の課題をちゃんとやってからですよ。そしたら、その子に」
桃色の髪の女の子がイルカを指差す。
「ぶつかっちゃって。この人ごみで迷子になったようだったんで」
「・・・更に迷子にならないように俺たちで本部に連れて行こうとしていたところだ」
「ふーん」
子供たちの話を聞いたカカシは目を細める。
「なるほどねえ」
異国の祭り、と口の中で呟いている。
「その異国の祭りってのは何なの?」
質問してきた。
こういうイベント事に強いのは女の子だ。
桃色の髪の女の子が嬉々として説明した。
「十月の三十一日に行われる秋の収穫を祝ったりお祭りで、南瓜の中味をくり抜いて、その中に蝋燭を灯して飾ったりするんです」
「へえー」
「そうだったのか」
傍らで聞いていた金色と紺色の男児は今更ながら、お祭りの概要を知ったようだ。
「それで、この日は死者の霊が帰ってきたりもするんですが、魔女なんかも出たりするって言われていて、ちょっぴり怖いお祭りなんですよ」
他にも家々を回ってお菓子を貰ったり悪戯したり、異国ではするみたいです、と。
女の子の説明は終わった。
「なるほどね、解った。ありがとね〜」
カカシは腕の中のイルカを抱えなおすと子供たちに告げた。
「この迷子の子は俺に任してちょうだい。責任を持って対処するから」
「はーい」
「お祭りを見物するのはいいけれど、あんまり遅くならないようにね」
注意するのも忘れない。
「うん、解ったってば!」
「その子のこと、よろしくお願いしますね」
バイバイ〜と子供たちは手を振る。
三人が連れ立って行こうとしたときだ、紺色の髪の男の子が振り返った。
じっと、カカシの腕の中のイルカを見る。
「うん、どうした?」
「その子は、もしかして・・・」
口篭る。
それから、ぶんと頭を振った。
「いや、そんなはずはない・・・」
じゃあな、と言い残すと先に行った男の子と女の子を追いかけて行ってしまった。



「さてと」
子供たちを見送ったカカシはイルカを見て、にっこりを笑う。
イルカの知る限りでは最上級の上機嫌の顔をしていた。
「ど〜うして、こんなちっちゃくて、可愛らしくて、手の平サイズの姿になっちゃったんでしょうね」
思考は女の子と同じらしい。
腕の中のイルカを一目も憚らず、抱き締めた。
「俺の可愛い恋人は!」
とっくにイルカだと気がついていたカカシであった。
「話によると今日は特別な日らしいですから、不思議なことが起こっても不思議じゃないみたいですね」
よく分からないことを言っていた。
「ま、元に戻るお呪い的な何かがあるんでしょ?」
イルカは急いで、こくこくと頷いた。
ただ、名前を呼んだくれさえすればいいのだ。
そうすれば、元の姿に戻れる。
「今の姿の声で俺の名前を呼んだほしいなあ〜」
カカシが、おねだりしてきた。
「子供の頃の声が聞きたいです」
しかし、声は出ないのだ。
・・・どうしよう。
途方に暮れたイルカの顔を見てカカシは慌てた。
「そんな悲しい顔しないで。もしかして声が出ないの?」
こくり、とイルカは頷く。
話が出来ないのだ。
「そうなんだ〜」
ちょっと残念、と肩を竦めたカカシはイルカを抱いたまま歩き始めた。
「ま、お呪い的な何かについては凡そ見当がついているで心配しないでください」
出ている片目でウインクしてくる。
後で解いてあげますから、と。
「今日の里は雰囲気が違っていて面白そうですよ」
少しデートと洒落込みましょう、とカカシは、うきうきとしていて足取りは軽い。
カカシがいることで元気付けられたイルカは既に安心しきっていた。



「なんか、いっぱい食べましたね」
里中での異国の祭りを模したものが色々と売られており、食べ物も様々なものが売っていた。
それは主に南瓜を主とした、お菓子やパンなどが多かった。
「美味しかったですね」
カカシに話しかけられてイルカは頷く。
二人は今、火影の岩の上にある高台に来ていた。
周りに人けはなく、二人だけ。
空は満点の星空だ。
高台からだと里の、街の明かりがよく見える。
家々の窓からもれる光は柔らかで暖かい。
一つ一つが、まるで宝石のようだった。
「夜景が綺麗ですねえ」
しみじみと呟くカカシに、イルカは心の中で同意する。
家の明かりに懐かしさを覚える。
あの一つ一つの家の中に家族がいて暮らしているのだ。
今のイルカにはカカシという恋人がいる。
家族も同然の。
「寂しくなっちゃったの?」
つん、とカカシがイルカの頬を突付いた。
「そろそろ、元の姿に戻りますか」
小さい姿も可愛くて好きだけどね、と言うとカカシはイルカに微笑みかけた。
「こっち向いて」
いまだ、イルカはカカシの腕の中だ。
イルカがカカシの方を向くと・・・。
ちょん。
唇にキスをされた。
触れるだけの。
だが、しかし。
キスだけではイルカの姿は元に戻らない。
「え?え、なんで?」
カカシが慌てている。
「普通、こういうときって愛する者のキスで元の姿に戻ったりするんじゃないの?」
どうして、とカカシは、またイルカにキスをする。
ちゅっちゅっちゅっ。
唇に額に頬に。
くすぐったくてイルカは身を捩った。
それでも元には戻らない。
「そんな・・・。どうしよう、イルカ先生」
名を呼ばれた瞬間。
ほわわわ〜ん。
白い煙が辺りを覆い、煙が晴れたときには、そこには。
元の大人の姿のイルカが立っていた。



「イルカ先生!」
カカシが駆け寄ると照れくさそうにイルカは笑った。
「カカシさん、ありがとうございます」
ほっとしたように。
「お陰で元の姿に戻れました」
「キスじゃ戻らなかったよね?」
「はい、元の姿に戻るのにはキスじゃなくて、名前を呼んでもらうことだったんです」
「そっか〜」
キスじゃなかったと聞かされたカカシは、がっくりと肩を落とした。
「御伽噺とは違うんだねえ」
「そうですねえ」
「愛の力とは何だったのか・・・」
「愛の力は感じましたよ」
落ち込むカカシの手をイルカは握る。
「カカシさんの愛を感じました。俺を元の姿に戻してくれてありがとうございます」
声が出るのは素晴らしい。
恋人の名を呼べるのは嬉しい。
「デート・・・、楽しかったですし」
ぽっとイルカが頬を染める。
「カカシさんの名前を、また呼べるようになって良かったです」
「うん、そうだ〜ね」
イルカに言われてカカシは元気を取り戻した。
「やっぱり、元の姿のイルカ先生がいいですね」
このサイズが堪らない、と握っていない方の手をイルカの腰に回す。
イルカの体を引き寄せたかと思うとキスをした。
触れるだけはない大人のキスを。
キスが終わったとき、二人の顔は上気していた。
顔を見合わせた二人は優しく顔になっている。
「帰りましょうか、二人の家に」
「そうですね」
幸せそうだった。



夜空には白く輝く月。
その光が地上を照らしている。
ほんの瞬きをするくらいの時間。
輝く月を、ひゅんと何かが横切った。
月の光に照らされた、その影は箒に乗った魔女だった。



白く輝く月 2



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