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至難のわざ5



夕方、受付けに、しかもイルカに報告書を出しに来たカカシに、イルカは思い切って言ってみた。
悩んで悩んで、悩んだ末にだ。
「はたけ上忍、お疲れさまでした。」
そして、カカシの報告書を受けてとろうとすると何故か、カカシが動きが止まっている。
小さな声が聞こえた。
「はたけ上忍・・・。なんで、そう呼ぶの?」
カカシの戸惑いが伝わってきて、逆にイルカが戸惑ってしまう。
「なんでって言われても。あの・・・。」
「ちゃんと、いつもの通りに呼んでよ。」
カカシさんって、と要求されたイルカは、本当に訳が解らなくて目を、ぱちくりさせた。
だって、嫌いになれって言ったじゃないか。
抗議の意味を込めて、無言でカカシを軽く睨むとカカシは眉間に眉を寄せる。



「イルカ先生。」
カカシはイルカに報告書を出すと不機嫌な声で言った。
どうやら、少し怒っているようだ。
「俺たち、話し合う必要がありそうですね。」
それは、とてもあると思う。
そう言いたかったが、カカシの迫力にイルカは頷くだけしかできない。
「もう、仕事終わりの時間ですよね。なら、飯でも食いに行きましょう。」
イルカの仕事時間を熟知していたカカシに夕食に誘われたのだった。




こんなに気まずい雰囲気で美味い飯が食えるのか。
でもカカシに逆らうことが出来なくて、イルカは大人しくカカシに付いて行く。
行った先は、よく行く馴染みの店でカカシもイルカも気にいっている店だった。
店に入るとカカシは手際よく、イルカの好みのものばかり注文してくれる。
それが、また悲しかった。



嫌いになれと言われたのに、その言われた本人に気を遣われている。
この状況は、いったい何々だろう。
絶望的な溜め息が出るのを堪えて、イルカはカカシに言った。
「あのう、カカシさん。」
「ん、なんですか?」
カカシが、いつもの調子で聞いてくる。
いつもの調子とは、イルカがカカシに告白する前の間柄、すなわち親しいだけの時だった頃のようにだ。



「俺たちの、今のって立場分かっていますか?昨日、言ったこととか・・・。」
「ああ、そのことですか。」
カカシが頷く。
「嫌いになってほしいとはお願いしましたけど、不仲になりましょうとは言ってないでしょう?」
たっぷり一分間はイルカは黙っていたと思う。
カカシの言っていることが理解できなくて、言われたことを飲み込むまで時間が掛かったのだ。
「・・・・・・・・・え?」
たっぷり一分間が黙って出た言葉は、在り来たりで間が抜けていた。
「・・・・・・・・・は?」
イルカは、言葉が続かない。
「・・・・・・・・・な?」
意味不明な言葉になってしまう。



「エハナって何?」
イルカの発した言葉にカカシが首を傾げている。
「暗号?隠語?流行り言葉?花の名前?お菓子の名称?本の題名?」
「・・・どれでもありません。」
やっとのことで、イルカはそれだけ言った。
表情は極めて暗い。


「ふーん。そうなの。」とカカシは、それ以上追求せずに、イルカに運ばれてきた料理を食べるように促した。
「あったかいうちに食べましょう。」
カカシは、そう言ったが、寂しいような悲しいような辛いような、その総てが入り混じって自分でも判断がつかない気持ちで胸が締め付けられるように苦しいイルカは食べた料理の味が、まるで砂でも噛んでいるようで全く味がしなかった。
同じ料理でも前は、あんなに美味しかったのに。



店から出て少し歩くと、それぞれの家への分かれ道に来た。
イルカはカカシにご馳走になった礼を述べ、別れの挨拶をする。
「あの、今日はこれで。」
今日は、なんて言って明日はあるのか。
もう会いませんとか、これからは他人行儀でとか、言うこと色々あるだろう。
イルカは自分を叱咤したが、出た言葉は「さようなら。」で精一杯だった。



別れ際、カカシは、いつもの通り微笑んだ。
「寒くなってきたから暖かくして寝るんだよ。」
ちっとも嫌いになれない口調だった。
優しくて穏やかで大好きな声だ。
「風邪、引かないようにね。」
聞いていると泣きたくなってくる。
「じゃあ、おやすみ。」
最後に「イルカ。」と名を呼んでカカシは去って行く。
イルカの名前を呼んだ響きが、愛しげだったのは気のせいか。




その後ろ姿を見送ってからイルカは、くるりと身を翻して自らの家の方角に歩き始めた。
もう寒いのか、吐く息は白い。
カカシの言っていることは矛盾だらけで、意味が解らない。
何を考えているのかも不明だ。
嫌いになれなんて言っておいて、それでも優しくしてくれるカカシさん・・・。
はあっと息を吐いてイルカは夜空を見上げた。
幾万の星が瞬いている。



あの星々に比べたら、俺の悩みなんて、ちっぽけなものだけど。
イルカは、きゅっと唇を噛む。
好きな人を嫌いになんてなれないよ。
積年、積もりに積もった、この想いが砕け散ることなんてあるのだろうか。
いや、ない。
そんなこと、出来やしない。
イルカが再び吐いた息は、白く冷たく、夜空に吸い込まれるように消えていったのだった。



至難のわざ4
至難のわざ6





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